香港の今を体感せよ!香港インディペンデント映画祭2017 in 大阪
日本初公開の香港インディペンデント映画を9本一挙上映する香港インディペンデント映画祭in大阪。もう明日が最終日となるが、どの作品も香港の人たちが抱く様々な危機感、なんとか自由を守ろうと闘う姿勢が浮かび上がり、本当に見応えがあった。
特に私が心動かされたのはヴィンセント・チュイ監督の『憂いを帯びた人々』(01)。97年の返還前後の香港人の心の揺らぎを、香港だけでなくサンフランシスコ、北京、深センを舞台に、軽々と場所を飛び越えながら手持ちカメラで描いていく香港初のドグマ映画。主人公たちのバックグラウンドに、天安門事件や文革など中国の歴史を絡ませ、過去とどう折り合いをつけながら生きているのかも描かれる。移住する者、留まる者、それぞれの選択が迫られた時期の物語は、くしくも今の香港の置かれている状況とも重なり、時を越えても色あせない作品だと実感させられる。
ちなみに、本作でデビューを果たしたのが今や香港映画界の人気スター、ショーン・ユー。『恋の紫煙』のように年上の編集長にまとわりつくキュートなダメ男っぷりが、デビュー当時も今も変わらんなぁ~とトークで語った本映画祭の主催者、リム・カーワイさんの言葉に納得!
もう一本のヴィンセント・チュイ監督作品『狭き門から入れ』(08)は、10年近く前に、既に今の香港の状況を予見していたのではないかと思うぐらい。企業と官僚の癒着、殺人事件を通じた利権がらみのスキャンダルを暴くサスペンスであると同時に、そこに散りばめられるセリフから、真実の追及が難しい社会への宣戦布告のようにも見える。これ、他人事じゃないと思うのは、きっと私だけではないだろう。香港人がずっと抱き続けてきた危機感を、今こうやって目の当たりにすることは、思った以上に意味がある気がしている。どちらの作品も何の説明もなくテンポよく展開。説明といえば、テレビやラジオで流れる時事ニュースが、彼らのおかれている状況を示してくれるぐらい。そして、ラストは登場人物の一人がある思いを抱えながらどこかへ向かう姿で終わっていく。ここからはあなたの話だと言わんばかりに。自らインディーズの制作、配給を手掛ける会社を立ち上げ、インディーズだけでなく、メジャー映画も撮る、まさに香港インディーズ界の中心人物。香港では法律が変わり、近々中国のように映画の検閲が厳しくなると聞く。ますますインディーズ作品を作りにくくなる、もしくは作っても上映できない環境の中、このような国外の映画祭で上映されることが、今まで以上に意義のあることになってくるのだろう。
そして、短編集からイン・リャン監督の『九月二十八日・晴れ』。以前大阪アジアン映画祭で上映された『慰問』(10)の一貫して客観的な視点とはまた違う趣きで、雨傘革命が起きた当日のある親子のひと時を映し出す。老人ホームへの入居を決めた父親の元を訪れたのは、結婚するまで同居していた次女。他の子どもたちとの接点はなくなってしまった父だが、次女だけは父の事を気にかけ、時々訪れていた。そんな娘に自分の決意を告げる父。テレビではデモの始まりを告げ、次女の電話には同志からの連絡が度々入る。予約していたランチをキャンセルし、家にあるキャンベルの缶詰でありあわせのスープを作ると「母さんと同じだ」。この一言だけで、夫婦の在りし日の姿がありありと浮かんでくる。テレビでは警察との衝突がさらに激しくなる映像が。申し訳なさそうに父の元を去る次女にかける言葉は「逮捕されたら迎えに行くよ」。娘の覚悟を受け止める父の姿に、胸が締め付けられる。
撮影はホアン・ジー監督のパートナーでもあり『卵と石』(大阪アジアン映画祭2013で上映)、『The Foolish Bird(原題)』を共同制作している大塚竜治さん。上質なカメラワークで、人生の終わり方を自ら決断した父親の姿を静かに映し出す。短編でこの充実感、さすがはイン・リャン監督だ。
そして、今回の一番の目玉とリム・カーワイさんが勧める作品は、ドキュメンタリー映画『乱世備忘ー僕らの雨傘運動』。2014年に起こった雨傘運動の始まりから終わりまで70日以上の記録だ。自らも運動に参加しながら撮影していたチャン・ジーウン監督が、撮影しながら出会った人たちにスポットを当てながら、テント村のようになり、共同生活する運動の日々を映し出す。運動が日常になっている姿、臨時の学校まででき、ボランティア学生が教えていたりと、意外と思えるような一面も映し出される。警官隊との衝突などは、日本でも辺野古の基地反対運動と重なり、なんとも言えない気分にもなる。香港で起き、日本を含めた周りのアジアの国に大きな影響を与えた雨傘運動の全てがそこにある。明日(9日)20:10より最終上映。
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