『ボンジュール・アン』カンヌからパリへ。旅のお供、フランス男性のもてなし上手にウットリ

50代になっても美しいダイアン・レイン。そんな彼女も、ハリウッドではなかなか同世代女性がヒロインとなる映画がないという問題意識を抱いていると、GLOBE紙のインタビューで読み、フランスならともかくそれ以外の国はどこも同じなのかと妙に納得した。


フランシス・フォード・コッポラ監督の妻であり、ドキュメンタリー作家エレノア・コッポラ監督の初長編作。自身の体験を基にということで、ヒロインのアンは有名映画監督の妻という設定。カンヌに行った夫婦が、夫である監督は仕事で急きょ別の場所に飛ばなくてはならなくなり、妻のアンだけでは不安だからと映画プロデューサーの仲間であるフランス人のジャックに付き添いを依頼する。2泊3日でカンヌからパリまで2人きりの車旅がはじまる。


決してイケメンという訳ではないジャックだが、美味しいものを知っている、美味しいワインを知っている、美味しいレストランを知っている。それだけではなく、先を急ぐアンを「人生は楽しむもの」と積極的に寄り道に誘う。車がエンストして焦るアンを横目に、川辺にシートを敷き、サンドイッチとワインで大人のピクニックと、今この時にできること、やりたいことをどんどん仕掛けてくる。しかも決して押しつけがましくなく。途中「お金を貸して」と言われ、プロデューサーという仕事柄かなりの窮地に追い込まれていることも示唆されるが、それでもほぼ初対面だったジャックに対する信頼が着実に築かれていく。


そんなアンが旅程が狂うにも関わらず、自ら寄り道を願い出たのが、パリから車で数時間のウェズレー。実は、私が一昨年初めてのフランス・パリ旅行の1日ツアーで訪れた地なので驚いた。サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路の始点のひとつとしても知られる村で、「ヴェズレーの教会と丘」として世界遺産に登録されている。アンが向かったのはサント=マドレーヌ大聖堂内にあるマグダラのマリアだった。そこを訪れることには深い意味があり、アンとジャックがお互い誰にも言わずにいた心の奥底にある事実を語る。二人の心の距離がさらに近づく、とても重要なシーンだ。夜に訪れているので大聖堂の外観は映画では分からないが、内観はバッチリ。懐かしい思いがこみ上げた。


サント=マドレーヌ大聖堂内部

サント=マドレーヌ大聖堂外観


2泊3日二人きりの旅で、手も握ることない大人の純愛ストーリー。もちろん妻のことを心配して毎晩電話してくる夫がいるから純愛とは言えないかもしれないが、それでも、人生にこれぐらいのご褒美があってもいいのではないか。いや、これが単なるご褒美で終わるかどうかは分からない。いずれにせよ、この2泊3日で、夫を支える生活を送ってきたアンが、ようやく自らの意思で動く力と意思を身に付けた。そんな風に変われるきっかけを与えてもらった。それだけでもこれからさらに年を重ねる自信がついたのではないか。フランス男性のもてなし、人生の楽しみ方に触れ、こちらもウットリ。まだまだこれからいいことあるかもなぁ・・・と、ちょっと希望が持てた。フフフ。