『残されし大地』ベルギー人監督が音で誘う福島・富岡町、動物と共に故郷に残る人々の想いとは?

この夏、関西では福島を題材とした新作映画が2本上映される。いずれも外国人監督によるものであるのは、奇遇とはいえ、何か大きな意味を感じずにはいられない。一本はキム・ギドク監督が日本に来て監督、脚本、撮影、照明、録音を全て一人で行った劇映画『STOP』。そして、もう一本はベルギー人ジル・ローランさんの初監督作となり、残念なことに遺作となってしまったドキュメンタリー映画『残されし大地』だ。


ジルさんが、日本人の鵜戸玲子さんと結婚、ベルギーで暮らした後、二人の子どもと共に日本で暮らすことになったのは東日本大震災後だが、ベルギーでも震災、原発のニュースには関心を寄せていたそうだ。そんなジルさんがこの映画を撮るきっかけになったのは、本作でも登場する福島県富岡市に親子で住み続けている松村さんとの出会い。既に海外へ福島の情報を発信し続けていた松村さんのことを知り、自ら手紙を書き、妻玲子さんが訳したものを届け、いざ面会するとその人柄と共に、その土地に惹かれたという。サウンドエンジニアとしてヨーロッパの映画現場で仕事をしていたジルさんも監督をするのは初めてだが、玲子さんは「テーマを持って、日本に来たからこそできることをやる方がいいのではないか」と背中を押したという。


映画では、とても繊細な音まで聞こえてきて、映像を見ながら、一瞬目を閉じて、いずれにしてもふっと体が福島・富岡市に誘われていくようだ。誰もいない街にも、風が吹けば幟のパタパタという音が聞こえる。むしろ、山間部に入った方が、草の音、松村さんが残って世話をしている動物たちの声など、音も豊かだ。


除染作業が粛々と行われる中、故郷に残る決意をした松村さん親子の営みやその活動だけでなく、自宅に戻るため、除染が難しい庭木を伐採し、自宅を片付ける夫婦の姿も。ご近所のお友達と地元産のイチジクを食べながら、お互いの将来について語り合う。それぞれの選択の物語は、観る者にも故郷とは?もしも故郷が奪われてしまうことが起こったとしたら?と様々な問いを差し出す。


まさに究極の「故郷」を想う物語かもしれない。編集のため戻ったベルギーで地下鉄テロに遭い、帰らぬ人となってしまったジルさんの想いが静かに伝わってくる作品だ。