『歓びのトスカーナ』陽光が包む、傷だらけでも負けない女たち

二人の出会いはなかなか強烈。なにせ、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ演じるベアトリーチェは、自身が過ごしている精神診療施設のスタッフのふりをして、新入りで全身タトゥーのやせ細ったドナテッラに問診をし始めるのだから。双極性障害を抱え、女王様のようなふるまいをするベアトリーチェと、壮絶な過去に苦しむドナテッラ。正反対のような二人が、精神診療施設を抜け出し、それぞれの失ったものに向き合うロードムービーでもある『歓びのトスカーナ』。女性二人の破天荒なロードムービーといえば『テルマ&ルイーズ』と比較されがちだが、本作の主人公二人が持つ心の傷の深さ、今置かれている状況は格段に厳しいものだ。


だが、その辛さを描きつつも、明るい時はとことん明るく、弾ける時はとことん弾ける。陽光が降り注ぐトスカーナを舞台にした人間讃歌として描かれ、人生の痛みや苦しみに手を差し伸べる友となった二人の旅路に本当にハラハラさせられる。ミカエラ・ラマツォッティ演じるドナテッラの願いを叶えるためベアトリーチェが前夫を出し抜くのも、見ている方としてはスカッとする。正しいことだけでは突破できない壁も、友のために自分流で突破していくベアトリーチェの型破りヒロインぶりが見事!


ベアトリーチェら、女性だけが暮らす精神診察施設の様子も興味深い。みんな日中は施設で花を育てたり、様々な仕事をし、お給料も貰える仕組みになっていて、日本の精神病院とは全く意味合いが違う。心の病を持つ人に対するイタリアの支援の現状に触れることができる作品でもある。


精神的に不安定な二人だからこそ、今やらねばならないことに目指して突っ走れる力強い女性映画。『人間の値打ち』パオロ・ヴィルズィ監督が描く、傷ついた女性たちの人生讃歌は本当にカラフルで、生きる力に満ち溢れていた。