『パターソン』ジム・ジャームッシュからの素敵な贈り物。何でもないような日常も、実は新しい驚きに満ちている。

これは紛れもなく、ジム・ジャームッシュからの贈り物のような映画だ。何も変わらないように見える日常でも、二つとして全く同じ日はない。そんな当たり前のことを、改めて感じさせてくれる。これって、実に地味だが、一番身近なことだし、目の凝らし方次第で、毎日を新しい気持ちで受け止められるきっかけを与えてもらった気分。そして、今の私は、大仰なものより、日々の中に違いを発見したり、喜びを見つけることに惹かれるのだ。


ニュージャージー州パターソン市でバスの運転手をする主人公パターソン。妻のローラと愛犬マーヴィンと暮らす1週間が規則正しく、淡々と綴られていく。仕事のため定刻にセットした目覚まし時計で目覚めるパターソン。ローラと一緒に眠るベッドの真上からカメラが捉える朝の風景からはじまる一日は、それだけでも日々向きが変わったり、片方が先に起きていたりと変化がアリアリ。定刻に出勤し、仕事後帰宅をするとき必ず斜めになっている自宅前のポストを正しい位置に戻し、家へ。自宅が仕事場のローラは、日々家の中を黒模様にペインティング。その浸食ぶりも面白い。週末に出店するお店に出すという真っ黒に白い水玉模様の不気味な!?ケーキを焼いたり、ちょっと微妙な趣味のローラがやることを、ニコニコと受け止めるパターソン。その穏やかな人柄に癒される。二人で夕食を取った後のパターソンの日課はマーヴィンの散歩がてら、近所のバーに行くこと。必ずカウンターでビールを頼むパターソンだが、バーではストーカー被害を訴える女と元夫の攻防や、マスターのウンチク話が繰り広げられ、これも日を追うごとに笑いを誘う。


単調な毎日の中、パターソンの中に積み重なっていくものといえば、運転の合間に綴っている詩。日々の風景や思いを詩にすることがライフワークのようなパターソンには、思わぬ出会いも用意されている。ローラと子どもは双子もいいねと話をしてから、日々街で、バスの中で双子と出逢うのも、私たちの予知能力を刺激する(そして双子のオカンである私の双子アンテナももちろん刺激!)。また、ある場面では初対面の少女と詩の話をする中、エミリー・ディキンソンの話で盛り上がったりもする。『パターソン』は、映画自体が詩的だし、詩に溢れた映画なのだ。


ただそれだけではない。地球侵略とか、大事件のような世の中を揺るがすことは起こらなくても、パターソン自身が立ち直れないぐらいのショックに陥る事件や、日々斜めになる郵便受けの犯人は?といった謎から、パターソンの秘密もしっかり仕込まれ、十分ドラマチック。そう、私たちは人からみればどうってことないことが、とても重要だったり、そこにこだわっていたりすることに気付かされる。


『ミステリー・トレイン』以来のジム・ジャームッシュ作品出演となる永瀬正敏の登場シーンも、色々なことを越えて人は通じ合えると思える本当に素敵なシーンになっている。見知らぬ男との出会いから、夜しか行くことのなかったバーに昼間訪れてみたり、右方向からしか歩いてこなかったパターソンが、左方向から登場したり、ほんの少しの変化を加えるだけで、違ったものが見えてくることを示している。人間そうそう自分のいる場所や環境を変えることはできないが、自分次第で様々なアレンジを加え、それを楽しむことができる。アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、カンヌでパルム・ドッグ賞を受賞したネリーをはじめとするキャストの飄々とした演技に乗って、彼らの生活に溶け込み、日常の可笑しさや尊さを一緒に味わうような作品。自分でも驚くぐらい気に入って、今年一番好きな作品となった。



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