『セザンヌと過ごした時間』Wギヨームが体現する巨匠二人の友情と別れ

片や画家、片や小説家の男同士の友情が、これほど複雑で、それでいて、忘れ去ることができないものであるとは。まるで19世紀後半のフランスにタイムトリップしたかのような濃密な時間が味わえる『セザンヌと過ごした時間』。監督は、『ラ・ブーム』の脚本でも知られ、『モンテーニュ通りのカフェ』では美術への造詣の深さや、会話の巧みさなどを存分に楽しませてくれたダニエル・トンプソン。もう大ベテランのトンプソン監督が、15年来温めていたのが本作。私たちは印象派の代名詞のような、オルセー美術館に行けばずらりと作品が並んでいる巨匠セザンヌしか知らないが、そんな彼も実はかなりの遅咲き。パリに出てきたもののなかなか売れず、実家のあるエクス・アン・プロヴァンスに戻ってしまう。一方、移民のゾラは学校時代、セザンヌと仲良くなったことで充実した日々を送り、親友として、堕ちる一方のセザンヌを金銭面でも支え続ける。なぜなら、小説家としてゾラは若くから活躍し、成功を収めるからだ。


陽光降り注ぐ、セザンヌのデッサンの舞台となったエクス・アン・プロヴァンス、鬱蒼としたパリ、ゾラが晩年を過ごした郊外のメダンと3つのロケーションで繰り広げられる二人の男の40年以上に渡る物語。実際セザンヌが使っていたアトリエや、ゾラが過ごしたメゾンでの撮影だけでなく、ゾラとセザンヌが最大の喧嘩をするゾラの古美術だらけの部屋など、とにかく美術面も素晴らしい。当時の若手芸術家たちが集まっての賑やかな会話は、トンプソン監督の真骨頂。世間話や女の話から始まり、写真技術が出てきたことへの焦りなど、いつの時代も新技術の誕生は芸術家を脅かすものだなと感心してしまうほど。


そして、何といってもリアリティーがあるのが、セザンヌ演じるギヨーム・ガリエンヌと、ゾラを演じるギヨーム・カネのWギヨームコンビ。くしくも二人とも監督業もこなす名俳優の演技対決は、とにかく見応えがある。セザンヌの元カノがゾラの初恋の人で、後に妻となったというところからみても、普通は穏やかならぬ関係だが、それでも長く友情は続いた。むしろ二人の友情に影が差したのは、ある小説がきっかけとはいえ、お互いの立場があまりにも違いすぎたから。仕事も家庭も順調、社会的な評価を十分えているゾラと、引きこもってどこに発表できるわけでもない絵ばかり描いている、世捨て人のようなセザンヌ。変わってしまったのはどちらかは映画を観れば分かるのだが、セザンヌが最後にみせる表情は目に焼き付いて離れない。巨匠だったはずのセザンヌが、いつの間にか感情移入できる親しい人のようになっていた。何度見てもじわりと胸を打つ、とても豊かな映画。登場人物たちの会話の妙も、ぜひ楽しんで。



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