『あさがくるまえに』美しい映像で綴る、二組の母と息子が対峙する”いのち”の物語

朝方、恋人にキスをして窓から飛び出し、ボードを車に乗せて友人と海に向かう青年。青春のなんてことのない、でも瑞々しい一コマは、海でもチューブを抜け、ポスターカラーの青が印象的な情景が広がる。波乗りを終え、車で帰路に着く途中で事故に遭う前での冒頭の数分で、帰らぬ人となってしまうシモン(ギャバン・ヴェルデ)の生の輝きをエネルギッシュに映し出すのだ。


タイトル『あさがくるまえに』が示す通り、事故でシモンが脳死状態となってから、その命が受け継がれていくまでの丸一日を描いた本作。端的に言えば臓器移植の話だし、確かに生々しい場面もあるのだが、感傷的というよりむしろ粛々と描かれ、泣かせる話にしていない。シモンの両親、とりわけ母マリアンヌを演じるエマニュエル・セニエの現実を受け入れる間もなく、次なる判断に迫られ、悲しんでいる暇もない様子が逆にリアルに感じられる。それだけ、命をつなぐということは、一瞬を争うことなのだ。


本作で描かれるもう一組の母と息子は、臓器移植を受ける側となるクレールとその息子たち。クレールを演じるのは、グザヴィエ・ドラン作『Mommy/マミー』で多動性障害(ADSD)の息子と必死で向き合う母親を演じたアンヌ・ドルヴァル。破天荒な母親役が印象的だったが、今回は息子たちに心配される側の、心臓を患う母親を演じている。二人の息子たちは性格も態度も全然違うが、母親を心配する気持ちは同じ。母親のベッドに息子たちが集合し、テレビで流れる『E.T』を一緒に観ているシーンは私のお気に入り。いくつになっても母の傍にいたい息子たちの姿が微笑ましい。この後病院に向かうクレールの精神的な支えになっているはずだ。人には寿命があると、心臓移植を最初は拒んでいたクレールだが、きっとこの子達のためにもまだ生きたいと切に願っているはず。


臓器移植コーディネーターのトマ(タハール・ラヒム)がシモンを最後まで尊厳のある存在として扱っているのも、静かに胸を打たれる。命を扱う仕事の心構えを体現しているかのような厳粛かつ気持ちのこもった別れの儀式。交わることのない二組の母と息子、シモンの恋人など様々な人たちの運命を変えた一日が、一連の詩のように綴られ、生と死について、観終わって静かに考えを巡らしたくなる作品。まだ若いカテル・キレヴェレ監督の今後が本当に楽しみになった。