『AMY SAID エイミー・セッド』大橋トリオのテーマ曲がリフレインする大人の群像劇

ずっとずっと頭の中でリフレインしている『AMY SAID エイミー・セッド』の主題歌。実名役で登場する大橋トリオのメロディーは、物憂げで、セピア色の青春を思い出す40代男女の物語にしっくり馴染む。村上淳、三浦誠己、渋川清彦、山本浩司、大西信満、渡辺真起子ら、映画界で独自の個性を放ち続ける名優たちが所属する俳優のマネージメント集団ディケイド。設立25周年記念の映画は、私の好きな俳優さん揃い。しかも舞台劇にもなりそうな密室劇なので、色々なハプニングや空気が変わる瞬間を作り上げる役者たちの芝居ぶりを、ちょっとドキドキしながら楽しめた。


元映画研究会に属していた同級生たちの物語は、学生時代に自殺したエミのことがそれぞれの胸に引っかかっている様子が一目で伝わってくる。抜けない棘のように、口にしてもしなくても、その不在感がその場を支配する。怪しげな投資話をもちかける同級生の裏にいるヤクザ(村上淳)が店外で脅す中、エミの死の真相を巡る話や、40代の今思う本音が混じりあう。学生時代の映像も交え、密室劇でも飽きさせない。この作品でデビューを飾る若い俳優たちが、部室に集まって映画を作る役を演じるというのも、ある意味貴重だ。


映画が好き、俳優が好きで髪形や服装を真似した学生時代。今、映画業界に残っている人間は売れない俳優の岡本(山本浩司)だけだ。現実は厳しいけれど、夢は夢として生きていく彼らは、戻れるところがある。同じ悲しみ、同じ感動、同じ青春を共有した仲間に贈る物語。それは変化の波にもまれても映画を愛し、ディケイドで切磋琢磨しながら俳優の仕事を全うしようとしている出演者の皆さんの物語にも見えた。


ミニシアターの上映時は、出演者自らが舞台挨拶やトークショーに登壇し、ファンと交流する。パンフレットの代わりに販売されているクリアファイルはキャストが手描きイラストで網羅され、中には白い紙が。片面は出演者の今までの出演作がズラリ。そしてもう片面はサイン用とファンへの心配りが随所に。ミニシアターごとに文字色を変えた『AMYSAID』Tシャツを販売するなど、観客だけでなく、上映館も大事にしている。映画を作るだけでなく、届けるところに愛を感じる作品。きっといい会社なんだろうな。10年後と言わず、5年後の30周年にもぜひ、アラフィフの皆さんのまた新しい群像劇なんかができると、うれしいな。