地域から次世代映画を考える。シンポジウム第1部「映画はどこでもつくれる!か?~地方で映画を作るわけ~」

~京阪神ミニシアターの現状とインディペンデント映画上映スキーム~制作者の視点、上映者の視点

「地域から次世代映画を考える〜制作者の視点、上映者の視点〜」と題し、1月27日(土)京都文化博物館映像ホールで6時間に及ぶ上映+シンポジウムの豪華企画が行われた(立命館大学映像学部、NPO法人独立映画鍋、京都府京都文化博物館、関西次世代映画ショーケース実行委員会主催)。東京と関西地区のインディペンデント映画制作者や上映側が置かれた状況、課題、これから目指す方向などについて、意見交換や議論を行い、熱気に溢れた時間となった。


第1部のゲスト作品上映に引き続き、第2部のシンポジウムでは、前半が「映画はどこでもつくれる!か?~地方で映画を作るわけ~」と題し、歌川達人さん(NPO法人独立映画鍋)の司会により、お互いの考えや体験を真っ直ぐにぶつけあった。登壇者は、銀行で働きながら、行政や企業からの依頼で映画やCMを撮っているという香川県在住の香西志帆監督。12年に大和郡山で長編初監督作品『茜色の約束』を手がけ、現在長編二作目『かぞくわり』を制作中の塩崎祥平監督、16ミリフィルムによる釜ヶ崎を舞台にした人情喜劇『月夜釜合戦』が大阪、神戸で大反響を呼んでいる佐藤零郎監督、どうすれば地元で映画を作ることができるかを学生時代から模索し、今は大学非常勤講師、名古屋シネマテークのアルバイトをしながら、映画制作を行っている名古屋県在住の酒井健宏監督の4名。

まず、歌川さんは、「日本における、僕達が作っている映画をきちんと説明して、広めていけたら」と、韓国における多様性映画の5つの定義(1.芸術性や作家性を大事にする映画、2.映画のスタイルが革新的であり、美学的価値がある映画、3.複雑なテーマを扱い、大衆が理解しがたい映画、4.商業映画の外で、文化的社会的政治的イシューを扱う映画、5.他国の文化や社会に対する理解に役立つ映画)

および、フィルメックスでの議論の中で浮かび上がった2点(1.作家の視点が色濃く織り込まれている映画、2.作りての実人生と切り離せない映画)を提示。それぞれの作品が上記のどれかに該当しているか。地方に住んでいる人が多様な映画を作ることにどんな意義があるのかを問うところから、本格的なディスカッションが始まった。


■インディペンデント映画の定義とは?

●「人生と切り離せない物語を書く」ことは、地域で作る人は一番できること(塩崎)

塩崎:どんな作家でも、作り手の実人生は必ず入っているし、特に地域で作る人は地元にいて、一番できること。大学で勉強している時に一番最初に言われたのは「人生と切り離せない物語を書くことからスタートしなさい」。


●「地方に住み、住んでいる地域で映画を作った時、出来上がった映画がインディペンデント映画でしかありえないのか」(酒井)

―――酒井さんは、名古屋で映画を作っている人たちや、名古屋で作ることの意義をどう感じているのか?

酒井:自分がアーティスト、作家でありたいと思っている人が名古屋にたくさんいる。(フィルメックスからの意見に関係して)地方在住の人が地方で撮る映画で、インディペンデントでないものは存在するのか?地方に住んでいて、住んでいる地域で映画を作った時、出来上がった映画がインディペンデント映画でしかありえないのか。少し地方の視点に欠けている。最初は地元で作りはじめ、東京に出て活躍する名古屋や京阪神の人が多い。


●「やらなければならない仕事と労働を切り分けている。悩みは商業映画並みに労働の対価をどう出せるようにするか」(佐藤)

―――佐藤さんはインディペンデント映画という呼び名自体が嫌い?

佐藤:やらなければならない仕事と労働を切り分けている。商業映画は労働、賃金が発生する。インディペンデントはやらなければならないことを理由に、役者に対する賃金などは曖昧にしている。決して社会的に意義がある訳ではなく、それぞれにある美学の問題だが、美学はやらなければならない仕事と密接にかかわっている。それがインディペンデント映画の優先するべき部分。労働を優先すると出てこないもの。悩みは商業映画並みに労働の対価をどう出せるか。それがなければ1作目は勢いでできたとしても、自分たちがインディペンデントで作り続けることができるかは難しい。


―――香西さんは、労働として仕事をし、労働ではない形(完全ボランティア)で映画を作っているが、継続的に作ることの難しさを感じるのか?

香西:市からお金をもらって作っているので、インディペンデント映画になるのか疑問。原動力は応援して下さる方の多さ。この金額の中でいかに作品を作るかを考えているうちにモチベーションが上がる。自主映画スタイルで撮っているが、ほぼ依頼に基づいて作っているので、作家性は出しにくい。


●17名で出資した組合で新作を編集中。映画制作(物語上)に必要な職業の人たちに集まってもらい、映画ができたら一気に広げていきたい(塩崎)

―――塩崎さんが準備中の次回作は?

塩崎:奈良県桜井市で現在編集中。インディペンデント映画と言われればそうだが、東京他、できるだけ拡大する方向で配給したい。地域映画でも商業映画になり得た方がいい。ゼロから物語を起こして、資金を皆で集めてやっている。今は映画の権利を持っているのが、17名で出資した組合で、稼いだら、それを次の面白いことに使っていきたい。出資者は、映画制作に必要な職業の人たち。核家族の限界、ニュータウンの物語の物語なので工務店の社長や奈良県飲食関係の方もいるし、家族の問題に特化したカウンセラーや、神社仏閣が出てくるので住職、宮司さんもいる。テーマに沿った方々を集め、いざ作品ができたら、皆で広げられるようにし、地域で映画を作っている。


●地方にプロデューサーはいない(全員)

―――プロデューサーの存在がなく、自分でプロデューサーと助監督もやるので、監督(笑)という感覚だった。どうすればプロデューサーが見つかるのか?プロデューサーの果たす役割がどれだけ大事なのか?(酒井)

佐藤:最初はプロデューサーを探そうとしたが、フィルムで撮るし、釜ヶ崎で撮るし、誰もなりたがらなかった。スタッフの中で一番責任感のある人(中崎町ドキュメンタリースペースのメンバーの一人)がやってくれている。

塩崎:基本的にプロデューサーはいないので、自分の作品はかなりの部分を担った。資金をお願いするのも、「僕がやらないと」という流れになってしまう。地方で撮るとき、1~2ヶ月滞在するプロデューサーがいればいいが、奈良でプロデューサーといえば河瀬さんぐらいしかいない(笑)。

香西:数字とエクセルは苦手だけど、自分でやっている。苦い実体験や、東京から来たプロデューサーが地方で撮って、お金を持ち逃げされる事例を何件か聞いているので、私の中でプロデューサーは怖い存在。


●色々な場所で作るのは当たり前。東京一極集中でも、(地域映画を)ちゃんとビジネスにする考え方はあるべき。(塩崎)
●東京では16ミリというと難色を示される。関西ミニシアター凄い。(佐藤)
●全国紙掲載が観客動員に繋がる。作るのと同じぐらい広報は大変。(香西)
●名古屋から京阪神に広げられない。やり方が分からず体力の限界に(酒井)

―――上映をして見えてきた手ごたえや、課題は?

塩崎:奈良は県庁所在地に映画館がない唯一の県だが、大和郡山市で映画を作っているときに、奇跡的に映画館(イオン系シネコン)が出来た。(資金は出してくれなかったが)市長の旗振りで市役所の人をピックアップして7~8名の茜隊を作り、宣伝カーで回ってくれ、2万人動員した。ホール上映も奈良県内で飽きるぐらいやり、主人公のリカルドの住む群馬県に行ってイオン系の映画館で上映させてもらったりしたが、映画が回れば回るほど赤字。地元で上映すると、東京の劇場では「もうやったんでしょ?」と言われ、本当に広げるのは難しい。色々な場所で作るのは当たり前。東京一極集中は他の業界でも当たり前だが、ちゃんとビジネスにする考え方はあるべき。

佐藤:『月夜釜合戦』の大阪(シネ・ヌーヴォ)は初日満席、神戸(元町映画館)もそこそこ入った。京都(京都みなみ会館)は劇場が大きいのでここにいる皆が来てくれたら。16ミリで上映するのが意義あることで、関西は16ミリで上映できるのだが、東京で16ミリというと難色を示される。関西ミニシアター凄い。自主上映も展開していきたい。

香西:『猫と電車―ねことでんしゃ―』(主演:篠原ともえ)は、最初1週間の上映だったが、会場がいっぱいになったので、期間を置いて、もう一度上映し、毎回立ち席、補助いすもいっぱいのミニシアター動員記録を出した。100万円以下の低予算映画だったが、映画祭で10カ所ほどまわり、バルト7系でも上映。全国紙の新聞のコラムに書いてもらったのが観客動員に繋がった。銀行でも広報をしているので広報は得意だが、作るのと同じぐらいに広報も大変。

酒井:行政の下についている団体と一緒に作り、地元の防災イベントや学校の体育館で上映したが、先の展開をどうしていけばいいか。今までは名古屋シネマテークで上映させてもらったが、大阪や京都、神戸は今まで一度も実現できず、やり方が分からないまま、体力の限界になってしまう。


●地域映画ファンド、脚本に特化した作家を育てることが必要(塩崎)
●各地で眠っている機材を集め、メンテナンスをし、レンタルする場所がほしい(佐藤)
●地域映画が東京を経由して拡散される仕組みを変えることができれば(酒井)
●映画を作りたがっている企業はあり、作り手を探している(香西)

―――今後、インディペンデント映画の制作環境が良くなるために必要なことは?

塩崎:地域映画ファンドがあってもいいのでは。海外は地域に特化した地域映画ファンドがあり、企画開発から援助をもらえて充実している。根源には映画文化への価値観の比重があるが、地域で映画をプロデュースできる環境が整っていくのではないか。もう一つは、作家自体、プロデューサーも含めて全体的にレベルアップするようなことをしたい。地域でもクオリティのある作品があれば、おのずと劇場に取り上げてもらえる。脚本に特化して作家を育てることをもっとすべき。それは地域であってもできる。

佐藤:自分のやらなければいけない仕事と労働が一致するよう、目指していきたい。眠っている機材を一箇所に集め、使われなくなった機械をメンテナンスしてレンタルする場所が欲しい。

酒井:ミニシアターファンの人は目立たない映画でも面白いものがあれば見たいし、紹介したいと思っている。シネマスコーレも、多くは東京から来る映画を待っている状況。逆に地元映画や東京以外で作られている映画に対し、お客さんがアプローチしない。東京を経由すると拡散される仕組みを変え、新しい仕組みを組み立てられれば、地元映画が広く配給されていくのでは。入口から出口までの間に入る仕組みを、地域映画も考えていく必要がある。

香西:みなさんからの提案の答えになるか分からないが、地域映画を応援するファンドはある(イサム・ノグチの母を描いた『レオニー』で北海道の企業がファンドを設立、製作費を出資)。地方のテレビ局にある使わなくなる機材を入手することもできるし、さぬき映画祭のシナリオ講座のように、自分で脚本を書けば自主映画への興味が湧いてくるのではないか。ちなみに、映画を作りたがっている企業から声がかかるケースも多く、作り手を探している。

(江口由美)