『彼女たちの革命前夜』70年代イギリスのフェミニズム運動家が切り込んだ「ミス・ワールド」


 アメリカのフェミニズム運動のパイオニア、グロリア・スタイネムの人生を描く『グロリアス 世界を動かした女たち』、世界初の女性映画監督でありながら、長年消された存在と言われてきたアリス・ギイの人生とその足跡をたどる『映画はアリスから始まった』と、今年、フェミニズム映画が続々公開されている。まさに今の道を切り開いた先人の女性たちの志や闘いに今こそ触れてほしいという作り手や、その企画に賛同する出資者が増えている証なのかもしれない。コロナ下で多くの人が苦しい状況に追い込まれる中、そのしわ寄せが女性たちに向かうのではなく、むしろ家父長制をぶっ飛ばすぐらいの気概を持てと鼓舞されているかのようだ。従来男性たちがステイクホルダーのマスコミやエンターテイメント業界が、プロパガンダのように若くてスタイルの良い女性を賛美し続けたことで、女性たちにも若さや美しさが、価値基準のように刷り込まれ、自分らしく生きたり、ありのままの自分を肯定することができなくなってしまう人も多いのではないだろうか。


 そこに新たに歴史に残る名作が加わった。『彼女たちの革命前夜』は、70年代イギリスで実際に起きた世界で1億人の人が視聴したと言われる一大イベント、「ミス・ワールド」でのフェミニズム運動家たちによる抗議行動の一部始終を、ミス・ワールドの主催者、参加者の3つの視点で見事に映画化。女性を商品のように扱うミス・ワールドの審査員たちに大いなる嫌悪感を覚え、テレビの前で、ミス・ワールドに憧れる幼い主人公の娘の姿に、こうやって刷り込まれていくのかとゾッとした気分になる。今まで当たり前に流れてくるものを受け取っていたなら、ぜひ一度立ち止まって考えてみたくなるフェミニズム映画。エンターテインメント的要素に満ち、イギリスの名俳優たちが競演しているのも注目したい。


 シングルマザーのサリー(キーラ・ナイトレイ)は、もう一度学び直すべく、男性審査官の厳しい面接を突破し、ロンドン大学に通い始める。だが、女性たちの労働環境について研究したいと言うサリーに、担当教授はそんなマイノリティーの研究は意味がないとあっさり退けられ、男性の学友たちからも薄ら笑いをされる始末。大学に通いながら明らかな差別感情をぶつけられていたサリーは、一方で、女性解放運動にも参加し始めていた。その中でもヒッピーのような格好で、看板にスプレーで落書きをして回る過激なジョー(ジェシー・バックリー)に嫌悪感を露わにしたサリー。だが、サリーが大学のことで悩んでいたのに真っ先に気づいてくれたのはジョーだった。


 ジョーは最初からマスメディアが煽る女性差別的表現にNOを突きつけてきた人だ。そんな彼女にとって、女性を物のように品評し、白人優位主義を助長しかねない差別を煽るもとになるようなミス・ワールドは、ボイコット運動をし、女性の権利を訴えるのにまたとない舞台だった。一方、ミス・ワールドを立ち上げた運営者のエリック(リス・エヴァンス)は、いまや世界中の人が視聴する一大イベントになったミス・ワールドが差別主義と揶揄されることを回避するため、初めて黒人の参加者を招く。母国に戻ったらアナウンサーとして働くことを夢見るグレナダ代表のジェニファーは、国を代表してロンドンにやってきた参加者たちの秘めた想いをみせる。


 ミス・ワールドの舞台裏で、世界から集まった女性たち、とりわけ初参加国の代表たちの様々な事情を浮き彫りにし、人生を変えたいとチャレンジする女性たちの物語の触れる一方で、見た目もフェミニズム運動に対するアプローチも正反対のサリーとジョーがお互いの境遇を明かしながら、ミス・ワールドの会場に忍び込むために一致団結する姿がテンポよく描かれる。キーラ・ナイトレイが演じた知的で、合法的な方法で女性の権利を主張しようとし、時には壁の高さを突きつけられるサリー。ジェシー・バックリー演じるゲリラ戦法で壁などをけちらしてしまうジョー。二人の魅力をイギリスのこれからを背負って立つであろうふたりの俳優たちが本当に好演している。特に、『ワイルド・ローズ』でパワフルな歌唱を披露したジェシー・バックリーのエネルギーが、ジョーという役に完全にシンクロしていた。


 さらにサリーと母、娘という三代にわたる描写にも注目したい。離婚後実家に戻り、学校や活動の最中に娘の面倒をみてもらっているサリーの母との口論では、上の世代の女性の役割についての考えや家庭ファーストの考え方を突きつけられる。ただ、その言葉の裏には、女性の権利のために闘う娘への羨望の眼差しもあった。自分の世代でできなかったことを、次の世代には実現してもらいたい。負のバトンではなく、プラスのバトンをつなげるように。イギリスの70年代フェミニズム活動家たちが訴えたルッキズムへの痛烈な批判や、女性を若さ、美しさだけで物のように評価する風潮は、日本ではいまだに顕著だが、そうではないと声をあげ続ける勇気をもらった。




<作品情報>

『彼女たちの革命前夜』"MISBEHAVIOUR"(2019年 イギリス 107分)

監督:フィリッパ・ロウソープ

出演:キーラ・ナイトレイ、ググ・バサ=ロー、ジェシー・バックリー、キーリー・ホーズ、レスリー・マンヴィル、リス・エヴァンス、グレッグ・キニア

2022年6月24日(金)〜シネ・リーブル梅田、アップリンク京都他全国ロードショー

https://movie.kinocinema.jp/works/misbehaviour

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