『欲望の翼』改めて気付いたカリーナ・ラウの魅力

リアルタイムで鑑賞できず、レンタルビデオで借りてきたビデオで鑑賞し、それでもあっという間に虜になってしまった『欲望の翼』。初めてビデオで観てから15年近く経ち、まさか劇場でこの映画を鑑賞できる日がくるなんて。冒頭やラストなど、大体のシーンは覚えているし、サントラも聴いていた。とにかくこの作品にのめり込んでいた頃の自分を思い出すかのような映像体験になった。

日頃は最後列で観るのだが、何もさえぎられることなく観たかったので、シネ・リーブル梅田の最前列で。本当に古い友達に会うような気分だ。映画が始まると、サッカー場売店への通路を歩くヨディの足音がコツコツと大きく響く。音がいい。売店で仕事をするリーチェンに声をかける。時計も映る。伝説の「1分」エピソードだ。

デジタル・リマスター版だが、いわゆるデジタルっぽい鮮明さはなく、あくまでもオリジナル版の風合いそのままで、本当に感動。クリストファー・ドイルのキャメラが、これでもかというぐらい登場人物をクローズアップで映し出す。レスリー・チャンをはじめ、マギー・チャンらの瑞々しい表情に、ドキドキしっぱなし。短い会話と、登場人物たちが順番にモノローグで自分の心境を語るスタイルも独特だ。

そして、改めてじっくり観ると驚くことも色々あった。まず、リーチェンとヨディの強烈な恋のエピソードが実は冒頭10分ぐらいで終わってしまい、あとはひたすら心の隙間を埋める二人の姿を描いていること。もともと私はマギー・チャンが大好き。かつてWebで本名を明かさない時代のハンドル名として「リーチェン」を長年使っていたぐらいだから、今まではレスリーとマギー・チャンしか目に入らなかった。でも本作は、ほぼ別れから始まる物語だ。そして、カリーナ・ラウ演じる踊り子ミミは、ヨディが寂しさを埋める存在として登場する。恋は完全に独りよがりで「都合のいい女」扱いだが、かなりパワフルで、作品のトーンをぐっと明るくしてくれる本当に魅力的な存在だ。

実はこの春開催された第13回大阪アジアン映画祭で、カリーナ・ラウがプロデューサーも務めた主演作『青春の名のもとに』(タム・ワイジェン監督)が上映された。担任クラスの中学生男子と恋仲になる女性教師役で、大人の女性の魅力をみせる一方、途中ではチャチャっぽい踊りを踊ったり、作品の色合いも『欲望の翼』を思わせるものだった。そんな現在のカリーナをつい先日観たものだから、全身から情熱がみなぎるミミに今回は目が釘付け。

もう一点、ヨディと養母との間にある束縛関係も彼の背景を知る上でとても大事な描写だ。実の母親のことを知りたい一心のヨディと裏でお金をしっかり受け取ってきたものの、送金がない今でもヨディが離れることを恐れる義母。自由に生きたいのに、お互いを束縛してしまう関係をラブストーリー同様しっかりと描いていたところにも引きこまれた。

かつて観た時に感動した箇所はもちろんだが、新たに発見があったのは、その間私自身も少しは経験を積んだということなのかな。さまよう若者たち、鳴らない電話、すれ違う心。シンプルだが、60年代の香港で生きる若者たちの彷徨う姿がギュッと凝縮された、永遠の名作。現代の若い世代にもぜひ、ぜひ観てもらいたいな。

『青春の名のもとに』(タム・ワイジェン監督)予告編