「イスラーム映画祭3」4月28日より神戸・元町映画館で開催。主催者藤本高之さんが見どころを語る。

イスラームが文化として広がっている国や地域を舞台にした映画、イスラム教徒を主人公に据えた映画を取り上げる映画祭として、今年で3回目を迎えるイスラーム映画祭。関西では、昨年に引き続き、神戸・元町映画館にて、4月28日より「イスラーム映画祭3」が開催される。


主催者の藤本高之さんは、20代でのバックパッカー体験や、北欧映画祭「トーキョーノーザンライツフェスティバル」運営を経て、一人でイスラーム映画祭を立ち上げ、プログラミングから素材の手配、広報、運営まで全てを一人で担い、会期中は会場となるミニシアターと協力して運営を続けている。昨年8本だった上映本数が、今年は12本と大幅に増加、内5本が日本初上映だ。

藤本さんは、「今までは社会性を訴求する作品より、イスラームの国の人たちの暮らしが分かるような、地味な映画を中心に選んできましたが、今回はメイン映画もパレスチナ映画に据え、国際社会が抱えている問題をそのまま映画の主題に据えた作品や、シリア映画、アフガニスタン映画など、社会的テーマが強い作品を含んでいます。トランプ大統領のような分断を煽る風潮に、草の根でもいいので抗いたい。エルサレムの首都移転問題を理解する上でもパレスチナ映画を取り上げ、パレスチナの問題をきちんと分かっていただきたい」とプログラミングの狙いを語った。

日本初上映作品を中心に、注目作品を藤本さんのコメントからご紹介したい。


『ラヤルの三千夜』

藤本:1948年、中東のパレスチナでイスラエルが建国され、当時その場所に住んでいた70万人以上のパレスチナ人が難民になりました。その状態が今でも続き、日本では「パレスチナ問題」と呼ばれています。今年は70年の節目にあたるため、昨年からパレスチナ映画を取り上げたいと考えていました。本作のメイ・マスリ監督はドキュメンタリー出身で、パレスチナ関連に詳しい方には既に日本でも知られている存在です。パレスチナ支援をしていたレバノン在住の日本人女性で、第1回からイスラーム映画祭を応援してくださっていた方が、メイ・マスリ監督にインタビューした際、日本でもそのような映画祭があるなら、是非上映してほしいとリクエストしてくださり、今回日本初上映が実現しました。オープニング上映で、イスラーム映画祭3の目玉作品です。

※4月29日15:50~の上映後、岡真理氏(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)によるトークセッション「終わらぬ民族浄化―ナクバから70年のパレスチナの現在」あり。

『イクロ クロアローンと星空』

藤本:国内の映画祭では上映されないタイプの作品で、インドネシアの教育映画です。子どもにイスラム教のことを教えるため、バンドゥン工科大学にあるモスクが制作しました。テーマは「イスラムと科学」。宇宙の成り立ちも全てイスラム教で説明できるというトピックがあり、とても壮大です。東京、名古屋でも親子連れで観に来られる方が多かった作品です。

『エクスキューズ・マイ・フレンチ』

藤本:エジプト映画で子どもを主人公にした映画は珍しいです。コプト教徒(エジプトのキリスト教徒)の主人公が、裕福な暮らしをしていたのに父親が死に、イスラム教徒ばかりの公立校に転校。アウェイな環境の中、当然イスラム教徒と思われてしまいます。イスラム教徒のフリをし、クラスメイトと仲良くなっていく中で、エジプト社会の色々な問題を知っていく物語です。一見軽くて、コミカルですが、じっくり観ると、とても深刻な問題が含まれています。

『私の舌は回らない』

藤本:セルピル・トゥルハン監督は、トーマス・アルスラン監督作品で主演経験もあり、自分でドキュメンタリーも撮っています。自分のことをトルコ移民だと思っていたトゥルハン監督は、昔から祖父母がクルド語を話していることから、自分の出自に疑問を持ち始め、祖父母、父母へのインタビューし、祖父母の故郷であるトルコ東部を訪れます。アイデンティティーの分裂がテーマで、音楽を使わず、静かに淡々と映し出しています。映画だとドラマが起きるものですが、実生活はそうではありませんから。ヨーロッパのリアルな移民の姿が分かる作品です。

※上映後、渋谷哲也氏(東京国際大学教授/ドイツ映画研究者)によるトークセッション「移民とボーダーを考える~現代ヨーロッパ映画のある種の傾向について」あり。

『アブ、アダムの息子』

藤本:巡礼の旅に出るためにつつましい生活を送る、南インドのケーララ州、農村地区の夫婦を描いた作品です。インド映画は宗教対立を描くことが多いですが、皆が助け合って生きる姿が描かれています。映像、音も素晴らしく、非イスラム教徒の人が見ると、どれだけ信仰が大事か分かる作品です。

『ボクシング・フォー・フリーダム』

藤本:初めてアフガニスタンにできた女子ボクシングチームに参加し、オリンピックを目指す少女の物語です。イランで難民として暮らしていた時にボクシングに興味を持った少女が、保守的な社会を打ち破るべくボクシングに打ち込みます。社会的非難にさらされても、家族やチームのコーチの協力を経て、練習と学業に励み、そしてイスラム教徒として敬虔であり続ける。そこが大事ですし、胸に迫る物語です。同じくアフガニスタンの中編ドキュメンタリー『モーターラマ』も併映。#MeToo運動にも通じるテーマなので、上映後トークと共に是非楽しんでいただきたいです。

※上映後、西垣敬子氏(元「宝塚・アフガニスタン友好協会」代表)によるトークセッション、「アフガニスタンに生きる女性たち」あり。