「様々な世界観に対しての境界は、想いがあれば通じる」沖縄×台湾共同制作『ボーダレス アイランド』出演、朝井大智さんインタビュー


 日本人の父を探しに沖縄の離島を訪れる台湾、沖縄が舞台のファンタジックロードムービー、『ボーダレス アイランド』が、2022年12月10日(土)よりシネ・ヌーヴォ他全国順次公開される。

 監督は、沖縄で映画制作を続けている岸本司。日本のお盆にあたる台湾の⻤月から沖縄の先祖を迎える3日間が繋がり、両国の文化や死者との交流を実際の行事を取り入れながら、鮮やかに描いている。

 生まれたばかりの母と自分を捨てて沖縄に戻った父を探すロロ役に、台湾ドラマで活躍しているリー・ジャーイン。ロロと共に沖縄へ渡る日本語を勉強中の青年、アーロン役に、日台両方にルーツを持つ朝井大智が扮している。中村映里子、加藤雅也と実力派俳優とともに、城間やよい、吉田妙子、尚玄と沖縄出身の名優たちが沖縄ならではの言葉で、その地に生きてきた人々の想いをスクリーンに焼き付けるのだ。

 本作に出演の朝井大智さんにお話を伺った。



■『セデック・バレ』出演を機に、俳優活動へ

――――台湾映画界の名匠ウェイ・ダーション監督代表作『セデック・バレ』で映画デビューされたそうですが、その経緯を教えていただけますか。

朝井:当時北京の大学に通っていたのですが、就職活動をしていた卒業前の時期に、台湾語ができる日本人を探していると所属していたモデル事務所から声がかかり、演技初体験なので記念に受けたところキャスティングしていただきました。台湾にルーツがあるので、親戚巡りを兼ねて、4月就職するまでの間に撮影に参加して戻る予定でした。その撮影現場で、台湾で活躍されている田中千絵さんのマネージャーに誘われ、半年間のつもりが、そのままずっと俳優活動をすることになりました。


――――本作は企画から携わったそうですね。

朝井:『セデック・バレ』を機に俳優の仕事をさせていただき、台湾で芸能活動している日本人グループにいると、その多くが2〜3年で台湾を離れ、帰国したり、他のアジアの国に回る流れがあります。でも僕は台湾が好きでずっとそこにいたので、いつの間にか古株になっていた。井手裕一プロデューサーを紹介されたのはその頃で、沖縄へ呼んでいただいたので、旅行気分で訪れると、台湾と共同制作の映画企画があること、台湾映画界に繋がりがなく困っていると相談されたのです。当時は出演するとは思わず、知り合いを紹介しますと話していたのですが、当初なかった僕の役を、岸本監督が作ってくれました。



■映画を通して日台中、それぞれの良さを伝えたい

――――主演、リー・ジャーインさんがとても魅力的ですが、ジャーインさんも朝井さんが紹介されたそうですね。

朝井:元々はこれから活躍が期待される新人をオーディションで選んでいたのですが、撮影2週間ぐらい前に突然降板されたのです。主演がいないので撮影開始が危ぶまれたのですが、友達でもあるリー・ジャーインさんに経緯を話して、「やってみたら?」と話を振ると、「沖縄にいけるなら、やる!」と即決してくれました。


――――リー・ジャーインさんは台湾でどんな活動をされているのですか?

朝井:ジャーインさんは10年以上ずっと日本でいう地上波ドラマに主演されており、知らない人はほぼいないぐらい台湾で有名な俳優です。最近はYouTuberに転身して頑張っています。台湾は映画に出演する俳優と、台湾のテレビドラマに出演する俳優はほぼ別ですね。ですから、日本の方も台湾ドラマ好きの方しか知られていないんじゃないでしょうか。


――――アーロンという役も、映画制作の裏側をお聞きしても、朝井さんの存在が、日本と台湾をつなぐ役割を果たしていますね。

朝井:僕は中国にも住んでいたこともありましたし、台湾も第二の故郷という感覚があります。ただ生まれも育ちも日本ですから、日本と中国や台湾に関わるものには、裏表関係なく携わっていきたいという想いは昔からずっと抱いていました。僕自身、この作品に携わらせていただけることに感謝していますし、今後も、言語ができるからというだけではなく、お互いの良さを他の方よりは理解していますので、映画を通じて伝えていけると嬉しいですね。



■台湾の鬼月と似たものを感じる沖縄の文化

――――この作品は沖縄で映画を撮り続けている岸本司監督ならではの、沖縄の風習や死者との繋がり方がファンタジーを交えながら見事に描かれています。撮影にあたって、監督から何か学んだことはありましたか?

朝井:岸本監督はシャイな方なので、具体的に何かを教えてもらうことはなかったですが、脚本は非常に印象的でした。元々は『鬼月』というタイトルで、台湾の7月、日本のお盆にあたる時期に、鬼の門が台湾で開き、先祖たちが降りてくるのですが、悪い鬼(おばけ)も降りてくるのです。その期間はやってはいけない場所、やってはいけないことがあります。鬼の門が開く日と閉まる日は、必ず普渡と呼ぶお参りを会社でも行います。映画でもロロとロロの母が玄関でやっていますよね。そのように鬼月という文化を知っていたので、脚本を読ませていただいたとき、沖縄に同じような文化があることを初めて知りました。ユタの母を演じた城間やよいさんからもそのお話を聞きましたし、言語も国も違いますが、同じような文化があることが、とてもうまく描かれていました。最初の脚本はもっとしっとりした感じでしたが、岸本監督はホラーに精通されているので、そういう要素も融合したオールマイティーなファンタジー映画になっていて、監督色が出ているなと思いました。


■アーロンは、岸本監督が喋り方までこだわったキャラクター

――――朝井さんが演じたアーロンは、映画の中で唯一観客と同じ目線のキャラクターですね。日本語ができるロロの友人役を見事に演じてらっしゃいましたね。

朝井:唯一、何もわかっていないし、ただ中国語と日本語ができるという設定で、確かに観ている方の立場なのかなと思います。僕も言語が両方できるので、日本では中国人役、台湾では日本人役をやらせていただくことが多いですが、僕自身は中国語なまりの日本語を話すのは、気持ち的には苦手なんです。「中国人の日本語の喋り方はそうでしょ?」というステレオタイプを押し付けているような気がしたのですが、今回はキャラクター設定上、岸本監督があの喋り方に強いこだわりを持っておられました。ストーリー的に重くなるときに、アーロンみたいに何も考えず、ただロロのことが好きなキャラクターを、監督はきっと描きたかったのだろうと思います。


――――霊の気持ちがわかるユタの母が「私しかできないことだから」と話すシーンを観て、朝井さんの活動に重なる気がしたのですが。

朝井:俳優になる前からある自分のバックグラウンドを、俳優というそれを表に出せる経験を活かして、何かの役に立ちたい。日頃は口には出さないけれど、そうおっしゃっていただけたのは、僕としてはすごく嬉しいですね。


■日本で活動するのが夢だった

――――ちなみにこの作品はいつ撮影したのですか?

朝井:7年ぐらい前になりますね。舞台挨拶でも話しましたが、僕らはもうお蔵入りだと思っていました。僕は2019年から日本で活動を始めましたが、この作品を撮影していたときは、ずっと台湾でやると思っていました。やはり日本で活動するのは当時夢の一つで、僕にとってそれは夢のまた夢でした。


――――日本で活動するようになったきっかけは?

朝井:僕は台湾で日本企業のCMをたくさんやらせていただいており、安定した収入が得られることに満足していたのですが、これでいいのかと自問自答しました。でも、台湾国内でCM契約を切り、俳優として活動しようとしても、CMで日本人役をしているので役が限られてしまう。中国ドラマでは、中国人役もやっていたのですが、自分の中で頭打ち状態だと感じた。そこから夢のまた夢だった日本での活動を目指そうと思ったわけです。


■吉田妙子さんの、沖縄の文化を残したいという想いの強さに感銘

――――日本兵の幽霊も出てきましたが、沖縄で撮影するということは、沖縄の戦争の歴史を学ぶことにもなったのでは?

朝井:僕は小さい頃から歴史関係の書物に触れてきましたし、北京の大学時代でも世界史、日本史、中国史を学び、沖縄の歴史についても知っていたのですが、やはり実際に現地を訪れ、現地の方々の話を聞くことが何よりの学びになりました。脚本で、唯一の地上戦となった沖縄の日本兵の霊が登場するシーンを読んで、改めて地上戦のことも調べ直しました。

また、沖縄の舞台挨拶で、吉田妙子さんとご一緒しましたが、とても沖縄のアイデンティティーを大事にされておられる方です。沖縄の方言や文化をとても大事にされており、『ボーダレス アイランド』のような映画は作り続けなければいけないし、沖縄の人は沖縄の方言を映画の中で残し、海外の人にも観てもらいたいと語っておられました。歴史を含め、そのような沖縄の文化を残したいという想いの強さに感動を覚えました。


――――吉田妙子さんは沖縄を舞台にした作品にずっと出演し続けておられる名俳優で、尚玄さん演じる亡き夫と交流する妻役でしたが、短いシーンながら印象に残ります。

朝井:尚玄さんと吉田妙子さんのシーンは、ストーリーとはまた違う軸で描かれている二人の過去が数シーンだけでも見えてきます。僕もすごく好きなシーンです。



■台湾、沖縄、東京。3つの文化が合わさった撮影現場

――――沖縄ロケはいかがでしたか?

朝井:この作品は台湾、沖縄、東京の人たちが集まって作った映画なので、撮影に際しての決まりごとがそれぞれ違う。それをすり合わせるのが現地で一番大変でしたね。東京の人はきっちりとスケジュールを立て、それに合わせて進行しようとしていましたし、沖縄の人は現場の温かい空気でみんな仲良く頑張ろうという良さもある。台湾からは僕とリー・ジャンイーさんの俳優二人に撮影スタッフなど技術部が全員台湾の人だったのですが、台湾映画人は代々、巨匠たちの系譜を受け継いでおり、とても情熱的かつ体育会系な感じなのです。その3つの文化が合わさっての撮影でしたから。僕はそれぞれの文化に対して納得もしていましたが、立ち位置的に難しい部分がありました。今となっては楽しい思い出ですが、撮影の最中は辛さもありましたね(笑)


――――『ボーダレス アイランド』というタイトルは、死者と生者とか、台湾と沖縄、日本など様々なボーダーを超えるという意味が込められているように感じます。

朝井:ロロと彼女の今は亡き、会ったことのない父との関係のように、なかなか会えない人に対して強烈な気持ちがあり、会った時に強烈な感情が生まれる。コロナ期間中は家族とも会えないという気持ちがあったでしょうし、それも含めて『ボーダレス アイランド』というタイトルになったのではないかと感じます。実際、僕も日本に来て4年経ちますが、コロナ以降、現地の友達に会えていないので、撮影当時脚本を読ませていただいたのとは違う感情を持っています。国や言葉、生と死など様々な世界観に対しての境界は、想いがあれば通じるという意味だと捉えています。


――――ありがとうございました。最後に今後携わりたい作品はありますか?

朝井:4年前までは日本の作品に出演するのが夢だったので、一つの夢を叶えることはできました。今まで自分の中で明確な目標は作ってこず、いただけるお仕事を頑張るというスタンスでしたが、今僕が出演できればと思っているのはNHKの朝ドラ(連続テレビ小説)ですね。日本のみなさんの心に残るドラマの一員になるのが、今の目標になりそうです。

(江口由美)


『ボーダレス アイランド』(2021年 日本=台湾 101分) 

監督:岸本司

出演:リー・ジャーイン、朝井大智、中村映里子、城間やよい、ライ・ヤーティン、吉田妙子、尚玄、新垣正弘、ジョニー宜野湾、池間夏海、加藤雅也他

2022年12月10日(土)よりシネ・ヌーヴォ他全国順次公開

公式サイト→https://www.borderless-island.com/

©️2021『ボーダレス アイランド』製作委員会