「セクシャルマイノリティの3歩先の未来を描いている作品」『世界は僕らに気づかない』飯塚花笑監督、主演堀家一希さん、ガウさん関西舞台挨拶


 2022年の大阪アジアン映画祭で世界初上映され、「来るべき才能賞」に輝いた『世界は僕らに気づかない』が、第七藝術劇場(ナナゲイ)で絶賛公開中だ。

群馬県を舞台に、太田市に住む高校生の純悟(堀家一希)と、フィリピンパブに務めるフィリピン人の母、レイナ(ガウ)との愛するがゆえの衝突や、同級生で同性の恋人、優助との関係との関係など、親子で大きく異なる価値観や、外国人・ダブルルーツの人々に対する偏見、セクシャルマイノリティの人たちが描く未来図まで盛り込んだヒューマンドラマだ。

公開2週目を迎えた1月21日に開催された舞台挨拶では、飯塚花笑監督と主演の堀家一希さん、ガウさんが登壇した。

大学時代に関西に住んだこともあるという飯塚監督は、当時映画を観にきていた劇場で自分の作品がスクリーンに流れることが非常に嬉しいと喜びを表現。公開から1週間を過ぎ、「作り手としてどう受け取られるのか、どう歩いていくのかを見守っていますが、ちゃんとヨチヨチ歩き出してホッとした心境です」。



■自身が過去に思っていたことを脚本に反映してくれた(堀家)


 高校時代、大阪で所属事務所のレッスンを受けていたという堀家さんも光栄と喜びを語りながら、ゲイのセクシャリティーでフィリピンダブルという出自の純悟を演じるにあたっては、コロナ禍で撮影が延期になったことから「役作りの段階で、撮影の1年前から飯塚監督と何度もセッションし、僕自身が過去に思っていたことを脚本に反映してくれました。自分が昔、親に思っていたことを昇華しているような感じでした」と撮影を振り返った。

 フィリピンとスコットランドのダブルと自己紹介したガウさんは、レイナを演じて母親の偉大さを感じたという。異国からきて一人頑張るシングルマザーのレイナは、母国の家族にも頼られ、息子にも煙たがられているが、鑑賞した観客からは「子どもの反抗期は、こうだったよ」という感想も寄せられたという。「家族の愛の表現の仕方はそれぞれ違います。フィリピンは『愛している』とストレートに言いますが、日本は『恥ずかしい』という文化で、(撮影地の)群馬にも同じ問題を抱えている人がいると思います。LGBT問題などにも気づいてもらえるきっかけになれば」。


■堀家さんは将来の日本の映画界を担う人(ガオ)


 撮影は順撮りで、ずっとギクシャクしたテンションだったというガオさん。堀家さんは最初に挨拶をした時点からすでに役に入り込んでおり、将来の日本の映画界を担う人と断言。一方、堀家さんはガオさんの声の大きさに驚いたといい、飯塚監督も「撮影は和やかに入りたいが、初日からそっけない感じだったので、これからどうしようと思いました」と堀家さんの没頭ぶりを振り返った。

 さらに本作は群馬でワークショップを重ねた演技初体験の人が数多く出演している点に触れた飯塚監督。「演技経験あるなしにかかわらず、リアリズムを大事にしているので、映画の中で演じている人の半分はワークショップの参加者で、そこでは本人の延長線上で、そのままの自分でいてもらう練習をしました。芝居をする人(プロの俳優)と、ドキュメンタリー的にカメラの前にいていただく人(ワークショップ参加者)の親和性について、最初は懸念もありましたが、リアルな反応をし合うことで、良いケミストリーが生まれました」と演出の狙いを語った。


 お弁当や、エンドロールの授業参観など、日本に暮らすフィリピン人のみなさんに取材を重ね、印象的だったエピソードとして語ってもらったことを描いているシーンについて、飯塚監督が紹介する一幕もあった大阪での舞台挨拶。最後に、

「この映画を見て、気づいたことや映画のコメントをSNSで広げてほしいです」(堀家)

「色々なメッセージや、愛の形が盛り込まれているすごく大切な映画でs8。これをきっかけにフィリピンの文化などに気づき、自分にゆとりを持っていただければ。みなさんの近くに思い当たる人がいらっしゃれば、この映画を思い出してください」(ガウ)

「セクシャルマイノリティの3歩先の未来を描いている作品です。身近に意外と色々な国のルーツを持っている人がいるのに、自分でも今までいないことにしていましたが、みなさん一人一人の中に純悟のような存在がいるのではないでしょうか。見終えた後に考えていただく時間が大切で、劇場を出てからもこの映画のことを考えていただきたいです」(飯塚監督)

と締めくくった。第七藝術劇場では1月27日まで上映される。

(江口由美)



<作品情報>

『世界は僕らに気づかない』Angry Son (2022年 日本 112分)

監督・脚本:飯塚花笑

出演:堀家一希、ガウ、篠原雅史、村山朋果、岩谷健司