インディ・フォーラム部門と焦点監督:田中晴菜 and more!〜プログラミング・ディレクター、暉峻創三氏に聞く第18回大阪アジアン映画祭の見どころvol.5


プログラミング・ディレクター、暉峻創三氏に聞く第18回大阪アジアン映画祭の見どころvol.5では、新しい才能がぶつかり合うインディ・フォーラム部門の作品と、焦点監督:田中晴菜の魅力、特別注視部門の『金曜、土曜、日曜』『スーパーマーケット事件』、フィリピン映画の『Leonor Will Never Die (英題)』『子どもの瞳をみつめて』をご紹介したい。



■新しい才能や挑戦作が続々のインディ・フォーラム部門

―――女性監督はOAFF2度目の入選となる石橋夕帆監督の『朝がくるとむなしくなる』、夏都愛未監督の『緑のざわめき -Saga Saga-』、そしてOAFFでは初上映となる塚田万理奈監督の『世界』が上映されます。

暉峻:プレミアはありませんが、OAFF2019『左様なら』の石橋監督最新作『朝がくるとむなしくなる』は、最近主演が相次ぐ唐田えりかの中でも代表作になる出来栄えです。監督はおそらく、唐田えりか本人に相当寄せる形で、企画を開発していったはずです。



『緑のざわめき -Saga Saga-』は、前作、OAFF2019『浜辺のゲーム』の雰囲気と全然違うことに驚きました。現在、キャストは松井怜奈しか発表していませんが、実際は女性キャストが複数登場する多人数劇なので、そこは前作との共通点とも言えるし、夏都監督は多人数を並行しながらドラマを動かしていくことが、得意なのかもしれません。



塚田監督は10年がかりで出身地の長野で撮影中の『刻』という大きなプロジェクトに取り組んでおられ、それがあったからこそできた作品が『世界』です。『刻』に出演している中学生が主演の作品で、ロッテルダム国際映画祭に選出される大抜擢となり、OAFFではアジアンプレミアになります。



―――今回の出品作で最年少監督となるのは大阪芸術大学在学中の『カフネ』杵村春希監督。三重県熊野市オールロケを敢行した作品です。

暉峻:『カフネ』は、最終的にちゃんとお客さんに見せていくことを考えて作られているところが、他の学生監督作品と比べても突出していました。日本のインディーズ映画は、作品を完成するところまでしか考えていないと見受けられるものが多いのですが、本作はそれをどうやって世に出し、どうやって宣伝していくかという方面でも、とても工夫を凝らし、努力しているのが感じられます。日本の大学の映画製作教育ではこのあたりがスッポリ抜け落ちている感があるので、これは本作製作チームの独自の意識によるものであろうと、高く評価しています。



―――Keishi Kondo監督の『NEW RELIGION』、嶋田久作と山中崇が親子役で共演の長部洋平監督『TOMA2号』、木村凌監督の『遠まわりする青』について、コメントをいただけますか。

暉峻:『NEW RELIGION』は、すでに海外で名声を得ている作品で、かなり有名なセールスエージェントがついているので、OAFFでは珍しい逆輸入パターンです。とはいえ、実は黒沢清っぽさのある田中隼監督のOAFF2017『バーミー』を世界初上映し、海外ですごく受け入れられて以来、OAFFは海外ではホラーを紹介する場所として外国のジャパニーズホラー映画ファンからも注目を集めているんです。自分でも海外での評判を知った後で本作を拝見したのですが、いざ観てみるとKeishi Kondo監督の主演・瀬戸かほの演出もいいし、OAFFに打ってつけのホラーです。



『TOMA2号』は、芸能プロダクション的なところが主体になって作られているので、いわゆるインディーズの短編とは違う成立経緯の作品です。分数が短いだけで、内容は立派な長編劇映画のスケールがありますね。長部洋平監督の、俳優陣の力量に対する信頼が表れている作品です。自分の作家世界を強烈に押し出すのとは逆パターンで、俳優たちにどんなことをしてもらうと、画に説得力が出るかをむしろ意識して作った映画ではないかと思っているんです。



『遠まわりする青』は、極めて限定された日常の時空間をとらえるだけで、ここまでドラマチックでヒリヒリさせられる情感を表現しているところに感心しました。俳優たちへの細かな仕草の演出や配置など、監督としての基本的な力量も素晴らしいです。



■焦点監督: 田中晴菜は、長編商業映画をきちんと撮れる監督になると確信

―――今年の焦点監督は、札幌国際短編映画祭入選作『Shall We Love You?』 と、最新作『甘露』の田中晴菜監督です。

暉峻:毎年誰かを焦点監督として取り上げようという考えは持っていませんでした。そんななか、田中監督のこの2作品に出会ったのです。『Shall We Love You?』『甘露』の2本。どちらも共通の、ワンシーンワンカットという手法なので、紹介するなら2本まとめた方がいい。そこで今年も焦点監督という紹介の仕方をすることにしました。2作品とも厳密な手法の枠があるからこそ、監督がどれだけ映画のことを勉強しているかが如実に現れるし、その中でこれだけのものを撮れるということは、映画の言語を知り尽くしている監督だと思います。長編商業映画をきちんと撮ることができる監督になると確信したのも、焦点監督として映画祭でいち早く取り上げることにした理由です。



―――なるほど。長編第1作ではなく、長編を撮る直前の新鋭を紹介したいという意図があったのですね。

暉峻:長編商業映画を撮る直前の逸材という意味では、タイ映画の中編『金曜、土曜、日曜』のポップメーク・ジュンラカリン監督も将来商業映画界に絶対躍り出る存在だと思っています。これもシンプルなアイデアで見事に物語を紡いでいるし、GDH 559の作品とも親和性が高いので、そのうちGDH 559に起用されて、ナワポン・タムロンラタナリットみたいな存在にならないかなと思っているんですよ。



―――『金曜、土曜、日曜』に関連し、同じ特別注視部門の『スーパーマーケット事件』も移民あるあるが描かれたコメディータッチの短編です。

暉峻:主人公は夫亡き後、ベトナムからアメリカの娘のもとへ移住した高齢女性。台湾映画の『本日公休』『ナターシャ』同様、高齢の主人公が思わぬ表情を見せます。スーパー店員のイケメンに恋をするというのは、いかにもありそうな話ですが、全体にユーモアと現実をうまく融合させた描き方が印象的です。



―――唯一の中国映画(アメリカ、カナダ、中国合作)でストップモーションアニメの『燕は南に飛ぶ』は他に類を見ない短編で、リン・モーチ(林墨池)監督がほぼ全ての制作を一人で行っています。

暉峻:独自の世界を確立したアニメーションですし、もう一つの評価ポイントは音響効果の表現が素晴らしいこと。文化大革命当時の中国の環境音、例えば凍てつくような寒さなどを音で表現することは、現実感を出す上でも非常に重要なポイントだったと思います。




■OAFF2023のフィリピン映画は、映画愛溢れる1本と子どもの労働を見つめる1本

―――2010年代半ばから一大勢力となっていたフィリピン映画ですが、こちらも今年はコンペティション部門ではなく、特別注視部門と特別招待部門から長編が上映されます。うち1本はドキュメンタリー映画ですね。

暉峻:『Leonor Will Never Die (英題)』は昨年から上映を希望していた作品で、今年やっと上映できることになりました。コンペ部門で上映するには完成タイミング的にやや古かったので特別注視部門への入選としましたが、間違いなく昨年のフィリピン映画の最も突出した一本。OAFF2017で紹介した『黙示録の子』のチームが製作した作品です。今年のラインナップのもう一つの特徴として、既にお気づきの通り中高年女性の心情が描かれるものが多いという点があげられますが、本作の主人公を演じるシーラ・フランシスコは、自分が書いた脚本の中に迷い込む老齢女性を存在感たっぷりに演じています。



―――ドキュメンタリー映画『子どもの瞳をみつめて』は、フィリピンの子どもの労働をナレーションなしで映し出すドキュメンタリー映画で、撮影監督のキャリアが長い瓜生敏彦監督デビュー作(ビクター・タガロ氏との共同監督)です。

暉峻:個人的に瓜生敏彦監督とは古い知り合いで、黒沢清監督の『ドレミファ娘の血は騒ぐ』で撮影監督を務めておられました。僕はそこで美術助手や俳優を務めていたのですが、その時はまさか瓜生さんがその後フィリピンに渡り、こんな素晴らしいドキュメンタリーを作ることになるとは、全く予想できませんでしたね。でも瓜生監督のキャリアの原点は、「三里塚」ドキュメンタリー等で知られる小川紳介組にあるので、いきなりこのような傑作ドキュメンタリーを監督したのも、納得です。今はフィリピンをベースで活躍しておられ、長らくご無沙汰していたのですが、こうやって映画祭にて再会できるのは嬉しいです。



協賛企画《芳泉文化財団の映像研究助成》(入場無料、3/16国立国際美術館で上映)では、

・コメディから時代劇までオムニバスでサイレント映画の世界を体感!活動写真弁士の片岡一郎が全篇の活弁を担当した川田真理、廣原暁、後閑広監督による『サイレントムービー』を世界初上映。

・休学中の大学生とゲームコーナーにいた女性のふたりが出会ってからの半年を描く佐野大監督の『動物園のふたり』


・立命館大学映像研究科出身の潘俊驊監督による少女とお婆さんのポエジーな物語『雨はバケツを叩く』を世界初上映。




特別企画 《大阪万博と髙橋克雄》(入場無料、3/15大阪中之島美術館で上映)では、70年大阪万博のために製作され、オーストラリアの教師と大阪の小学生の交流を描いた短編『オーストラリアと日本 東経135度の隣人』や、日本館のパビリオンで上映されたアニメーション『ミセス21世紀』など、映像作家の故髙橋克雄による貴重な作品を上映。


(江口由美)


 第18回大阪アジアン映画祭は、3月10日(金)から3月19日(日)まで開催。

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