『大和(カリフォルニア)』宮崎大祐監督インタビュー~映画の成り立ちと宮崎流ガールズムービーを語る編~
昨年の大阪アジアン映画祭コンペティション部門で日本初上映され、大反響を呼んだ宮崎大祐監督の『大和(カリフォルニア)』が6月30日(土)よりシネ・ヌーヴォ、出町座、7月7日(土)より元町映画館でいよいよ公開される。
瓦礫の中で、主人公サクラを演じる韓英恵が、物が溢れていても、本当に大事なものが見当たらない若者たちの本音を痛烈なラップで謳いあげる。戦後日本の縮図のような、アメリカ軍基地のある神奈川県大和市を舞台に、複雑な家庭環境で育ったサクラが、母の恋人であるアメリカ軍人の娘、レイと行動を共にすることで、友情が芽生え、自らを見つめ直していく青春映画だ。地元出身のラッパー、NORIKIYOをはじめ、宮崎監督選りすぐりのミュージシャンが出演し、音楽映画としても見ごたえ十分。常に聞こえてくる軍機の音の大きさにも驚くことだろう。
関西上映を前に、キャンペーンで来阪した宮崎監督に、映画の成り立ちから、ガールズムービーへのこだわり、主演の韓英恵、そしてレイ役の遠藤新菜の役作りについて語ってくれた。
―――最初に、宮崎監督は子ども時代にアメリカで暮らした経験があるそうですが、その時、アメリカや日本について何か感じるところはありましたか?
アメリカは夏休みが長いので、夏休みの間だけ現地の日本人学校に一時転入していたのですが、いい意味で日本のコミュニティに憧れがありました。日本がバブルな時代だったので、ミニ四駆とか、ファミコンとか、「オレたちひょうきん族」を見たりするのも好きでした。でも帰国すると、自分はアメリカ人だと思いたかった。子どもは文化、スポーツや、土地の広さしか判断軸がないので、アメリカが完全勝利だと自分の中でさっさと結論が出たんです。
―――ちょうど思春期の頃に大和市に戻ってきたそうですが、映画でも夜遅くまでアメリカ軍機の飛行音が大音量で聞こえていたので、劇中のサクラのように、イライラが募りそうですね。
夜はヘリコプターがアイドリングしているので、ずっとブルブルという音もしていますし、他の土地から来られる方は皆さんびっくりされますね。僕も久しぶりに大和に帰ると、腹が立つぐらいうるさいです。異邦人としてはありえない音量ですね。
■軍機の音だけでアメリカ軍基地の影響が見えづらい大和市だから、日本とアメリカとの関係を炙り出せる。
―――神奈川県大和市にある厚木基地の方は、あまり基地の敷地内から外には出てこないそうですね。同じく米軍基地のある沖縄の辺野古とは、全然状況が違います。
神奈川県内でも横須賀基地は、基地の周りも門前町になっていて勤務しているアメリカ人も外に出てきますが、厚木基地の方は正門前に少しアメリカ人用の店があるぐらいで、(基地があることによる)影響が見えづらい。それでも軍機の音が絶えず聞こえている。それが逆に日本とアメリカとの関係を炙り出せる、いい距離感なのかなと思いました。最近でこそトランプ大統領になってその影響を感じるようになりましたが、ここ20年くらい日本人はアメリカの影響をあまり感じることがなかった。いまだにアメリカがなければ経済も政治も立ちゆかないというのに。その感じを、大和市で騒音に麻痺してしまっている感じにうまくかけて表現できないかと思いました。
―――映画では、福島原発に関するニュースが流れるシーンもあります。制作されてから3年後の今観ると、改めて震災が風化していることに気付かされます。時が経っても当時の社会問題など色々なことを気付かせてくれる作品ですね。
いまだに、これは昨年の映画であって、5年後、10年後観る映画ではないと言われることもありますが、僕は5年後、10年後こそ観られるべき映画だと思って作っていました。震災後、東京オリンピックまでの2010年代の変な感じを記録し、残していきたいと思って作りましたが、今は作った当時より状況が悪くなっている。自分にとっては、よりアクチュアルな作品になっていますね。
■アメリカのインディーズ映画のように、予算はなくてもこじゃれた「ガールズムービー」を目指して。
―――現代日本を意識的に映し出す一方、ガールズムービーとしても見どころがたくさんあります。
日本のインディーズ映画のものは、あまりファンシーではなく、ガールズムービーでも苦労が前面に出ている気がするんです。僕はアメリカのインディーズ映画やアート映画で育ったので、予算はないけど、ちょっとこじゃれてるようなことを、日本でもできるかどうかやってみました。やってダメだったら、分析して次に生かしていけますから、アメリカのインディーズ映画だったらどうかなと考えてやってみた部分はありますね。昨日のシネマテークで上映した時に、スタッフの方から、「この映画を観て、ソフィア・コッポラの映画を思い出した」と言われ、驚愕しました。
―――ガールズムービーっぽさを感じるシーンの中で私が好きなのは、サクラを演じる韓英恵さんとレイを演じる遠藤新菜さんが、キャアキャア言いながら走るところです。女子二人があれだけ楽しそうに走るシーンはあまりないですよね。
お客様から指摘されて気付いたのですが、僕が脚本を提供した関連作の7~8割が主人公が女子の映画なんです。毎回、男としてはこう思うがどうだろう?とか、女子に聞いてみるとこう言っているけど、映画的には面白くないとか、そのような兼ね合いを考えるのが毎回面白いですね。今回の走るシーンも、そのようなキャッチボールをしながら作り、僕の中にもストックが増えていくという作業を繰り返しています。毎回研究ですね。
■キャストには設定を「溶かして」もらう。
―――少し話は戻りますが、サクラとレイの生い立ちやキャラクターはどのように設定していったのですか?
僕の場合、最初にそれぞれのキャラクターに思想上、物語上の役目を設定し、キャストが決まったら掘り下げたり、実際にお話をして本人の要素を加えていきます。まずプロットがあり、キャラクターの背景、物語の中での役割、世界の中での役割があり、それを深めていく作り方をしています。でもそれが前面にでては面白くないので、飲み物に入った氷みたいな感じで、キャストには「(設定を)溶かしていってください」と伝えています。そこからはみ出てほしいんです。
―――韓英恵さんは監督が熱望したキャスティングだそうですが、オファーを受けていただくまで、時間がかかったそうですね。
ラップを歌うことに少し抵抗があったみたいです。今はいわゆるラップのメロディにのせて歌うのはクールではなく、ただしゃべっている風のラップが人気なので、韓さんにはそちらの方に挑戦してもらいました。ラップもそうですが、やはりフィジカル面が魅力的なのが一番。韓さんも遠藤さんも、立ったり、歩いたり、走ったりする身体性が映画っぽくて、とても良かったです。
■ファーストカットで映画の全てを語りたい。
―――オープニングでは、ゴミの山をかき分けるようにカメラが入っていくと、怒りに満ちた表情のサクラが座っていて、インパクトありました。最初から、このイメージはあったのですか?
紙吹雪が飛んだり、ミラーが光ったりと、蝶々も飛んでいたりと、実はかなりの仕掛けがあるカットでしたね。僕は古典的ハリウッド映画主義者なので、ファーストカットで映画の全てを語らなければならないと思っています。暗闇からゴミ山に出てくると、歌を歌うヒロインがいて、最後には怒りを覚えて立ち上がる。最初から、そこまでをファーストカットでやるつもりでした。
―――サクラが葛藤しながらも仲良くなっていくレイは、父親がアメリカ人のハーフで、日本語でもコミュニケーションができる女の子で、徐々にサクラの警戒心を溶かしていきます。レイを演じる遠藤さんは本作での初タッグを経て、最新作の『TOURISM』では主演の他制作(衣装)も担当しています。本作を経て、どのように成長していったのですか?
初めて遠藤さんにお会いしたのは、この作品を撮る2年ほど前に、先輩の映画の手伝いをしている時でした。ゴスロリファッションで非常に印象的だったのが、遠藤さんとの初対面です。次は、『大和(カリフォルニア)』のレイ役のオーディションで、その時はパンクっぽい格好で来たので、驚きました。サクラ役と間違えていないかと聞いてみると、「矢崎監督作品(『無伴奏』)で成長できたので、今は素の自分を出せるようになった」らしくて。
レイ役は意見が分かれたのですが、最終判断は監督の僕に任され悩んでいた夜に偶然、SNSのTumblrで遠藤さんの写真が流れてきたのです。本当に初めてTumblrで遠藤さんの写真が流れてきたので、これはお告げだと思って、翌日すぐに遠藤さんでキャスティングをお願いしました。
―――遠藤さんと決まった後、韓さんと芝居を作っていくプロセスは?
韓さんは作ってきてもらったものを生かし、遠藤さんはそれに加え、日常の様子を観察して、「普段のこういう感じを入れたいんだけど」と提案したりもしました。遠藤さんと韓さんが仲良かったこともあり、僕としては難しい役を頑張って演じてくれたなと思っています。『TOURISM』の時は、『大和(カリフォルニア)』以降に色々な作品で経験を積んでいたので、あまり僕が言わなくてもすっと演じてくれ、嬉しい気持ちになりました。僕はキャストの普段の生活を映画に取り込みたいので、現場で話し合いをよくやりますし、結構仲良くなります。
■撮影以外も女優たちの魅力的な瞬間を常に観察することが、リアルに女心を描く秘訣。
―――具体的に、韓さんと遠藤さんのどんな部分を映画に取り込んだのですか?
韓さんの場合は、在日ではなくコリアンであることから生じている葛藤があるでしょうし、そういう話を聞くだけでも彼女自身への気付きになると思うのです。彼女の中にある情報を引き出しながら、役と繋ぐ作業をやっていました。遠藤さんもイギリスとアイルランドのハーフである父親との関係や、ハーフだから体験したこと、ハーフだと羨ましがられる一方で他のみんなと距離があるという話をしました。後は、二人の撮影以外の様子も観察しているので、そこで良かったというタイミングやきっかけを現場でもう一度与えてみることもあります。昔、大工原正樹監督が、ロマンポルノやVシネマだと撮影期間や準備期間が短いので、撮影以外もずっと女優達を観察し、彼女たちが魅力的な瞬間を常に観察しなければダメだとおっしゃっていました。『大和~』の時は、食事中とか電車の中など観察して、演出に生かしていましたが、最近は「観察日」を設けて来てもらうこともあります。
―――なるほど、以前観客から「どうして宮崎監督は女心をリアルに描けるのか」という質問が寄せられていましたが、観察することがその秘訣なんですね。
この年になると、大体世の中の構造も分かってくるし、そこを突き詰めると憂鬱になってしまうのですが、女性は一番身近で、一番よく分からない。女性のことを研究するなら、いくら時間があっても足りない。やはり俳優をよく見せたいとどの作品でも思うので、男女問わず研究をしていきたいです。
『大和(カリフォルニア)』宮崎大祐監督インタビュー~反逆の音楽をもう一度、こだわりの音楽、音響編~に続く。
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