『大和(カリフォルニア)』宮崎大祐監督インタビュー~反逆の音楽をもう一度、こだわりの音楽、音響編~

『大和(カリフォルニア)』宮崎大祐監督インタビュー、引き続き、音楽に対する熱い思いを語っていただいた。


■あまりいない女性ラッパーを主人公にして、ラップ界の現状に対する問題提起も。

―――元々はヒップホップの映画を構想していたそうですが、現在の形になるまでの経緯は?

最初は一人で夜な夜な筋トレをしている大和市在住の男が、地元のラッパーと喧々諤々しながら、最終的にはコンテストに優勝してデビューするような、ハードコアな作品を考えていました。でも、勝ち上がろうが、負けようが、作り続けていく人に僕は惹かれているし、僕自身もそういうことをやりたいと思い、全体の話が変わってきたという経緯があります。あとは、ヒップホップ、特にラップは男性的なジャンルなので、ラップ界の現状に対する問題提起する意味もあり、まだあまりいない女性ラッパーを主人公にしました。その後、震災もあり、今の日本の現状をもう少し考えたいし、ラップだけではなく、人生最後になるかもしれないと思ったんですよ。震災後は、明日何が起こるんだろうとか、死ぬかもしれないという雰囲気があり、めちゃくちゃ怖かった。本当にこれが最後の映画になるかもしれないと思って、自分の好きなものを入れていきたかった。


■一度牙を抜かれたように見える日本のレベルミュージックが再び機能しはじめる瞬間を、映画の中に作りたい。

―――自分の好きなものというのが、音楽へのこだわりにつながる訳ですね。

僕はロックが出自の人間なので、ロックはアメリカから来ていて、この60年ぐらいで日本化が施されています。そして、単純にロックとラップを足し算すると、ミクスチャーになってしまい僕の感覚的では受け入れがたい。それだけは避けるという命題のもと、ラップも黒人が白人社会に対して立ち上がる音楽として始まったもので、ロックも遡ると黒人奴隷が白人に対して立ち上がる音楽だったので、一度牙を抜かれたように見える日本のレベルミュージック(反逆の音楽)が、またレベルミュージックとして機能しはじめる瞬間を映画の中で作りたい。それがぶつかった地点が基地の中で、基地がなかった時はどんな場所だったのだろうという発想から、緑のシーンが思い浮かびました。音楽や映画で世の中を変えられる訳はないけれど、それでも変えられると信じたい。夢見がちな僕の妄想が詰まった映画です。


■穴戸幸司さん、GEZAN・・・一度聞いたら忘れられないサウンドを語る。

―――音楽映画という点では、まず個性的なメンバーのプレイが魅力です。最初にスローナンバーの弾き語りを披露した穴戸さんについて教えてください。

名古屋の伝説的なバンド、「割礼」の穴戸幸司さんです。80年代当時はサイケデリック、今はスローコアと呼ばれているジャンルです。名古屋シネマテークのすぐそばにあるライブハウスが本拠地で、ライブではギターソロだけで10分ぐらい、1曲20分ぐらいの曲も演奏します。4ピースバンドですが、かなり多層的な音作りをされていて、倍速にすると「LUNA SEA」風に聞こえることを発見しました(笑)。本当にすごいバンドなのですが、弾き語りのアルバムの中に収録されている曲が、本作で弾き語りして下さった曲です。


―――とてもスローテンポで、何だか良かったですよ。

そう、何だか良くて、奇妙な響きがあり、歩いている人が皆、足を止めるんですよ。すごく遅いです。宇宙の声みたいです。


―――後半の小屋のシーンといい、現実ではないものを表現したようなシーンでミュージシャンたちのセッションが登場しますね。

小屋のシーンは、実際に大和市の中にアメリカ軍の土地なのか日本の土地なのか分からないような、住所のない土地があり、そこでホームレスの人たちがバンド演奏したり、ゴルフをしたりしている実話を基にしています。そのパートを「割礼」と「GEZAN」にしてもらいました。「割礼」も「GEZAN」も日本の60年代に入ってきたロックの正統な後継者で、ある種この組み合わせは偉業だと思います。


―――「GEZAN」は大阪出身のバンドですね。何とも言えないアンビバレントな雰囲気です。

具体的にこういう音楽をしてくださいとは言いにくいシーンで、ポエムをメンバーに送ったら、メンバーが未発表の曲を提案してくれました。普段はもう少しテンポの速いハードコアな音楽をやっているのですが、今回特別にスローなものを演奏してもらいました。実は音源が出ていなくて、音が大きくなる直前までで終わってしまうそうなのです。すごく悶々とするので、音が大きくなるのを聞きに、映画を見に行かなくちゃと言ってくれています。


―――すっとマイクが降りてきた時は驚きました。そこからは音楽と共に感動的なシーンとなる訳ですが。

あのシーンは映画を撮る前から頭にありました。この映画で一番肝になっていたシーンです。言葉では説明できないけれど、僕の言う通りにカメラを置いて、役者を動かせば、多分再現できるはずだと思って取り組み、まさにそんなシーンになりました。正直、なぜ天井からマイクが降りてくるなんて、意味が分からないでしょう?僕に直接、マイクの事を聞かれたことがないので、今日は凄いなと思いました。


■サクラ演じる韓さんの心の声を支えるのは、バリー・ジェンキンス監督より早く映画に取り入れたスクリュー。

―――のど自慢大会で、サクラがラップを歌うときの音楽も、通常のラップよりぐっとスローテンポの曲でした。速いラップだと言葉が聞きとりにくいですが、このテンポだと一つ一つの言葉がしっかりと伝わってきます。

ヒップホップの速度を半分にするとスクリューというジャンルになるのですが、最初に映画のエンディングを考えた時これが浮かびました。テキサス・ヒューストン発祥の音楽で、2010年過ぎに盛り上がり、僕が世界最速で映画に取り入れたのですが、僕より早く公開された『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス監督)で、ほぼ全ての曲にスクリューがかかっていましたね。ジェンキンス監督は、売れるヒップホップアルバムが出ると、趣味で監督によるスクリューミックスを出しているんです。いつかは直接スクリュー対決したいですね。ただ機材が壊れて音楽が遅くなってしまっただけではなく、ある種の事故が、ある新しい音楽を作るのがいいなと思ったのです。ファニーなんだけど、カッコよくもあることがやりたかった。実際の撮影では、韓さんだけ壇上で音が聞こえている状態で、僕がその横についていたのですが、「ここは私ならこうは歌わない」と韓さんが言うと、こちらからこれならどう?とまた提案してみたり、韓さん自身の本当の心の声、本当に言いたいことを言いきった感じで、感動的でした。


―――本当に音楽がお好きなんですね。お話を聞けば聞くほどこだわり満載なのが分かります。

雨音でもビートに聞こえますから。先日、杉田協士監督から、映画の最初は音楽もアップテンポで街の景色が早く流れていく。サクラがすごい速度で見過ごしていた街を、再発見していく過程で、音楽のテンポもだんだん下がっていく。つまりサクラがこの街をじっと見つめることができるようになる映画、速度が落ちていく映画だと言って下さいました。さすがは杉田監督で、「最初から狙ってました」と言いたいぐらいですが、確かにそうだなと思います。


―――テンポの変化に着目しているのは、また新しい見方です。

もう一つ、韓さんのエピソードですが、彼女がラスト、体育館でのラップシーンの役作りに『チャップリンの独裁者』を見直したそうです。ああいう感じでいきたいと。やはり気になってまた行きたいと思えるのが映画だし、そういう映画が好きなので、何度でも見て、解釈を深めてもらえるとうれしいですね。


■「なぜこの予算で『ブレードランナー』レベルの音響ができるのか!」boid樋口さんが映画で音が大切だと気づかせてくれた。

―――音楽以外の音でこだわった部分は?

今回配給をしていただいているboidの樋口さんが、「なぜこの予算で『ブレードランナー』レベルの音響ができるのか!こんな異常なことが日本で起きていることをぜひ広めていきたい」とおっしゃってくれました。音楽が好きで、画面を切って音だけ聞いても楽しめる作品作りを目指しているので、この作品は特にそれに当てはまると思います。


■演技よりも声と音のリズムが大事、世界基準の音を目指して。

―――音楽だけではない生活音にも相当重きを置かれているんですね。

芝居も、本読みの音程やリズムの合わせ方から始めるんです。演技よりも声と音のリズムから入ります。生活音や会話のリズムも音楽っぽく配置しています。小津安二郎監督がそうだったのですが、音がしっかりしていれば、絵のクオリティーが保ちづらくても引っ張っていける。音は僕にとって本当に重要なので、ひたすら読み合わせをします。


―――逆に言えば、アドリブはNGですか?

アドリブもリズムに乗っていれば大丈夫です。リズムと音程ですね。声のトーンはかなり大事です。僕はどれだけ演技は良くても、声の悪い俳優は使いません。往年の名女優は皆さん声が素晴らしいですね。高峰三枝子さんや山田五十鈴さんのように、声を聞いただけでもうっとりするような。映画といえば、皆さんは映像にまず目がいくでしょうが、色々な楽しみ方があると思っています。音が大事だと気づかせてくれたのが樋口さんで、そこで楽しみが何倍にも増えていくんです。


―――ちなみに宮崎監督が音の良さで好きだと思う作品は?

『エレファント』(ガス・ヴァン・サント監督)です。ロッカーを歩いていくと動物園の音が入るところとか、誰も絶対に気付かないけど、凄いですよ。黒沢清監督も日本は音が世界レベルに追いついていない、意識が低いと指摘されていますが、今回サウンド・デザインをしてくれた森永泰弘さんはかなり世界基準の音を考える方です。『エレファント』を担当した世界屈指のサウンド・デザイナーをチェックし、参照しながら作ってくれています。予算はなくても映画の楽しさとして音楽を追求していきたいですね。若い頃は絵:音が7:3ぐらいでしたが、今は絵:音が5:5か音が絵を上回っていたりします。


■ホーム(大和)と外を行き来するスタイルで映画を制作、作品として残すことを追求したい。

―――最後に、これからも大和市を原点として、ローカルから世界を見据えるというスタンスの映画作りを続けていくのでしょうか?

正に今を象徴している問題で、映画業界では、ヨーロッパ、アメリカが正しいという人が大勢おり、実社会ではほとんどの人が日本こそが素晴らしいと思っている。僕はどちらも素晴らしいと思うのですが、『大和~』の制作を通じて感じたことは、ホームがあり、かつ外と中を往復するというスタイルこそが、両方の折衷案ではないか。二元論ではなく、かつどちらでもいいとか、どちらもダメだということでもない。両者を行き来するのが僕のやり方という気がしますし、それが新作の『TOURISM』でできたのではないかと思っています。『大和~』をベースにした新作も撮りはじめましたし、外国に行って撮ることもあるかもしれない。どこにでも住めるし、不安になれば大和に戻ればいい。そういうスタイルの制作になっていくと思います。そして思想の前に作品に残すことが一番重要なので、そこを追求していきたいです。

(江口由美)


<作品情報>

『大和(カリフォルニア)』(2016年 日本・アメリカ 1時間59分)

監督・脚本:宮崎大祐

出演:韓英恵、遠藤新菜、片岡礼子、内村遥、塩野谷正幸、GEZAN、穴戸幸司(割礼)、NORIKIYO、のつぼのグーニー他

2018年6月30日(土)~シネ・ヌーヴォ、出町座、7月7日(土)~元町映画館他全国順次公開

公式サイト⇒http://yamato-california.com/

©DEEP END PICTURES INC.

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