劇場公開熱望の未公開作に注目が集まったフランス映画祭2018 in 横浜

13年ぶりに横浜に戻ってきたフランス映画祭2018。横浜も遥か昔に行ったきりの私にとっては、最初は少し遠くなったかな・・・と思っていたが、いざ初めてのみなとみらい駅に降り立つと、海の見える景色に俄然テンションアップ!日頃、神戸の街並みを見ているので、海が見える景色にことさら感動する訳ではないが、むしろホッとする。銀座は商業施設が多い割には、ゆっくりと空き時間を過ごせる場所が意外とないのだけど、みなとみらいはそういう点でもまさにブラボー!横浜美術館のNUDE展や、レンガ倉庫では展覧会「Gaumont 映画誕生と共に歩んできた歴史」も開催されており、入場無料で映画の歴史をたっぷりと感じられた。様々な博物館も多く、文化が根付いている街だなとつくづく思う。

会場となったのは、イオンシネマみなとみらい。かなりスクリーンが大きいので、ゲストトークで間近にご覧になりたい方は、鑑賞時には見づらかったのではないかと思う。オープニングのみなとみらいホールでは畠山美由紀さんがゲストで登場し、「浜辺の歌」を熱唱するというサプライズもあり、非常に雰囲気のいいホールだっただけに、差が際立った格好だ。シネコンなので、致し方ないのだけれど。

上映作では、今年は3本(1本は短編も同時上映)の劇場未公開(現段階)が上映されたが、いずれもなぜ配給がついていないのかと不思議なぐらいの力作揃いだった。中でも私が一番好きなのは、写真トップのアンヌ・フォンティーヌ監督最新作『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』。小さな田舎町で暮らした子ども時代、学校でも家でも居場所がなかったマルヴィンが、才能を見出してくれる先生との出会いを経て、演劇と出会い、家族と訣別して都会で自らの道を見つけようとするヒューマンドラマ。ポスターでは大人のマルヴィンの車窓に、子ども時代のマルヴィンが写っており、この映画の構成を見事に表している。同性愛者の主人公マルヴィンを演じるのは、今最も期待されるフランスの若手俳優フィネガン・オールドフィールド。本人役で登場するイザベル・ユペールの存在感も抜群。そして、『万引き家族』のリリー・フランキーと対比したくなるマルヴィンの父親の息子を理解しようと成長していく姿がいい。とても繊細で、様々な見方ができる秀作だ。


フランス・セザール賞3冠(主演男優賞、助演女優賞、新人監督賞)達成の注目作『ブラッディ・ミルク』。酪農家の家に生まれ育ったユベール・シャルエル監督が長編デビュー作に選んだ題材は、狂牛病の危機にさらされた酪農家の決断。手作業の酪農仕事を一人でこなす、酪農家ピエールを演じるのは、セザール賞主演男優賞を受賞し、フランス名優の仲間入りを果たしたスワン・アルロー。とにかく撮影中も乳牛の世話をし続けたというアルローさんの姿は、自分の乳牛たちに愛情を注ぐ酪農家そのもの。牛たちに声をかけ、スキンシップをとり、自分がとりあげた仔牛を最後まで守ろうとする姿は胸を打つ一方、何としても牛を守るために、嘘が重なっていく様子がサスペンス調に描かれ、最後まで目が離せない。フランスが農業、酪農の国であることを実感する一本でもある。


残念ながら、アニエス・ヴァルダ監督の来日は叶わなかったが、作品の力に圧倒され、深い余韻を残したのがストリートアーティスト、フォトグラファーのJRと共同監督した『顔たち、ところどころ』(今秋より劇場公開)。プロデューサーで女優のジュリー・ガイエさんが、二人の等身大パネルと共に来日。レッドカーペットや上映後のQ&Aでも一緒で、非常に微笑ましかった。世代の継承、そして歴史の継承が狙いだったという本作。アニエス・ヴァルダが町の人たちにかける優しい声かけは、時には後ろに隠れていた女性を引っ張り出し、彼女たちをアートを使って解放させたりもする。壁一面にフォトを引き伸ばして貼るJRのストリートアートも必見。人間の顔や姿があるだけで、廃墟に命が宿るよう。そして、年の差53歳のデコボココンビの二人が海辺で語る人生とは、も深くしみるのだ。体力的にはキツイこともあったはずだろうが、JRのカメラワゴンで旅をし、町を歩き回り、こんなに素晴らしい作品を資金難にもめげずに作り上げたアニエス・ヴァルダ。何度でも見たい作品だ。


今回のフランス映画祭で、ナタリー・バイ団長に次いで人気があったのは、最新作『2重螺旋(らせん)の恋人』を提げて来日したフランソワ・オゾン監督。観客の混乱状態をみながら、余裕の登壇。元々双子に興味があったというオゾン監督が、アメリカ人作家、ジョエル・キャロルオーツの『ザ・ライフ・オブ・ツインズ』を映画化した本作。双子の精神分析医という設定は原作を踏襲しながら、精神分析の方法もフランス式に変え、ラストも映画ならではのラストにしたという。最前列で鑑賞していたので、その迫力もマックス。途中は目を開けていられないような場面も!双子の親としては、双子が登場する映画は特に注意深く見ているのだが、ただの三角関係だけではない思わぬ真実があり、そのような要素を盛り込んだ映画は、初めて見るかもしれない。本当にキレッキレの双子映画。ラブもミステリーもアートも妄想もいっぱい。かき乱されて欲しい!



映像化は不可能と言われたマルグリッド・デュラス(『ラマン』)の『苦悩』を映画化したエマニュエル・フィンケル監督最新作『Memoir Of Pain/メモワール・オブ・ペイン(英題)』(2019年2月劇場公開)。ナチス占領下のパリを舞台に、デュラス本人の長く辛い愛と苦悩の日々を描いた歴史ドラマだ。主演のマルグリッドを演じたメラニー・ティエリーさんは、レッドカーペット&オープニングセレモニーでも、スカーフをポイントにしたパンツスタイルにショルダーバッグとオシャレ度満点!危険な駆け引きにも動じず、なんとかして愛する人の消息を知ろうとする女性像を毅然と演じ、その精神力の強さを見せつけた。主人公のデュラス同様、観客もじっと待つ物語は、時に重い気分にもなるが、それこそが当時のデュラスら女性たちの境遇を体感するという監督の狙いなのかもしれない。ある意味、とてもフランス映画らしいと思わせる作品だ。



団長のナタリー・バイが出演している『モカ色の車』。主演は『ヴィオレッタ』で来日、団長も務めたエマニュエル・デュボス。デュボス演じる息子を交通事故で失った母が、犯人と睨んだ女性をナタリー・バイが演じているが、「若作りしている女」扱いされているキャラクターで登場シーンはそんなに多くないものの、強いインパクトを残す。全体的に重いトーンの映画だが、バイの登場シーンは不思議な化学反応を起こし、物語のトーンが変わるのだ。娘との関係に悩む母という役でもあったのが印象的。今回は残念ながらナタリー・バイさんのトークを取材できなかったが、オフィシャルレポートを読んでも、人間的にも素晴らしい人であることが伝わってくる。またお手本にしたくなる人が増えた気分だ。

他にも劇場公開される力作が続々上映され、各回ゲストが登壇し、写真撮影やサイン会と観客との交流を楽しんでおられた。観客が喜ぶ映画祭は、本当に映画祭の基本。今回フロアが狭かった分、よりゲストと観客との距離が近く、非常に盛り上がったと思う。横浜の町全体でフランス映画祭を盛り上げようという気運を大いに感じた。京都はともかく、大阪、神戸は映画祭への理解は乏しいが、本当に見習って欲しいし、横浜も毎年開催が定着すればいいなと思う。