『藍色夏恋』ベクトルが違う三角関係、揺れる気持ちを瑞々しく描く青春映画の傑作@台湾巨匠傑作選2018
優しいピアノの音色、仲むつまじく顔を寄せながら親友ユエチャンの未来の願望を聞き入る主人公モンの姿が映る。「見えない」未来。それでも、親友の願いは痛いほど分かる。ショートヘアのグイ・ルンメイの超ツンデレぶりも新鮮だし、イケメンだけどちょっとバタくさいチェン・ボーリンのキャラをいかした童貞高校生チャン・シーハオも初々しい。チャン・シーハオに恋するユエチェンが親友のよしみでモンにチャンとの仲立ちを頼んだことから物語が動く瑞々しい青春映画だと思っていたが、それにしては、モンの行動が時々アレ?と思わせるのだ。
台湾のイ・ツーイェン監督が、新人のグイ・ルンメイ、チェン・ボーリンを見出し、二人のデビュー作にして代表作になる大ヒットを記録した青春映画の名作『藍色夏恋』。恥ずかしながら、オンタイムで劇場鑑賞もできず、DVDで見たこともなく、デジタルリマスター版で10年以上ぶりに上映される今回が初鑑賞となった。自転車ですれ違いに交わす視線、黙々と学校の柱に描く落書き。言葉にできない様々な思いを柱の裏から見守るかのようにすくい取る。
母一人子一人のモンからすれば、男性は未知なるものなのだろう。大胆すぎる言動で大の大人ですら惑わせることもあるが、彼女にとっては自分の性のアイデンティティを確認するための実験だったとは。今で言えばLGBTものということにあるであろうモンの悩み。「親友のユエチェンが好き」という気持ちを、告白してきたチャンには打ち明ける。一人の男をめぐる女二人の三角関係ではなく、全員が見事に一方通行の片思いだ。親友を失いたくないけれど、やはり男を好きにはなれないことを身をもって知ったモン。そんな揺れ動くモンのことが好きで、ユエチェンの好意に報いることができなかったチャン。チャンの名前をインクがなくなるまでノートに書いていたけれど、チャンに本心を告げられ、「木村拓哉」と書く名前を変えざるを得なかったユエチェン。誰もが身に覚えのある片想いや、親しい人を奪われたくないという切な想いを、繊細に描いた傑作。未来は見えないけれど、「あなたの姿は見える」と思えるようになったモン。どんな辛い恋でも、恋というより友情であっても、心が通じると思える相手と出会えることが財産なのだ。
イ・ツーイェン監督の最新作『コードネームは孫中山』が日本公開されないのは残念でならないが、ツーイェン監督の弟子とも言えるヤン・ヤーチェ監督は、グイ・ルンメイを迎えて男二人、女一人の同級生3人を主人公とした30年にわたるラブストーリー『GF*BF』を世に送り出している。台湾映画の名作を生み出す監督、女優コンビの映画を、また産み出してほしいと切に願う。
0コメント