『人間機械』インドのワイズマン、繊維工場の過酷労働に肉薄

踊るように舞う火の粉。暗闇の中、ローラーから次々と繰り出されるのは、真っ白や、色とりどりの生地だ。すすっぽく暗い工場の中で、生産される生地だけは輝かしく、大きなスクリーンに映える。次々と折り重なる生地の横で、工場の労働者たちは同じ動きを繰り返す。その人間の筋肉の動きと生地のコントラストも鮮やかだ。


工場音が鳴り響く中、そこで日々作業を繰り返す繊維工場の労働者たちを記録したインドのドキュメンタリー映画『人間機械』。個人的にもインドのドキュメンタリー映画は初めてだが、ドキュメンタリー界の巨匠、フレデリック・ワイズマンを彷彿とさせる観察ぶりと、鮮やかな構図、映像に目を奪われる。上半身裸の男たちが、汗を掻きながら大きな動きで生地を操るが、「神から手を授かった。だから労働は義務」と割り切っているのが印象深い。


彼らは、ほとんどが職を求めて遠方から出稼ぎに来た人たちばかり。子どもの学費を稼ぐために、紹介業者にお金を渡し、旅費と合わせて借金をしてでも、この過酷な現場に働きに来ている。労働者の中にも中学生ぐらいの子どもがおり、インドの労働事情がうかがい知れる。


工場の外で、カメラを物珍しそうに眺めていた労働者は、労働組合がないから12時間労働を強いられると憤る。この状況をなんとかしたい気持ちはあるけれど、経営者に対して、一致団結して労働者の権利を訴えることができていない。そんな苛立ちは、最後にカメラマンにも向けられるのだ。「ただ撮って帰るだけなら、政治家と同じ」だと。過酷な現場をこんなに芸術的に撮るとはと感嘆する一方、美しい生地の製作現場がこんなに劣悪で、しかも前近代的な工場であることを告発しているようにも映るのだ。本作がデビュー作というインドの新しい才能、ラーフル・ジャイン監督。この名前を覚えておかねば。