注目の韓国短編からインドネシア大作、細田善彦出演のカンボジアホラーまで!特別注視部門をご紹介! プログラミングディレクター、暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.3


暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.3では、特に注目すべき新しい才能が集結した特別注視部門作品をご紹介する。



■インドネシアのメジャー勝負作『ジャカルタ13爆弾』と俳優の一挙一動を見つめた『春行』


―――インドネシアのエンターテイメント大作『ジャカルタ13爆弾』ですが、アンガ・ドウィマス・サソンコ監督が登壇するシンポジウム「アンガ監督の映画哲學―十三の試練、千の希望」も開催されますね。

暉峻:監督のアンガ・ドウィマス・サソンコは、インドネシア映画をご覧になっている人にはよく知られている存在で、今やインドネシア映画界の中核に位置する人です。

そんな彼が新たな一歩を踏み出し、挑戦した作品が『ジャカルタ13爆弾』で、しっかりと資金を投入し、大衆的な大ヒット作を狙った大規模商業映画です。

 もともとアンガ監督は作家性が強いことで知られていましたが、今回はメジャーな商業路線で勝負しています。この作品は『パラサイト 半地下の家族』に投資した韓国資本の会社、バルンソンが、最近東南アジア市場に注目し、いくつか投資作がある中で、初めてインドネシアの企画に投資したのが本作なんです。当然、インドネシア国内の大ヒットだけを狙っているのではなく、国際流通もかなり考慮しています。その点も新しい挑戦に属する作品でしょう。



―――全編16ミリで撮られた『春行』もぜひ注目したい作品です。

暉峻:長編デビュー作。ワン・ピンウェン、ポン・ズーフェイという二人の監督がクレジットされていますが、ふたりとも本作が長編デビュー作。ワン監督は東京フィルメックスのタレントキャンパスに参加しており、すでに短編では名を知られた存在でした。『春行』も中高年男女が主人公の一本ですが、メインとなる役者たちをうつしていれば確実にいい画になるし、その人たちを見つめることだけで映画として成り立っています。非現実的なドラマ展開もありますが、決して物語の奇想天外な展開に頼ってみせる映画ではなく、ワンショットワンショットの俳優の挙動を見せることで、映画を成立させるという意思の方を強く感じましたね。


■ホラーという形式を使ったカンボジアのアート映画『テネメント』

―――『テネメント』は主人公の設定が日系カンボジア人の漫画家で、その恋人役として細田善彦さんが出演されており、注目ポイントの多いカンボジア映画ですね。

暉峻:監督のふたりについては前知識がなく最初から注目していたわけではない作品でしたが、見始めると凄いと感銘を受け、突然入選に至った一本です。ジャンルで言えばホラー映画になりますが、人を脅して怖がらせるだけに終わっているのではなく、ホラーという形式を使いながらアート映画としても成り立っています。一つ一つの画の作り方が、単にストーリーを進めるためだけに設計されているのではなく、随所に監督のこだわりを感じさせる映像設計になっています。日本がかなり関係している面白さもありますし、細田さんが主人公の恋人を演じている点でも、かなりおすすめしたい一本ですね。



―――カンボジアの荒廃したアパートが物語の鍵になっていそうですが…。

暉峻:昔、香港にあった九龍城砦を思わせる建物ですね。カンボジアは70年代にクメール・ルージュによる大量虐殺が起きたという歴史的背景がありますから、その歴史を思い出させるような場所を使うことで、多くを語らずとも過去の出来事が理解できる話になっているのも注目すべき点です。この作品もどこかの配給会社に買われることを期待している一本でもあります。


■世界的に見て、韓国映画の状況が変わりつつある

―――今年のOAFFでは特別注視部門で韓国短編映画が3本登場しますが、長編の選出がなかった理由は?

暉峻:韓国映画は常時日本で劇場公開されているアジア映画の大人気国です。当然様々な作品が商業的に紹介され、韓国映画ファンのみなさんには、大体作品のイメージがついているという前提条件がまずあります。

 そういう中で、すでに知っているイメージに収まるよくできた作品というレベルではOAFFの入選には至りません。それだけ多数の作品が紹介されている国だからこそ、今までにない新しいトレンドが出てきているとか、こんなに凄い新しい才能が登場した等、新しい価値が求められます。もう一つは、韓国映画は映画祭を通さず、既に日本の配給会社が買い付けている現状があります。ホン・サンスやポン・ジュノ、パク・チャヌクら名匠は別格として、世界の映画祭を見渡しても韓国映画の入選が近年あまり見られないことから、一時は世界の映画祭を席巻していた韓国映画の状況が変わりつつあると感じています。


―――その傾向は、インディーズ映画にもあてはまるのでしょうか?

暉峻:商業作品はヒット作づくりの方程式に則って作られた作品が大部分になっていますし、一方、韓国は国家が手厚く映画製作補助をし、良質のインディーズ作品が作られてきた土壌がありました。ただ、インディーズの方も、こういう企画や脚本であれば補助金が得られるだろうという優等生的でありがちなアート映画がほとんどになってしまった。ですから商業とインディーズ両方ともマンネリ化して新しい刺激に乏しい。日本の配給会社からも同様の声を聞きます。


■韓国の長編より魅力的だった韓国短編『姉妹の味』『同行』『ジョンオク』


―――なるほど、そういう現状を背景に選ばれた韓国短編だったのですね。

暉峻:昨年作られた韓国映画を総合しても、この3本はベスト級に属するいい出来栄えではないかと思っています。

『姉妹の味』は、タイトルを見ただけで、おそらく小津安二郎から相当な影響を受けているのではないかと想像できます。『秋刀魚の味』みたいな小津映画を連想させるネーミングですし、実際に劇中でもちょっとした小道具の使い方や無人ショットの使用法なども小津から学んでいると思わせます。特別なことが起こるわけではないけれど、ある日の姉妹を描いており、それだけでこれだけ感動的な映画を作れるということに驚きます。かといって、決して頭でっかちでつまらない映画ではない。人間観察力が素晴らしく、20代姉妹のある1日がリアルに描かれているので、楽しんでもらえると思いますよ。



―――『同行』は韓国の人気ミュージシャン、ファン・チヨルが劇中でも路上ミュージシャン役を好演する短編です。

暉峻:監督のウム・ムンソクは歌手であり、『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』などで知られる俳優でもありますが、同時に監督としても既に短編を何本か作っている人で、『同行』はプチョン国際ファンタスティック映画祭でワールドプレミアされました。歌手でもある監督が、得意の音楽の分野で作った作品ですね。



『ジョンオク』もまさに中年女性が作品を引っ張るテーマの中に入る一本ですね。その流れの中でも語れるし、中年女性と少女のシスターフッドの物語とも言えます。韓国映画に関してはこれらを超える作品が長編で見つからなかった。



ほかにシンガポールの短編『第4の男』は、オムニバス映画『ファイブ トゥ ナイン』(OAFF2016)の監督の一人、テイ・ビーピンの作品。これも『ブラックバード、ブラックバード、ブラックベリー』から『ジョンオク』に至る、中年女性が物語の中心に位置した作品の一つですが、男性監督作品なのがちょっと貴重なところです。婚活で出会った中年男女の心の機微を実にテンポよくスマートに描いています。



母が働く夜の職場を幼い娘の目線で切り取るアメリカ・中国合作の短編『楽園島』、そしてベルリン国際映画祭で上映された中国の新しい才能、リン・イーハンによるスタイリッシュな中国短編『シャングリラに逗留』は、どちらの監督も中国出身で、アメリカの大学で映画を学んだ経歴の持ち主。15分前後の尺の中で監督の力量を一気に見せきった、今後が楽しみな逸材です。

※特別注視部門の『潜入捜査官の隠遁生活』は香港映画特集紹介にてご紹介予定です。

プログラミングディレクター、暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.4に続く



第19回大阪アジアン映画祭は2024年3月1日(金)から10日(日)まで、ABCホール、シネ・リーブル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館で開催。

チケットは2月21日(水)より順次発売開始。