エドワード・ヤンの映画界デビュー作からウェイ・ダーション最新作まで、台湾映画特集をご紹介!プログラミングディレクター、暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.4


暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.4では、エドワード・ヤンの映画界デビュー作となる日本初公開の『1905年の冬 <デジタルリマスター版>』やウェイ・ダーション監督の7年ぶりの最新作『BIG』、そしてコンペティション部門入選作や短編など、OAFFだから実現できた手厚いラインナップの台湾映画をご紹介しよう。


■コンペティション部門選出は新しい才能の『トラブル・ガール』『サリー』



―――まずはコンペティション部門の台湾作品から、今年のTAIWAN NIGHT上映作となるADHDの少女が主人公の『トラブル・ガール』です。

暉峻:新人監督ジン・ジアフアの作品です。監督の実力は未知数だし、そもそも実年齢より童顔の印象があった『聴説』(OAFF2010)、『軍中楽園』(OAFF2015)、『悲しみより、もっと悲しい物語』(OAFF2019)のアイビー・チェンに10代の娘を持つ母親役が演じられるのか、という疑念もありましたが、実際に観ると本当に驚いた一本です。昨年の金馬奨(台湾アカデミー賞)の主演女優賞で、受賞は『本日公休』(OAFF2023)のルー・シャオフェンに決まりだろうと大方の人が予想していたら、『トラブル・ガール』のオードリー・リンが14歳で受賞を果たし、一番のサプライズになったんですよ。オードリー・リンの迫真の演技は必見です。



―――そしてもう一本のコンペティション部門作品がロマンス詐欺を題材にしたコメディ映画『サリー』。目の付け所がユニークですね。

暉峻:この作品も、中高年女性が作品を引っ張る典型的な一本です。コンペティション外の部門ではありますが、昨年の釜山国際映画祭で世界初上映された作品で、娯楽性が強いところに目を奪われがちですが、現代的なテーマをしっかり盛り込んだとても楽しめる作品。作家の才能を感じますね。


■コンパクトな設定で挑んだウェイ・ダーション監督の『BIG』は劇中アニメーションにも注目!



―――ウェイ・ダーション監督最新作『BIG』の入選も嬉しいですね。『セデック・バレ』(OAFF2012)、『52Hz, I love you』(OAFF2017)以来のOAFF入選です。

暉峻:ウェイ・ダーションは、オランダ統治下の台湾を舞台にした歴史もの3部作の構想を進めていたのですが、さすがに規模が大きすぎたのか、一旦それを棚上げして、『BIG』を完成したという経緯があります。その辺の事情を知った上で観ると、この映画の見え方が変わってくると思います。

歴史ものの方は大風呂敷を広げるだけ広げて、色々な人を巻き込んだ果てに現在停滞している状況なので、おそらく本作はできるだけ簡素な設定で、大風呂敷を広げずに作ることをかなり意識して製作されたと思うのです。ある病院の小児がんで子どもたちが入院している部屋が主な舞台になっており、今までの一連のウェイ・ダーション作品の中では、場面設定がきわだって少ない。一方で、登場人物の数はそれなりに多くて、ゴージャス感はあります。また、あらすじを読むと難病ものに見えてしまいますが、全然そういうタッチがないところも大きな特徴ですね。むしろ楽しい映画になっているというのも監督の明確な意図だと思います。もう一つの見どころは、突然アニメのシーンが挿入されるところ。そのアニメ・パートの監督をしているのが、『君の名は。』『天気の子』『すずめの戸締まり』などの新海誠作品で美術監督を務めてきた丹治匠です。これも大きな要注目ポイントですね。ウェイ・ダーション監督は、今後の新作でも彼と一緒にやっていこうとしているようです。


■元々観た人がほとんどいなかった!?謎に包まれた名作『1905年の冬』をデジタルリマスター版で日本初紹介



―――そして追加ラインナップの一本として、多方面から注目を集めているのが、『1905年の冬 <デジタルリマスター版>』。エドワード・ヤンの記念すべき映画界入り初仕事作品(脚本、出演)を日本初公開です。

暉峻:これは本当にOAFFで上映できてよかったと思う一本です。個人的に大昔から、『1905年の冬』をなんとか日本に紹介したいと思っていましたから。製作当時からやや呪われた作品で、製作は香港の映画会社の名義になっていますが、香港でも台湾でも、まともな規模でロードショーをされたことはないようです。だから元々観た人がほとんどいないにも関わらず、名声だけは広まっていたミステリアスな作品だったのです。

僕はユー・ウェイチェン監督の弟で、エドワード・ヤンの後期作品をプロデュースしてきたユー・ウェイエン監督と親しい関係だったので、弟に本作の35ミリプリントのありかを聞いたことがあったのですが、彼ですらどこにあるのかよくわからなかった。

ところが、台湾の国立映画アーカイブに相当する國家電影及視聽文化中心が『1905年の冬』をデジタルリマスター化して復元し、ようやく上映素材が揃ったのです。台湾で昨年開催されたエドワード・ヤンの回顧展やニューヨークのリンカーンセンターで上映され話題を呼んだのですが、デジタルリマスター版もまだ世界ではほとんど上映されていません。


―――ある意味伝説の作品だったんですね。いかに貴重な上映機会かがよくわかります。

暉峻:一番の見どころは、エドワード・ヤンの映画界デビュー作ということで、脚本と一部の役柄で出演もしているということ。他にも香港の名監督、ツイ・ハークがなかなかの怪演ぶりで主役級の役を演じているのも必見ですし、映画の大部分は日本でロケを行っているんです。主人公の留学先は今日の東京藝術大学という設定ですが、そのキャンパスも上野美術学校の名で登場します。エドワード・ヤンという要素を抜きにしても、非常に面白い映画ですね。


■驚きの短編『馬語』と俳優の仕草が豊かな『ちょっとだけ逃げてもいい?』



―――あと『馬語』という驚きの短編があります。

暉峻:この作品もシンプル極まりない設定で、本当にひとりの人間と一頭の馬だけしか登場しない映画ですが、よくここまで作れたなと感心します。アイドル歌手として一世を風靡したメイヴィス・ファンが主演なのも、見どころです。監督のラン・イーズは既に長編版の企画を考えているそうで、来年か再来年あたりには長編版『馬語』が登場するのではないでしょうか。



―――もう一つの短編『ちょっとだけ逃げてもいい?』の見どころは?

暉峻:毎年のように良作を生み出している高雄映画祭は、短編へ制作補助金を出すシステムを長く続けています。この映画祭も新しい監督の才能を見出す力がすごくある組織だと僕も信頼しています。毎年1本か2本は素晴らしい作品が登場するので楽しみにしているのですが、今回は『ちょっとだけ逃げてもいい?』がまさにそれでした。

冒頭から、主人公が働いている住宅販売店の営業担当が集まり朝の体操が繰り広げられ、まさにタイトル通り、そこから「ちょっとだけ逃げる」訳ですが、それであれだけ面白い世界を展開させる発想力が凄い。監督のウー・ジーエンは、俳優の仕草だけで、どれだけ映画を劇的にしていけるかを非常にわきまえている人で、俳優の仕草の豊かさだけでも印象に残る場面をたくさん発見できると思います。間違いなく、台湾映画の新時代を率いる監督になっていくでしょう。


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プログラミングディレクター、暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.5に続く



第19回大阪アジアン映画祭は2024年3月1日(金)から10日(日)まで、ABCホール、シネ・リーブル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館で開催。

チケットは2月21日(水)より順次発売開始。