常連監督最新作からレスリー・チャンの傑作青春映画ディレクターズカット版まで、香港映画特集をご紹介! プログラミングディレクター、暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.5
暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.5では、日本でも昨年「新世代香港映画特集2023」で作品が全国公開されたノリス・ウォンやアモス・ウィーの最新作やリッキー・コーの世界初上映作、注目短編など、香港映画を一挙ご紹介する。
■実は作詞家として活躍していたノリス・ウォン監督の第2作『作詞家志望』
―――まずはコンペティション部門から、今は台湾に移住しているノリス・ウォン監督の『作詞家志望』です。
暉峻:OAFFファンにとってはおなじみのノリス・ウォンの最新作です。香港では新人監督がかなり香港ローカルな主題で注目作を作り、世界的にも注目されている一方で、第1作で注目され成功しても、第2作をスムーズに作れた人はなかなか少ない。映画監督デビューしても、第2作を作るのが難しい人がたくさんいる中で、彼女は非常に順調に頑張っています。『私のプリンス・エドワード』(OAFF2020)は、自分自身の体験をしっかりとベースにして作った作品ですが、『作詞家志望』も別の側面で自分の体験に深く根ざしているんです。というのも、ノリスは元々作詞家として活躍していた人で、自分が経験したことを相当作品に盛り込んでいると思います。一般の人が分からないような作詞家という職業の細部まで描かれていますね。『私のプリンス・エドワード』の主演コンビであるステフィー・タンが本人役でカメオ出演、ジュー・パクホンが作詞家学校の先生役で登場しています。
■ギリギリ間に合った!世界初上映の『潜入捜査官の隠遁生活』
―――特別注視部門の『潜入捜査官の隠遁生活』は、『黄昏をぶっ殺せ』(OAFF2022)リッキー・コー監督最新作です。
暉峻:OAFF2023のスペシャルーオープニング作品『四十四にして死屍死す』製作会社であるOne Cool Picturesの最新作です。今回は世界初上映ですが、ラインナップ発表する直前まで、製作側でも完成が間に合うかわからなかったというギリギリの判断でしたが、最終的になんとか間に合いました。本当にできたてピカピカのアクション・ドラマです。このジャンルだと男性中心の劇構造を持つ作品が多いですが、本作は女性中心の劇構造になっているのも、面白いところです。
■香港ローカル路線の先輩格、アモス・ウィー最新作『全世界どこでも電話』
―――OAFF常連のアモス・ウィー監督最新作『全世界どこでも電話』も興味津々です。
暉峻:今年に限らずOAFFで上映する香港映画に関しては、香港の地元の観客を真っ先に見つめている映画、裏を返せば中国大陸の観客の嗜好を第一に優先しようとはしていない作品を、好んで紹介してきました。『全世界どこでも電話』もすごく香港ローカルな映画で、監督のアモス・ウィーはその路線の一番先輩格と言える存在です。今、香港ローカルであろうとする思考は、基本的には新人監督が主に強く打ち出していることが多いのですが、アモスはもう中堅の立ち位置ですから、そういう方向からも語れる監督だと思います。
■パトリック・タムが描きたかったラストがここに!『烈火青春 <4Kレストア版ディレクターズカット>』
―――そして昨年の東京国際映画祭で上映された『烈火青春 <4Kレストア版ディレクターズカット>』です。関西のレスリーファンも喜んでいると思いますよ。
暉峻:これは名作中の名作で、てっきり東京国際映画祭での上映後、日本の配給会社が権利を買っているかと思っていたら、意外とそうではなかったので、OAFFでもやることにしました。この作品は、4Kレストア版ディレクターズカットとなっていますが、なんといっても注目していただきたいのは「ディレクターズカット」になっていることです。
というのは、デジタルリマスターする段階で、もう一度監督が立ち会い、少し映画を作り変えているのが大きなポイントなのです。日本でも何度かソフト化されてきましたが、いずれも旧版のものでした。なぜ監督のパトリック・タムがこういうことをやるのかといえば、実は製作当時は色々な意味で結構問題になり、順調にはいかなかった映画だったのです。聞くところによれば当時の検閲や観客のモラル意識と折り合いをつけるのに難儀したり、パトリックも新人監督だったので、映画の結末部分を彼の意向とは全然違う形で完成させられてしまった。そのことがいまだに引っかかっていたのでしょう。
―――つまり、今回のディレクターズカット版はかつて日本で公開されたりソフト化されていたものと結末が違うと?
暉峻:そういういわくつきの映画なので、香港版の映画と台湾版の映画も内容が違うし、どれがパトリック・タムのオリジナルなのか当時からわからなかったのですが、今回、ついに監督の望む形で仕上げられたという意味では、本当に価値のある一本です。単にデジタルリマスターをする以上に、ディレクターズカット版であることの方が意義深いということですね。
■香港映画業界のプロが作った短編『雲と人生』
―――最後に短編を紹介していただきたいのですが、まずは『雲と人生』。キャストは結構豪華ですね。
暉峻:製作経緯的にも特別な環境で作られている作品です。通常、短編映画を作るときは、若い監督志望者がインディペンデントな製作環境で作ることが多いのですが、『雲と人生』は香港のプロの美術家たちの協会が主体となっているので、バリバリの業界映画とも言える作品です。短編なので単独ロードショーはしませんが、携わっているのは香港映画業界のプロや、キャリアのある人たちが作っている。主演も香港ローカルな役者(『私のプリンス・エドワード』のジュー・パクホン、『縁路はるばる』のカーキ・サム)であるということでも語れますし、途中に次々と主人公の前に現れる相手の人たちも皆、香港芸能界で知られた人が登場しますよ。
■インド・パキスタン系香港人監督が描く『スウィート・ライム』
―――もう一つの短編『スウィート・ライム』は、今までにない香港映画です。
暉峻:香港映画というと監督も出演者も香港人や華人というイメージですが、実際の香港社会はイギリス統治下時代から様々な人が移り住み、香港に根を下ろしていきました。そこには多くのインド・パキスタン系の人やフィリピン系の人がいるわけですが、今までの香港映画は、その少数派の人たちはエキストラ的に映ることはあっても、社会に存在しないように描いてきたし、映画界の内部にもいなかった。だから映画の主題にもならなかったわけです。監督のファティマ・アブドゥルカリムは、インド・パキスタン系の家族の一員で、おそらく親の世代からの2世香港人ではないでしょうか。香港映画としてこういう作品もあるということや、香港社会にはこういう人たちも生きているんだということを、知ってほしい。監督はアッバス・キアロスタミのワークショップへの参加経験を持ち、ドキュメンタリーを中心に作ってきた人。今回が初の劇映画になりますが、画面が常に生々しい感覚で満たされているのは彼女の経歴とも関係していると思います。長編劇映画デビュー作も準備中とのことで、とても楽しみな逸材です。
スペシャル・オープニング作品『盗月者』はコチラ
プログラミングディレクター、暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.6に続く
第19回大阪アジアン映画祭は2024年3月1日(金)から10日(日)まで、ABCホール、シネ・リーブル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館で開催。
チケットは2月21日(水)より順次発売開始。
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