日本映画の新しい息吹から怪獣造形のレジェンドが挑む初監督作品まで一挙紹介!プログラミングディレクター、暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.6


暉峻創三氏に聞く第19回大阪アジアン映画祭の見どころvol.6(最終回)では、インディ・フォーラム部門の日本映画から必見の特別招待部門作品まで一挙にご紹介する。




■過去にないほど様々なタイプの作りの映画が並んだインディ・フォーラム部門

―――インディ・フォーラム部門の今年の傾向は?

暉峻:応募本数が過去最高を記録したのに加え、応募作のクオリティも水準以上のものばかりで、落選させるのが本当にもったいないぐらいの力作がたくさん寄せられました。そんななかで入選した作品から見る今回のインディ・フォーラム部門の特徴と言えば、まず過去に類を見ないほどバラエティ豊かな様々なタイプの作品が揃ったことです。これまでは新世代日本人監督による、商業映画とは異なるいわゆるインディーズ系日本映画のイメージにほどよく収まるものがラインナップの主体でしたが、今回は、すぐに商業映画として公開できそうな作品もあるし、シニア世代の映画評論家による監督デビュー作もあるし、外国人監督による作品もあるし、日本人監督が海外で撮った作品もあるし、日本人監督が外国人スタッフを中核に据えて撮った作品もあるし、演劇の世界の著名人が監督した映画もあるし…。これほど様々なタイプの作りの映画が並んだ年は過去になかったですね。


―――なるほど、それだけ日本映画の作り手が多彩になり、かつ大阪アジアン映画祭の存在感が増してきたということですね。

暉峻:たとえば今年は、東京を拠点に活動するポーランド人監督、クリス・ルッツの『ALL THE SONGS WE NEVER SANG』や、台湾人監督、蘇鈺淳の東京藝術大学大学院の修了制作作品『走れない人の走り方』という、いわゆる日本映画と違う環境で撮られた作品が2作入選しており、特徴の一つと言えるでしょう。日本映画といえば、日本人の監督が撮るイメージが強いですが、OAFFではインド人監督のアンシュル・チョウハン(『東京不穏詩』(OAFF2018)、『コントラ』(OAFF2020)、『赦し』(OAFF2023))を紹介してきましたし、アメリカで日本人俳優と映画を撮ってきたデイヴ・ボイル(『ホワイト・オン・ライス』(OAFF2010)、『マンフロムリノ』(OAFF2014))が最近日本でNetflixドラマ「忍びの家 House of Ninjas」を撮るなど、日本で映画を撮っている日本人以外の人が結構活躍しているのです。まだメインストリーム商業映画ではあまり見られませんが、インディーズのシーンでは続々と登場してきているので、その辺りもぜひ注目していただきたいですね。


■ヒロイン役永瀬未留に注目の『ALL THE SONGS WE NEVER SANG』、真利子哲也がアメリカで撮影の注目短編『Before Anyone Else』



―――確かに、アンシュル・チョウハン監督をいち早く紹介してきたのはOAFFでしたし、それに続く才能が登場するわけですね。

暉峻:そうですね。アンシュルにしろ、『ALL THE SONGS WE NEVER SANG』や『走れない人の走り方』にしろ、クレジットを見なければ海外出身の監督によって作られた作品だとは誰も気づかないでしょう。そのくらい完璧な日本映画になっています。

 『ALL THE SONGS WE NEVER SANG』は、東京で生活していた17歳の女主人公が絶縁状態だった叔母の暮らす島に行って、彼女から海女の技を学ぶという話なんですが、もう一つの注目ポイントは、このヒロイン役を永瀬未留が演じていること。彼女には『最後の審判』(OAFF2019連携企画)という主演作があります。川上信也監督による短編で、それほど多くの人は見ていないと思いますが、この短編で見せた彼女の身体言語の強度は凄まじいものでした。また同じく大阪で紹介した短編に川添ビイラルの『WHOLE』(OAFF2019《JAPAN CUTS Award/スペシャル・メンション》受賞、OAFF2021大阪アジアン・オンライン座オープニング作品)がありましたが、その男主人公を素晴らしく説得力たっぷりに演じたサンディ海も、助演として『ALL THE SONGS WE NEVER SANG』に出てきます。



 一方で、こうした海外出身監督による日本映画と逆の流れでとらえられるのが、真利子哲也監督の短編『Before Anyone Else』です。アメリカ・日本合作となっていますが、ストーリーやキャスティング、舞台設定からみて、ほぼアメリカ映画です。元々長編を構想しており、そちらを撮る前に作った短編が本作なので、真利子哲也の今後を占う意味でも、ぜひ観ておいていただきたい一本です。しかも本作は中国の映画セールス会社が応募しており、日本の映画業界は世界の中で孤立していると言われてきましたが、インディーズのレベルでは国際的な結びつきが出てきた印象を受けますね。


■松林麗の監督デビュー作『ブルーイマジン』は「基礎的な映画的素養とでも呼ぶべきものに支えられている」



―――『ブルーイマジン』『蒲田前奏曲』(OAFF2020)などのプロデュースを手がけてきた松林麗さんの監督デビュー作です。日本の映画業界の悪しき部分に立ち向かう女性たちがしっかりと描かれており、2月に開催されたロッテルダム国際映画祭で世界初上映されました。

暉峻:映画業界における性加害を告発するだけでなく、性暴力、DVや様々なハラスメントの被害者たちの連帯も描かれている作品です。女性だけではなく、もっと幅広い連帯を描こうとする意思も感じられます。その連帯は、今どきありがちなSNSに頼ってではなく、あくまでもフィジカルに、ある場所を共有したり、ある場所で対決することで実現しようとしているところも、注目したい点です。

主題面での強さが目立つ作品ですが、本作が入選に至った決定打は、それが監督デビューした松林麗の、基礎的な映画的素養とでも呼ぶべきものに支えられている点です。カットの割り方、省略の仕方など細部を見ると、彼女は日ごろから映画を深く愛してきた人であることがよくわかります。本作はフィリピン、シンガポールとの合作で、『視床下部すべてで、好き』(OAFF2019)『メタモルフォシス』(OAFF2020)などOAFFではおなじみのフィリピン人俳優、イアナ・ベルナルデスや、『PLAN75』で注目されたステファニー・アリアンらが出演しているところも注目してほしいですね。


■『すとん』には『ブルーイマジン』『姉妹の味』と並ぶシスターフッド的要素がある



―――映画業界という点では、コロナ禍に俳優を辞める決意をした女性が主人公の『すとん』も、シスターフッドの要素を感じる作品です。

暉峻:『雛鳥』(OAFF2021)、『緑のざわめき』(OAFF2023)などに出演していた渡邉りか子の初監督作品ですが、彼女自身は役者を辞めたわけではなく、むしろ役者としても今後さらに幅広く活躍していくだろうことは間違いない人です。初監督した短編ということで、どういうものに仕上がっているのか期待半分、不安半分だったのですが、最初の数ショットでもう打ちのめされました。すべての画に映画的な力があり、物語をわかりやすく説明するためだけに終わっているショットはありません。その根源には、自分とは違う他者を観察し、理解し、肯定して祝福しようとする、監督の基本的人生観があるように思います。また大阪アジアン映画祭ではシスターフッド的要素のある作品がなぜかよく入選すると言われているのですが、本作や『ブルーイマジン』、そして韓国の短編『姉妹の味』などが揃った今年も、おそらくそう言われることになるでしょう。


■堀春菜が作品をぐいぐい牽引する『スミコ22』



―――仕事を辞めた後の話という点では、『スミコ22』も大学卒業後4ヶ月で会社を辞めた主人公の日々を綴る物語ですね。

暉峻:なるほど、たしかにそうですね。これは監督の福岡佐和子と本作に出演のはまださつきによる映像制作ユニット「しどろもどリ」の最新作で、『大観覧車』(OAFF2018)、『浜辺のゲーム』(OAFF2019)などでおなじみの堀春菜が主演を務めています。伝統的な劇映画のドラマツルギーとはかなり異なる方法論で作られた作品です。それだけに役者の存在感、説得力が格段に重要になるのですが、堀春菜はこれまでの出演作で見せていた相貌とはまったく異なる相貌を見せながら、作品をぐいぐい牽引していきます。


■小気味良さと山本奈衣瑠によるキャラクター造形の力が凄い『走れない人の走り方』、一流の役者陣と素晴らしい撮影、スマートな脚本が魅力の『オン・ア・ボート』



―――先ほど今年の特徴として名前の挙がった『走れない人の走り方』も若き映画監督の奮闘物語です。

暉峻:『走れない人の走り方』は、コンペティション部門の『水に燃える火』と合わせて語れる作品かもしれません。作品のテイストは異なりますが、自分の企画で映画を撮ろうと奮闘するものの、なかなかうまくいかない苦悩が描かれています。とはいえ沈鬱な話ではまったくなく、全体に小気味よさが際立ちます。インディーズのロードムービーを撮ろうとして悪戦苦闘する主人公を描くインディーズ映画と聞くと、それだけで内容やムードの予想ができてしまうのですが(笑)、この映画はそうした予想を完全に覆してくれました。主演の山本奈衣瑠によるキャラクター造形の力も凄かったですね。



山本奈衣瑠は、同じくインディ・フォーラム部門の短編『オン・ア・ボート』(監督:ヘソ)で、渋川清彦(『山歌(サンカ)』(OAFF2022))、松浦りょう(『赦し』(OAFF2023))らと共演しており、彼女の役者としての幅も両作品で感じられるのではないでしょうか。『オン・ア・ボート』は役者陣が一流揃いなだけでなく、アメリカ出身で日本に来てからは企業CMなどを手掛けてきたダニエル・ラゾフによる撮影も素晴らしいです。ごく限られた場所と時間のなかで生起するドラマに集約したヘソ監督の脚本も、短編を作る際の戦略としてとてもスマートだと思います。


■研ナオコと中尾有伽の役者としての実力が素晴らしい『うぉっしゅ』



―――研ナオコが映画出演で認知症の祖母を演じるうぉっしゅは、介護という切実な問題を扱いながら、ポップでコミカルな印象を与える一作です。

暉峻:ソープ嬢が認知症の祖母の介護をするという設定ですが、体を洗うという意味では同じな二つの仕事をテンポよく見せており、従来の認知症の介護をテーマにした作品とは一線を画す新しさがあります。介護というテーマをいささかも暗くならずに描いた脚本は、本当によく考えられていますね。研ナオコの役者としての実力にも、改めて驚かされました。設定上、かなり限定された動きや台詞しかないのですが、そのわずかな動きや台詞の言い方だけで、人の心を揺り動かします。

ソープ嬢を演じた中尾有伽も要注目です。彼女は今泉力哉監督作『窓辺にて』で、物語の本筋にはほとんど絡まないパチンコ屋の客を演じてるのですが、一瞬の出番にもかかわらず、主演の稲垣吾郎に勝るとも劣らないほど印象に残る、べらぼうに素晴らしい演技を披露していました。明らかに今泉監督が格別に高く評価している俳優ですね。今年のOAFFでは、先述の『オン・ア・ボート』にも出演しています。『うぉっしゅ』が湿ったタッチにならなかったのは、彼女のキャラクター表現に負う部分も大きいと思います。


■日本映画としては稀な国際的視野を持って製作された『カオルの葬式』



―――『カオルの葬式』はTHAI NIGHT上映作『葬儀屋』と見比べてみても面白いかもしれませんね。

暉峻:たしかにどちらも葬儀にまつわる話ですね。ただ本作では葬儀そのものが主題ではないように思います。むしろ葬儀という舞台装置を使って、様々な人間たちのドラマを描くことの方に主眼はあります。短編『優しい日常』(OAFF2018)の監督、湯浅典子が初めてオリジナル脚本で手掛けた長編で、岡山の農村部で行われた元妻の葬儀から展開する話です。このような日本映画が現れたという意味で注目したいのは、まだ映画監督としては新鋭のインディーズに属するにもかかわらず、企画開発段階から積極的に企画マーケットに参加し、日本映画としては稀な国際的視野を持って製作された点です。資金集めだけでなく、スタッフ編成を見ても、日本が舞台の話なのに、撮影、音響などは海外の優秀な才能の手に委ねている。これが結果的に、日本映画としてはほかに類を見ない独特な質感につながりました。


■サイレント映画的な手法と、驚きのキャストに注目の『りりかの星』



―――一方、大ベテランの映画監督たちが出演している『りりかの星』は異色のキャスティングですね。

暉峻:功成り名を遂げた映画評論家が初めて監督した作品というと、正直どこか危うい予感もあったのですが、意外にも映画としての説得力がありました。特にサイレント映画的な手法を取り入れたのが大成功でしたね。塩田監督は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のプログラミングディレクターも務めてこられた方ですが、ゆうばりではなく大阪をジャパンプレミア(改訂版としてはワールドプレミア)の場に選んでくれたのが何よりも嬉しいです。出演者の布陣(廣木隆一監督、三池崇史監督など)や、撮影を黒沢清作品のカメラで知られる芦澤明子が手掛けていることからも、彼がどれほど映画人に慕われ感謝されているかがわかります。


■映画ファンだけでなく演劇ファンも必見の『愛の茶番』と深くて多層的な人間描写が光る『胴鳴り』



―――そしてもう一つ、撮影現場を公開し、訪れた“観客”と作り上げた実験的作品『愛の茶番』、ロードムービーとも言える『胴鳴り』は、タイプは全く違いますがいずれも愛についての物語ですね。

暉峻:『愛の茶番』は、劇団「毛皮族」で知られてきた江本純子の長編監督第2作です。前作『過激派オペラ』は演劇的でありつつも商業映画として流通させることをかなり意識した作りでしたが、今回は商業映画になるための妥協などはほとんどせず、純粋に演劇活動の延長上に映画を作ったという感じがあります。今回のインディ・フォーラム作品中、もっとも自由奔放に作られた作品ではないでしょうか。映画ファンだけでなく演劇ファンも必見の一本です。



『胴鳴り』は、2006年のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)に『胸騒ぎを鎮めろ』が入選し、以後インディーズのフィールドで活躍してきた楫野裕の最新作です。婚外子の娘と今まで関わりを持とうとしなかった父という親子の物語なのですが、監督自身の人生経験の積み重ねが伝わる、とても深くて多層的な人間描写が光ります。一つ間違うとドロドロした映画になりかねないドラマなのですが、そうはならず端正さや気品に満ちているのが特徴ですね。カメラワークや色彩設計、そしてロケ場所の選定の素晴らしさも、その特徴の醸成に寄与していると思います。


■日本だけでなくアジアの怪獣映画の怪獣造形分野に携わったレジェンドの初監督作『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』



―――最後に特別招待部門も注目の日本映画が揃いました。まずは、非常に貴重な作品が紹介されます。『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』について教えていただけますか。

暉峻:日本の怪獣造形界におけるレジェンド的存在である怪獣クリエイターの村瀬継蔵が初めて総監督を務めた特撮映画で、OAFF会期中に開催される第47回日本アカデミー賞で「協会特別賞」の受賞が決定しています。村瀬継蔵は香港のショウブラザーズや台湾、韓国などで作られてきた怪獣映画の怪獣造形分野にも関わっており、ある意味アジアを股にかけて活躍してきた人でもあるので、OAFFで彼の監督デビュー作を世界初上映できることは、非常に相応しく、そして嬉しく思っています。思わぬ人気スターが参加しているところもお楽しみの見どころです。


■尼崎発映画『あまろっく』は幅広く人々を感動させられる力を持った作品



―――そしてもう一本の特別招待部門作品が、世界初上映の『あまろっく』です。

暉峻:尼崎を舞台に、関西出身の江口のりこ(『戦争と一人の女』(OAFF2013))、中条あやみ、笑福亭鶴瓶が主演、監督も尼崎出身の中村和宏と、言わばご当地映画的な企画の人情喜劇なのですが、ご当地映画の域を超えて幅広く人々を感動させられる力を持った作品です。

かつて大阪市では「CO2」(シネアスト・オーガニゼーション・大阪。旧称フィルム・エキシビション in OSAKA)と呼ばれる大阪発の新世代映画人育成事業を展開していたのですが(現在は民間ベースで展開)、江口のりこはその第2回(2006年開催回)の助成作品『お姉ちゃん、弟といく』に主演し、女優賞を受賞した経歴があります。『お姉ちゃん、弟といく』の監督は、今回コンペ部門に『スノードロップ』で入選した吉田浩太。そしてその時の選考委員の一人が、今回コンペ部門に『水深ゼロメートルから』で入選した山下敦弘監督でした。




―――かつてCO2で見出された才能たちと審査員が、今年のOAFFの特別招待部門、コンペティション部門入選作で並ぶとは感慨深いですね。たっぷりとお話いただき、ありがとうございました。

(江口由美)

(C)PKFP PARTNERS LLC.

©︎2024 映画「カミノフデ」製作委員会



第19回大阪アジアン映画祭は2024年3月1日(金)から10日(日)まで、ABCホール、シネ・リーブル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館で開催。

チケットは2月21日(水)より順次発売開始。