自分の中の「好きなこと」を考えてみたくなる『スミコ22』福岡佐和子監督、堀春菜さん(出演)、はまださつきさん(出演・助監督)インタビュー
福岡佐和子とはまださつきによる映像制作ユニット「しどろもどリ」の最新作『スミコ22』が、6月29日(土)より新宿K's cinema他、全国順次公開される。
堀春菜(『浜辺のゲーム』『大観覧車』)を主演に迎え、スミコの「自分の感覚がひどく曖昧なものになっていること」に気づいた22歳の日々を、日記調で綴っていく。ちょっとした日常の中にクスッと笑えたり、心温まることがある。そんなささやかだけれど、自分の中の確かなものを見い出すプロセスが楽しい。
3月に開催された第19回大阪アジアン映画祭で世界初上映後、福岡佐和子監督、堀春菜さん(出演)、はまださつきさん(出演・助監督)にお話を伺った。
■大学サークル、珈琲研究会で出会い、結成した「しどろもどリ」(福岡・はまだ)
―――まず、映像制作ユニット「しどろもどリ」誕生の経緯について教えてください。
福岡監督:(はまだ)さつきちゃんとは、日本大学芸術学部に在学中、コーヒーを飲んでおしゃべりする活動を行う珈琲研究会というサークルで出会いました。最初は仲の良い友達からはじまり、ふたりでしゃべっていると、この会話を誰かに聞いてほしいなという気持ちが芽生えて、ラジオをやりはじめ、ごく少数の友人にだけ聞いてもらっていたのです。
はまだ:そこで「しどろもどリ」というユニット名が誕生し、ふたりで何かをやるという雰囲気ができました。珈琲研究会でコントを書くことが流行りだした時期があり、じゃあコントをやろうかとYouTubeチャンネルも作ったりしました。
福岡監督:わたしはずっと脚本を書き続けていたけれど、なかなか映画を撮ることに踏み出しきれなかった時期とコロナ禍が重なり、ずっと演劇をやっていたさつきちゃんのスケジュールが空いたので、このタイミングで映画を撮ろう!と踏ん切りがつきました。実際、最初に撮った作品、『トエユモイ』(21)はまさにコロナ禍の話でした。
―――本作は、主人公スミコが大卒で就職後、数ヶ月で辞めた後のお話ですが、福岡監督も同様の経験をされたそうですね。
福岡監督:わたし自身は最初からあまり就職したくなかったのですが、両親が就職を強く望んでいました。フリーランスで活動することを説得する材料を当時は持ち合わせていなかったし、就職前は働きながら創作活動もできるのではと思っていました。日記は大学時代に書いていたのですが、就職して書けなくなってしまい、仕事を辞めてからまた書き始めたので、そこはスミコにも繋がっています。『スミコ22』を撮ることになる前は、書いた日記を小説にしようと考えていましたが、本作のモデルになった珈琲研究会のメンバーに読んでもらうと、「(映画を)撮りなよ〜」と言われて(笑)
■堀春菜は「どんな人なんだろうと知りたい気持ちになる」(福岡監督)
―――なるほど。福岡監督の分身のようなスミコを演じてもらう人を探すのは大変だったと思いますが、堀春菜さんを起用した理由は?
福岡監督:プロデューサーの髭野(純)さんとワークショップを開催したときに、髭野さんからの声がけで堀さんに来ていただいたのが最初です。スミコはとても大事な役なので、どなたに演じていただくかはすごく悩みましたが、わたしと堀さんは結構違う部分がありながらも、ある一点ですごく近い気がした。何かは言語化できないのですが、そこが大きかった気がします。
はまだ:そのときさわこちゃんとと話したのは、堀さんは無理していない感じというか、自分がしゃべりたいときだけしゃべってくれる感じがいいなと。
堀:いやいや、もうちょっと頑張ってましたよ(笑)
はまだ:自分を崩さずにしゃべっている、堀さんのままでいてくれる感じがしました。ジワジワ魅力が押し寄せる感じですね。
福岡監督:第一印象で、その存在に圧倒されるというよりは、堀さんの場合は脚本を読んでもらうとすごく素敵で、どんな人なんだろうとすごく知りたい気持ちになる。そこが、スミコのキャラクターに近い気がします。
■「しどろもどリ」のワークショップは心地よく楽しかった(堀)
―――堀さんは『空(カラ)の味』では摂食障害に悩む高校生を、『浜辺のゲーム』では同性に思いを寄せ、悩む大学生を演じていましたが、今回は家の中のシーンを中心に等身大の22歳という今まで意外と演じてこなかった役に挑戦されています。
堀:観てくださった方、みんなに「観たことのない堀春菜だった」と言われました。先ほど話題に出たワークショップでしどろもどリのおふたりに初めてお会いしたのですが、おふたりの自己紹介の時間が長かったのが印象的で、福岡さんが「わたしが好きなのはサーモンで…」とすごく色々教えてくれたし、参加者に急にしゃべってもらうのはやりづらいと思われたのか、おふたりの自作のサイコロを振って「最近うれしかったこと」など、上の面に出た話題について話すという感じでした。しゃべりたくなければしゃべらなくてもいいし、心地よい感じにさせてくれるおふたりだなと思い、ワークショップがすごく楽しかったのです。後ほどスミコ役のオファーをいただき、最初は大丈夫かなと思ったのですが、福岡さんからお手紙をいただきましたし、ひとつひとつのことが全て嬉しかったので、スミコ役をやろうと思えました。
―――ユニークなシーンが多いですが、撮影現場ではいかがでしたか?
堀:わたしは最近、楽しむ能力を手に入れたんですよ。『スミコ22』はスタッフ・キャスト共に同年代が多かったので、みんなで楽しみながら撮影できましたし、福岡さんがモニターを見ながらニコニコしていたので、その雰囲気が全体にも伝わって、現場がのびのびしていたので、結果、このような作品になったのだと思います。みんなでファンタグレープを飲んだり、いい現場でしたね。
―――現場の雰囲気は大事ですね。ギスギスしているといいものが生まれませんから。あと感想では「飯テロ」という言葉も上がっていましたが、食べるシーンを撮るのは好きですか?
福岡監督:食べることも食べるシーンも好きですね。意識的に食事シーンを入れているというよりは、勝手に食事シーンが増えている感じです。食べ物を挟んだ会話が普段から好きだし、人とご飯を食べるのも、ひとりでご飯を食べるのも好きなので、自分の好きが故だと思います。
■自分が思っていることに気づくことを大事に(福岡監督)
―――「自分の好きとは?」と大きく構えて考えると難しくなってしまいますが、実は意外と細かいところに自分の好きのこだわりがあることに気づくのが、食事シーンです。
福岡監督:紫キャベツも胡椒も、ちょうど脚本を書いている時期に自分に対して気づいたことだったので、それを言える空間があるのはいいことだと思ったし、言えない空間でも言えるかもしれない。「『紫キャベツが苦い』と思ってる」と思ったことが大事だった期間だったし、スミコにとっても大事だと思っています。
堀:「紫キャベツが苦い」と気づいても、それを大切にする余裕とか、愛おしく思うことは難しいですが、ちょっとしたことに気づきたいなと思うようになりました。『スミコ22』を試写会で観た3日後に「可愛いな」と思うようになり、それが映画のことなのか、この世界のことなのかはわからないけれど、ちょっと今日はいい日になりそうだと。だからいい映画なのだと思います。
―――減点主義の世の中で、ささやかな幸せを見つけて楽しんでいくという柔らかな生き方を気づかせてくれている気がします。
堀:自分のことはよくわからないし、わたしは好きだと言えるものがないんですよ。でもしどろもどリのふたりは「これとこれは好きだな」と口をついて出てくるのがいいなと思っていました。『スミコ22』公式Xで登場人物のひと言紹介が掲載されているのですが、それを見たとき、愛ある言葉で端的に紹介されていて、その人の良さや魅力が何もないわけではないんだなと感じました。
■映画を撮ることで、しどろもどリの混じり合っている部分が分離し始めた(はまだ)
―――周りが自分の「好き」を気づいてくれている場合もありますよね。
福岡監督:スミコの場合は割と加点方式だと感じていたけれど、人が本当に心から思っていることは何であっても素敵だと思うんです。例えば「だる〜」とかもそうですし。自分でそう思っていると思えていることがいいなと感じます。わたしもスミコひとりをじっと見つめることで、他の人に対していろいろなことを思えるようになった気がしています。
はまだ:今まで一緒に活動してきましたが、さわこちゃんがモデルになったキャラクターは初めてなんです。6年ぐらいずっと仲良しで、一緒に暮らしてもいるけれど、わたしの知らないさわこちゃんがたくさんあり、『スミコ22』を撮ったことで、わたしとさわこちゃんの違いをはっきりと認識することができました。今まで混じりあっていた部分が分離し始めた感覚があり、それが嬉しいなと最近思っています。わたし以外の人みんなが考えていることを感じられない時期が昔あったのですが、そうではないことがちゃんとわかっている今が嬉しいです。それぞれが思っていることに対し、良い悪いの前に、そのことに気づけているのが嬉しいですね。
―――劇中でスミコが短編映画を撮っていますが、実際は誰が撮影したのですか?
福岡:わたしがカメラを回し、さつきちゃんの知り合いで犬を飼っている人に出演してもらいました。道端で見つけた猫も撮りましたね。急にそのエピソードが登場しますが、映画ってそんな感じで(肩肘張らなくても)いいんじゃないかという思いはあります。
堀:短編の中で急に踊っていますが、その撮影をしているときは、「今日は何してるんだろう?大丈夫かな?」と密かに思ってました。その前に、二人が真顔で踊っている動画が送られてきて、「この振り付けでお願いします」と(笑)。そのシュールさといったら!わたしもスミコとして踊りましたが、あのシュールさは超えられなかったですね。特典映像で付けてほしいぐらいです。
―――滋賀のバンド、ゴリラ祭ーズさんの音楽もすごく映画に馴染んで、いいですね。
福岡:ゴリラ祭ーズさんはわたしが22〜23歳のときによく聞いていたので、『スミコ22』の音楽を考えたとき、ぜひお願いしたいと思いました。リコーダーが入っているのも映画の雰囲気に合うと感じて、思い切ってメールでオファーをしました。ドキドキしましたが、数日後に快諾のお返事をいただいたときは、嬉しかったですね。映画に曲を書いてもらうことが初めてだったので、感無量でした。
はまだ:主題歌を送っていただいたときは、嬉しくて3回連続で聞きました!
■お芝居を楽しむ努力を重ね、みんなで楽しく過ごした現場(堀)
―――堀さんは10代から主演作を含め、着々とキャリアを重ねて来られましたが、この現場はいかがでしたか?
堀:わたしは22歳だったのが5年前なので、だからこそスミコを演じられたのかなと思う部分はあります。22歳のときにスミコ役をやったら、もっと演じるのに必死だったでしょう。27歳の今だと、22歳のころを振り返ったときに少し余裕が持てた気がします。
福岡:スミコのことを、すごく客観的に捉えてくれている気がしました。
堀:現場でも自由に居させてもらったんですよ。歌いたいときに歌って、踊りたいときに踊って。
福岡:わたしも現場ですごく緊張してしまうタイプなのですが、堀さんが急に近くで飲み物を買って飲んでいたりするとこちらもリラックスできたし、堀さんのおかげで現場のいい雰囲気ができたと思います。
堀:昔は、わたしが変なお芝居をして現場の雰囲気を壊したらどうしようというプレッシャーが結構大きかったのですが、昨年1年間は結構舞台をたくさんさせていただき、演劇の先輩方に「春菜、もっとお芝居を楽しんでいいんだよ」とアドバイスをいただいたのです。お芝居を楽しんでいいということが衝撃的で、そこから楽しむ努力をしています。『スミコ22』も福岡さんによりかかりながら、みんなで楽しく過ごせるように考えたいと思った結果、すごく楽しかったです。
―――お芝居を楽しむというのはご自身にとっても、ひいては作品にとっても大事ですね。22歳はターニングポイントとして映画でも描かれることが多いですが、本作のように自然体で、女性の日常にある生理の話が出てくるのもいいですね。最後に、スミコのアルバイト先であるピザバーの店長役は『まっぱだか』他監督、出演としても活躍中の安楽涼さんです。
福岡:映画『夢半ば』がすごく好きで、『夢半ば』が好きということは監督・脚本・主演の安楽さんが好きということなので、それ以降何度かお会いする中で、この人が映画に出てくれたら嬉しいなと思っていたんです。
これまでずっと学生映画を撮ってきたので、今回は本当に初めての制作環境で、たくさんの素晴らしい方に参加していただき、映画を作ることができた。全員に対して頼れるし、任せていいんだと思える現場でした。
堀:しどろもどリが素敵だから、素敵な人を引き寄せるんですよ。
福岡監督、はまだ:至らぬところもたくさんあったと思いますが、ありがとうございます!
(江口由美)
<作品紹介>
『スミコ22』(2024年 日本 65分)
監督・脚本・編集:福岡佐和⼦
プロデューサー:髭野純 助監督:はまださつき
出演:堀春菜 はまださつき 松尾渉平 樹 安楽涼 梶川七海 イトウハルヒ 川本三吉 遠
藤雄⽃ 瀬⼾璃⼦ 中川友⾹ 安川まり 原恭⼠郎 ⿊住尚⽣ 東宮綾⾳ ⽊村知貴
ナレーション:⼯藤祐次郎
宣伝デザイン:東かほり 主題歌:ゴリラ祭ーズ「⽇記」
企画・制作:しどろもどリ 製作・配給:イハフィルムズ
映画『スミコ 22』公式サイト:https://sumiko22.amebaownd.com/
©︎スミコ22
0コメント