『BAUS 映画から船出した映画館』映画館の歴史がひもとく”映画と街と人のキオク”
わたしがコロナ下で神戸・元町映画館の運営メンバーとなってから早5年近くが経とうとしているが、自分が映画を映画館で観る側から、運営する側になってから、見える景色や想い、気がつくことは大きな変化を遂げた。そしてサブスクで多くの映画が自宅で観られるようになった今、昔ながらの映画館やミニシアターを続けていくことが極めて難しいということだけでなく、観客と来場ゲストとを結ぶ得難い場所として、やはりなくしてはいけない文化を担う場所の一つであることを実感している。
生まれてからずっと関西で暮らしてきたこともあり、名前しか知らなかった吉祥寺バウスシアター。その始まりがいまからおよそ100年前のトーキー前夜と非常に古い歴史があったことや、家族3世代で映画館の灯を守り続けてきたことを本作で初めて知った。日本の映画や映画館の盛衰という大きな目線で観る一方で、青森から吉祥寺にたどり着き、成り行きから吉祥寺に初めてできたの映画館”井の頭会館”に勤めることになったサネオ(染谷将太)と兄ハジメ(峯⽥和伸)の映画館と共にある人生や、サネオを支えた妻タネ(夏帆)の映画館を切り盛りする姿など、映画館にまつわる人々を時代と共にしっかりと描いている。そして生前に青山真治監督が温めていた企画である本作では、妻のとよた真帆がタネの母役で、まさにこの映画自体を見守っているような存在感を見せているのだ。
特に感慨を受けたのは、戦後映画館が再び繁栄を極めた時代に、最終上映が終わったあと、タネやその子どもたちが一緒に映画館スタッフ全員分の晩御飯を作り、ロビーに机を並べて、まさに大家族のように食卓を囲んでいたシーンだ。1日の営業を終えて、みんなで食べる晩御飯が、映画館で働く人たちお互いのコミュニケーションの場ともなり、働きを労う場にもなっていたのだろう。今真似できることではないだけに、映画館を運営する人々の裏側の姿を垣間見ることができた気がした。
ムーンライダーズの鈴木慶一がバウスシアター創設者である本⽥拓夫をモデルにしたタクオ役で出演し、現代の視点から本作の語り部のような存在を示しているのも味わい深い。井の頭公園で佇む姿に、それまで映画館や映画に人生を捧げてきた人たちの様々な姿が重なっていく。映画館が街の文化の灯であったこと、そして吉祥寺バウスシアターが閉館したあとも、その灯を今でも日本各地で守り続けている映画館がある。本作はそんな映画館たちへ、青山真治監督からのバトンを受け継ぎ、映画を作り上げた甫⽊元空監督をはじめ、出演した俳優たち、そして見事な音楽で時代の空気を再現した大友良英らが贈ってくれた最大のエールのように思えた。ご覧になったみなさんの心に残る映画館も、きっと重なることだろう。
(江口由美)
<作品情報>
『BAUS 映画から船出した映画館』
2024年/⽇本/ヨーロピアンビスタ/116分
監督:甫⽊元空
脚本:⻘⼭真治 甫⽊元空 ⾳楽:⼤友良英
出演:染⾕将太 峯⽥和伸 夏帆
渋⾕そらじ 伊藤かれん ⻫藤陽⼀郎 川瀬陽太 井⼿健介 吉岡睦雄
奥野瑛太 ⿊⽥⼤輔 テイ⿓進 新井美⽻ ⾦⽥静奈 松⽥弘⼦
とよた真帆 光⽯研 橋本愛 鈴⽊慶⼀
2025年 3⽉21⽇(⾦)より、テアトル新宿、テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー
3月23日(日)上映後、京都シネマ、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸にて甫⽊元空監督による舞台挨拶あり
公式X:@BAUS_movie
©本⽥プロモーションBAUS/boid
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