リマ・ダス監督、故郷アッサム地方にて4年がかりで作り上げた『ヴィレッジ・ロックスターズ2』を語る@OAFF2025


 『ブルブルは歌える』(OAFF2018、スペシャルメンション)、『トラの旦那』(OAFF2023)のリマ・ダス監督最新作『ヴィレッジ・ロックスターズ2』が、第20回大阪アジアン映画祭特別注視部門作品として3月23日「テアトル梅田」(大阪市北区)で日本初上映された。

 過去2作品が同映画祭で紹介され、今回が初来日となるリマ・ダス監督が上映後の舞台挨拶に登壇した。その模様と追加インタビューをご紹介したい。



■俳優志望から、独力で映画づくりをした『ヴィレッジ・ロックスターズ』(2017)と2020年から4年がかりで作ったパート2

 もともとは俳優を志して、故郷のアッサム州から大都会のムンバイで生活し始めたリマ・ダス監督は、たくさんの映画を観るうちに、自分でも映画を作れるのではないかと思い、映画撮影を学ぶ学校に行かず、カメラを買って独力での映画づくりに取り組みはじめたという。2013年から製作を始めたのが本作のパート1となる『ヴィレッジ・ロックスターズ』(2017)は、村の子どもたちが紙で作ったギターで遊んでいるところから着想を得たそうで、映画づくり自体が手探りで、予算のない中、とにかく撮影を続けたという本作はトロント国際映画祭をはじめ、各種映画祭に招かれ、第91回米国アカデミー賞外国語映画部門のインド代表作品に選出されている。

 主人公ドゥヌがギターを買ってもらうところで終わったパート1に続く『ヴィレッジ・ロックスターズ2』は2020年から撮影をスタートさせ、今までと同様最小限のクルーで、故郷の親しい人たちと共に4年かけて製作。リマ・ダス監督は「最初は母と娘の物語や主人公の音楽への憧れを中心に描いてきましたが、後から自然の変化や、それが私たちに与える影響を盛り込みました」と、アッサム地方が置かれている状況の変化をリアルに反映させたことを明かした。




■意図的に女性の視点を盛り込む責任がある

村の女性たちが集まって農作業をしながら語らう中で「女の真の敵は女」というセリフが登場したり、インドで女性の置かれている状況が様々なエピソードの中で盛り込まれていることについては、「インドの映画協会は男性監督が多く、女性として意図的に女性の視点を盛り込む責任があると感じました」とリマ・ダス監督。

「女の真の敵は女」という言葉はよく言われているものとしながら、「インドの女性はどこか心を閉ざしていたり、本当にやりたいことがあってもできない状況にあるので、ドゥヌのように男の子がやるような木登りをしたり、ギターを弾いて音楽への夢を追求したり、何か新しいことを女性がしているのを見ると、嫉妬的な気持ちが生まれてくる。言葉づかいはキツイかもしれませんが、相手に敬意を払っていないのではなく、(女性が抑圧された)インド社会から自然に生まれた言葉だと思っています」と背景にある社会的状況を解説した。



■リマ・ダス監督の映画スタイルは「フィクションだがリアルに近いもの」

 リアリティーのあるキャラクターが織りなす物語は、ドキュメンタリーのように映るが、実際には「フィクションだがリアルに近いもの」になると、リマ・ダス監督。俳優がどうしてリアルに演技をできるのかとよく聞かれるそうで、そういう撮り方自身が自分のスタイルだとし、「舞台となっているアッサム州の村の出身ですから、村の状況や、ルーツや土地のことをよく知っています。出演者もとても親しい人たちなので、リアルなドキュメンタリーのように見えるのではないでしょうか。母と娘の物語は私の想像の賜物ですから、そういう意味ではドキュメンタリーではなくフィクションだと言えます」と自身の映画スタイルを明かした。日本での初の舞台挨拶の最後にリマ・ダス監督は、日本の多くの素晴らしい映画に影響を受けたことに感謝の気持ちを述べた。



■アッサム地方の美しい夕焼けに込めた想い

 本作のもう一つの主役と言えるのが、アッサム地方の村の美しい風景だ。広大な母なる大地で行われる田植えから稲刈りまで、一年の大地とそこで稲作をして生きている人々とのつながりを丁寧に映し出している。また何度も登場する夕焼けの景色は、個人的に昨年冬に旅した西ベンガル地方のシャンティニケタンの夕焼けを彷彿とさせ、ひときわ心に残った。映画の冒頭で、「人々、土地、文化に敬意を捧げる」と述べられていたが、この夕焼けのシーンにはどんな意味が込められているのか。リマ・ダス監督は「私自身夕焼けを愛していますし、ほとんどの人が夕焼けを愛していると思います。そして夕焼けは時や季節によってその色も微妙に違っています。もう一つ、夕焼けを見ると“何か(日常)を失っていく”というイメージがあります。今は自然破壊が進行しているので、この美しい夕焼けが変わってしまうかもしれない。そういうことを想起させる狙いもありました」

 最後に、最愛の母を亡くしたドゥヌが母なる木を抱きしめて終わる本作に続く『ヴィレッジ・ロックスターズ3』の製作についてリマ・ダス監督に尋ねると「すぐにではありませんが、非常にしっかりとした物語はありますので、(製作を)考え始めるとすれば2年後ぐらいでしょうか」 開発の波がアッサム地方の小さな村にも押し寄せ、洪水など自然の脅威がより人々の暮らしを苦しめる今、それでも自然や動物たちと共に生きる人々や子どもたちのたくましく美しい姿を映し出した本作が第20回大阪アジアン映画祭で日本初上映されたことを、心から喜びたい。

(江口由美)