黒崎煌代とタッグを組み、東京を舞台に家族の断絶と街の断絶を描く『見はらし世代』団塚唯我監督インタビュー


 カンヌ国際映画祭監督週間に日本人史上最年少で選出されたことも話題の新しい才能、団塚唯我監督による長編デビュー作『見はらし世代』が、10月10日(金)よりテアトル梅田、なんばパークスシネマ、アップリンク京都、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき他全国ロードショーされる。

  主人公、蓮を演じるのは、本作が映画初主演となる黒崎煌代。結婚を控え将来について悩む姉、恵美を木竜麻生が演じるほか、ランドスケープデザイナーの父には遠藤憲一が扮している。変わりゆく東京の街並みが断絶した家族の物語と重なり合う描写に注目してほしい。 本作の団塚唯我監督にお話を伺った。 



■カンヌで期待されていることを痛感 

――――まずは、『見はらし世代』のカンヌ国際映画祭監督週間選出、おめでとうございます。日本からは同部門に『国宝』も選出され、若手からベテランまで幅広いキャリアの監督作品が揃った注目の部門ですが、カンヌに参加しての感想や、どんな刺激を受けたのか教えていただけますか。 

団塚:僕にとってはカンヌが初めて参加した海外映画祭だったので、まずは言語の壁を超えて上映でき、海外のお客さまに映画を観ていただけたのが素直に嬉しかったです。お客さまからは東京という街に対しての質問が多く、日本的な家族のあり方や人間関係のあり方に反応していただいた方も多かったのは、海外映画祭ならではと感じました。

  どこに行っても「次の作品は何ですか?」と聞かれることが多く、期待していただいていることを痛感しています。 


――――初長編でカンヌの監督週間選出ですから、周りの期待が大きいというのもわかります。初長編で、このような家族の物語にした理由は? 

団塚:先月27歳になりましたが、この作品の脚本は23歳のときに書き始めていたんです。まだまだ知らないことがたくさんある中で、自分が一番長くいたコミュニティーである家族のことを描くことがスタート地点になりました。みんな各々が抱えているであろう家族に対する違和感を、僕自身も感じている部分があったのと同時に、東京出身の僕は東京の再開発や街に対する違和感を感じており、その二つの違和感が重なったんです。このときに「これは映画になりそうだ」と思い、執筆を進めていきました。 


■家族の断絶と街の断絶 

――――映画の冒頭に登場し、映画の要となっている渋谷の宮下公園について、東京の皆さんの受け止め方や、団塚さんご自身にとってどんな場所なのかを教えてください。 

団塚:東京オリンピック2020がコロナ禍で1年間延期され、翌年の東京オリンピック開幕に合わせて、もともとあった宮下公園がMIYASHITA PARKとして公園一体型の商業施設に生まれ変わったのです。渋谷という街に対しての変化を如実に感じる瞬間でしたし、当時は、野宿者排除の問題がよくニュースで取り上げられていましたが、それだけを語るのではなく、それ以外の形で今の街のあり方を捉えられるかを考えながら、撮影していました。 


――――黒崎煌代さんが演じた蓮の父はランドスケープデザイナーで公園を再開発し、商業施設化する立場ですが、一方の蓮は後半、街の公園を居場所にしていましたね。 

団塚:家族の断絶と街の断絶を描く上で、最も効果的であるのがこの形だと思い、こういう作劇にしています。 


――――ファンタジー的な要素が加わることで、登場人物たちの気持ちが大きく展開していきますが、最初からファンタジーを取り入れる予定だったのですか? 

団塚:プロットの段階で、すでにあのような表現を取り入れる予定だったのですが、思った以上にご覧になったみなさんから、それらのシーンに対する反応が大きくて驚きました。僕は映画にしかできないことをやるという感じで、脚本段階でそこに対する新規性はあまり感じていなかったのですが、実際に撮影し、通しで観たときにはじめて、こういう表現になっていたのかと、作っていく中で気づいていきましたね。 



■姉と弟、感情の出方は違うが根っこではほとんど同じことを思っている 

――――蓮と姉の恵美とは、父に対する温度差がかなりあるように感じましたが、演じてもらう上で何かディレクションはしたのですか? 

団塚:主演の蓮に関してはあまりこう思っているとか、ああ思っているなどを口に出すのではなく、彼には言葉にできない感情があり、それがあるシーンでは怒りに変わり、あるシーンでは涙に変わるけれど、楽しいときはふつうに楽しそうにしている。そんな揺らぎのあるキャラクターにしたかったのです。

  一方で恵美は言語化レベルが高く、自分の感情を明確に表現することはできるけれど、「わたし、昔のことはいい」というセリフに象徴されるように、そういうことを言いながらも果たして本当はどうなんだろうと思うのです。言語化すればするだけ、そうでない感情もはらんでいるのではないかという感覚で脚本を書いていました。姉と弟で根っこの部分ではほとんど同じことを思っているのでしょうが、感情の出方の違いで両者の変化が生まれてくるのではないかと思いますね。 


――――特に蓮はほとんどセリフがありません。セリフがあるときのインパクトが大きいのと、目で感情を表現している演技だなと思って観ていました。黒崎さんとは蓮の内面を掘り下げるために、どんな話をしたのですか? 

団塚:黒崎くんとは元々友人なのですが、役について明確に話したことはあまりないんです。それに僕も正直言えば蓮のバックグラウンドはわかってないので、脚本に書いてあること以外の情報は僕もないし、黒崎くんと蓮に関して持っている情報は同じでした。その感覚でお互いに「なんなんだろうね」と言いながら作っていった感じなので、僕から役作りに関する指示はそれほどたくさん出していないし、黒崎くんの力が大きいのではないかと思います。 



■遠藤憲一さんに父役を託した理由は? 

――――この物語で鍵となる父を演じた遠藤憲一さんは、一番にこの役のオファーを考えていたのですか? 

団塚:そうですね。もともと映像化する前の脚本の文字情報だけで役をイメージしたときは、もう少し硬派でシュッとした感じの、カッコいいランドスケープデザイナーを想像したのですが、それだと面白みに欠ける気がしたのです。ただ強い男性というのではなく、もう少しひとりの人間として風通しが良いというか、なぜだか憎めない人物にした方がいいのではないか。この映画の考えること、例えばある一人の男性の葛藤みたいなことに対して、わかりやすくない形で複雑な感情を描けるのではないか。そう考えたときに、遠藤憲一さんがこの役を、おもしろみのあるものにしてくれるはずだと思い、オファーさせていただきました。 


――――家庭人としては失格かもしれませんが、揺らぎを感じるキャラクターでしたね。この父の会社で働く台湾人スタッフ役で、映画監督の蘇鈺淳さんが出演しています。彼女が社長である父に詰め寄るシーンは、真正面からアップで捉えられ非常に強いインパクトがありました。また彼女が語る言葉も説得力がありました。このシーンについてその狙いを教えてください。 

団塚:蘇さんももともと友人で、彼女と一緒に映画を作っていましたし、卒業制作の『走れない人の走り方』には僕も出演していましたし、今回は出てもらおうという感じでキャスティングしました。遠藤さんが演じる父が、スタッフや菊池亜希子さん演じる父の恋人などあらゆる人から、その人ならではの視座から発言されるときにどういう反応をするのかをずっと撮っておきたいと思っていた中で、そのときの遠藤さんと蘇さんの顔が良かったので真正面から撮りたくなったのでしょうね。 



■蓮のセリフが少ないのは「自然とそうなったとしか言いようがない」 

――――蓮の表情が変わっていく様子をじっくりと捉え、セリフではない表現に重きをおくというのは、もともとそういう作風がお好きだったとか? 

団塚:そんなことはないですよ(笑)もともとテレビドラマがすきでしたし、坂元裕二さんのドラマも好きです。以前の短編では、むしろセリフを多く書くタイプだったんですよ。本作をご覧になった皆さんは「セリフが少ない」とおっしゃるのですが、遠藤さんと菊池さんのシーンや木竜さんのシーンは結構セリフがありますし、僕からすれば結構書いたのにと思ってしまう(笑)。


 黒崎くんが演じる蓮にセリフが少ないのは、言葉にできない感情を主人公に委ねていたし、都市や家族に対しての複雑な気持ちにリンクすると思っていたからです。脚本を書いているときはそんなつもりはなかったのですが、演出をしていくと、黒崎くんと遠藤さんの父子がしゃべるシーンは結局一回しかない。自然とそうなったとしか言いようがないし、そんなに男同士の親子でしゃべることなんかないのでは?というのが正直なところです。父から蓮にかける言葉もなければ、蓮から父にかける言葉もないということに、作りながら気づいていきました。 


――――セリフが少ないと感じさせる一つとして、街を映しているシーンが全体の中で比較的大きな割合を占めているところかなと思うのですが。 

団塚:家族の映画であると同時に街の映画でもありますから。遠藤さん演じる初のランドスケープデザイナーという職業も相まって、家族が変わっていくことと風景が変わっていくことを同時に捉えたいと思いました。家族という個別具体的なモチーフの物語を、景色という公共的なものと重ね合わせていくことで、ある一つの問題がどちらかといえば普遍的な問題なのではないかとか、この人たちだけの話でないのではないかと暗示させたかった。その過程で風景が増えていきましたね。 


■素直に東京で生まれ育った人がいることを、映画にしたいと思っていた 

――――東京に対する愛を感じました。そうでなければ、ああいう風に撮れないなと。 

団塚:渋谷のスクランブル交差点しかり、『東京』はたくさん撮られていると僕は思っています。ただし基本的に東京という街は揶揄の対象にされることが多いし、夢を追う街といったように一言で語れる『東京』のイメージがあらゆるメディアで流布されています。でも素直に東京で生まれ育った人がいることを映画にしたいと思っていました。多分流布されたイメージで『東京』が語られることへの違和感もあったのでしょうね。 


――――今まで「東京」がどのように表象されていたのかということですね。 

団塚:今までの表象があまり上手とは言えないなと思っていました。よくある東京を描いた映画の中では、僕自身がピンとくるものがあまりない。だから肯定するのでも揶揄するのでも憧れるのでもなく、もう少し正しく東京を撮りたいという気持ちはありましたね。 

(江口由美) 




 <作品情報> 

『見はらし世代』”BRAND NEW LANDSCAPE”

(2025年 日本 115分) 

脚本・監督:団塚唯我 

 出演:黒崎煌代、遠藤憲一、木竜麻生、菊池亜希子、中山慎悟、吉岡睦雄、蘇鈺淳、服部樹咲、石田莉子、荒生凛太郎、中村蒼、井川遥 

 2025年10月10日(金)よりテアトル梅田、なんばパークスシネマ、アップリンク京都、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき他全国ロードショー 

公式サイト⇒https://miharashisedai.com/ 

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