主人公は秋葉原の交差点。ジャ・ジャンクーのように、街の中で生きる人たちの映画を作りたかった。 『Noise』松本優作監督インタビュー

 

2008年に無差別殺傷事件が起きた秋葉原。今もポップカルチャーの聖地として様々な人が行き交うこの場所を舞台に、殺傷事件で母を亡くした地下アイドル、ひとり親の父と不仲な女子高生、母の借金で人生が狂わされていく配達員の夢と葛藤を描いたビビッドなヒューマンドラマ『Noise』が、3月1日(金)からテアトル新宿、3月29日(金)からシネ・リーブル梅田、3月30日(土)から名古屋シネマスコーレ、今春元町映画館で公開される。 


ミスiD2015ミスiD賞受賞・マルチに活躍中の篠崎こころ、ソロアイドル、舞台役者として活躍する安城うらら、兵庫県出身の実力派俳優、鈴木宏侑が親に反発を覚えながら、秋葉原に居場所を求める主人公を熱演。人気DJ 、banvox(バンボックス)の手がける音楽が、秋葉原のノイズや、登場人物たちの心の揺れをセンセーショナルに彩る。 秋葉原無差別殺傷事件をモチーフに、構想から8年かけて初長編を作り上げた神戸出身の松本優作監督にお話を伺った。



 ■実際に秋葉原で活動している人に出演してもらいたいと声をかけ続けた。 

――――ご友人の自殺、それと同時期に起きた秋葉原無差別殺傷事件が構想のきっかけだそうですが、脚本を書くにあたりどんなリサーチをしたのですか。 

松本:この映画は秋葉原の事件をモチーフにはしていますが、事件そのものを描いている訳ではないので、過去にどういう事件が起きたのか、実際にそこに住む人たちをリサーチしました。映画でも実際に秋葉原で活動している人に出演してもらいたいという思いがあったので、ずっと秋葉原に通い、そこで生きている人に声をかけることをずっとやっていた感じですね。 



■秋葉原は色々な人の居場所になっている。 

――――秋葉原といえばオタク文化のイメージがありましたが、今はオジサンの癒しの場になっているのに驚きました。 

松本:秋葉原は結構色々な文化がミックスされている異文化の街だと感じます。僕が今まで映画などで見ていた秋葉原は、キャラクター文化が全面に出ていて、表面的にしか捉えられていない。僕は秋葉原でライブやオーディション撮影の仕事をすることが多かったので、従来描かれてきた秋葉原に対する違和感があったのです。実際の秋葉原は、駅の近くはすごく明るいけれど、一本奥に入ると全く別の雰囲気になったり、もっと色々な表情があります。僕が一番感じたのは、色々な人の居場所になっているということ。地下アイドルのライブにお父さんたちが通っているのは、居場所を求めているのだということを取材しながら感じました。  


――――地下アイドルだけでなく、お客さんにも取材されたんですね。 

松本:そうですね。実際に、ライブのシーンでは地下アイドルのライブに通っている人たちを集めて、エキストラで出演してもらいました。普通のエキストラだと掛け声が嘘っぽくなってしまうので、普段本気で掛け声をかけている人たちにやってもらおうと。そこは演出なしで、ライブしているのを僕たちが裏で撮っているという感じにしました。 



――――美沙役の篠崎こころさんの存在が映画制作の大きな原動力になったそうですが、出会いから出演までの経緯を教えてください。 

松本:篠崎さんは、僕の亡くなった友達に雰囲気がすごく似ていて、最初からすごく懐かしさを覚える人でした。先に、ヒロインはリフレ店で働く設定にして脚本を書いていたのですが、篠崎さんに脚本を見てもらうと、彼女自身もアイドルになる前は、地下アイドルをしながら、リフレ店で働いていた経験があり、思った以上に僕が書いてきた脚本と、彼女の歩んできた人生がリンクしていたのです。実際に、篠崎さんの生い立ちを聞いてみると、壮絶な体験をしている人でした。彼女は演技経験がないので、役作りをしてもらうより、自分として出演してもらった方がいいのではないか。そう考えて、彼女の体験を脚本に反映させました。最終的にはセリフというより、役を通して自分の気持ちを口にできたので、かなりプライベートな思いが詰まった映画になったと思います。 



■子どもの頃、親を見て気づいたことを意識的に盛り込んで。 

――――若者たちの今を描く映画では、親の存在を描かないケースが多いですが、『Noise』は親との関係や親自身の悲哀もしっかりと描いています。その狙いは? 

松本:僕自身のバックグラウンドと同様に主人公3人は全員片親にしています。普通の家族は想像できなくて、書いても嘘っぽくなってしまいますから。僕は母親だけだったので、片親で大変だったことを子どもなりに色々と見てきました。子どもは思ったより大人ですから、大人が子どもは気付いていないと思っていることも、意外と子どもが気づいたり、感じていたりするものです。そういう部分も意識的に盛り込んでいきました。  


――――親自身の弱さは監督ご自身の視点から描かれていたのですね。子どもへのネグレクトも親自身の弱さからきているのでは? 

松本:そうですね。だから、居場所を求めようとしている人たちの話でもあるのです。例えば、布施博さん演じる里恵の父も、偶然自分の子どもと似た地下アイドルを見かけて、その世界にはまっていきます。これは実際に取材で聞いた話で、自分の娘と関係がうまくいっていない人が、偶然見かけた娘に似たアイドルにはまってしまう。そういうパターンも以外に少なくないのです。




 ■親と仲たがいをして家に帰れない里恵は、国のセーフティーネットからこぼれた人。 

――――里恵は親との不仲から、家を出て秋葉原に居場所を求める高校生ですが、3人の主人公の中で、ある意味一番普通の境遇にあるキャラクターです。この役ができた背景は? 

松本:なぜこういう出来事(無差別殺傷事件)が起きたのかを追求するための映画だと思い、脚本を書いていましたが、なかなか答えが出てこなかった。だから、その答えを探すために映画を撮ろうというスタンスにしたのですが、被害者の視点、加害者の視点に加え、直接事件と関係のない人の視点が必要だと感じたのです。日本では生活保護や様々な福祉によるセーフティーネットはありますが、取材する中で、親とケンカをして帰れなくなった子どもは、意外と駆け込める場所がない。そういう子が多く、気付かれにくい部分ですが、実は深刻な問題だと思っています。映画でもアイドルグループに在籍し、ネットカフェで寝泊まりしている子を描いていますが、実際の取材でそういう人たちの話も聞きました。里恵はある種、国が張っているセーフティーネットからこぼれてしまった人なんです。でもこぼれてしまった下にも彼女たちにとってセーフティーネットになる場所がある。それが、この映画ではキャバクラなんです。ギャバクラも好きでやっている人もいれば、なんとなくそこに行きついてしまった人もいるわけですが、そこにいて意外と居心地がいいように作られていて、わざわざそこから外に出る必要がない。秋葉原で居場所を探していく中で、(キャバクラに)居着いてしまうようになるまでの途中段階の子という設定にしました。そういう子が取材をしていて、一番多かったのです。 


――――完全に堕ちきってしまう描写は多くても、そこまではいかない宙ぶらりんな状態の人を描くのは珍しいですね。 

松本:映画としても善悪を明確にするようなイデオロギー的な見せ方はしたくなかったので、できるだけ真ん中の視点で作らなければ事件に対する想像が止まってしまう。単に「アイツが悪い」となると、それだけで終わってしまうので、主人公を犯罪にまでは至らない真ん中の場所に置くことで、色々と観客の皆さんに想像してもらいたいですし、僕自身も想像しながら答えにたどり着きたかったのです。何が良くて、何が悪いというのは決めず、出来る限り真ん中の視点で作りました。 



■健は一番自分に近い存在。鈴木さんは撮影の1〜2ヶ月前から家に住んで役作り。 

――――無差別殺傷事件をモデルにした健は、鈴木さんの演技も素晴らしかったですが、人物像はどうやって作り上げていったのですか。 

松本:健は一番僕に近い人物像です。僕も秋葉原で運送屋でブツブツ言いながらバイトをしていたので、映画の中に自分を入れてみたかったのです。だから一番書きやすかったですね。後は、過去の事件の犯人に共通するような要素も入れています。永山則夫や中上健次の小説を読んだり、こういう風に思うことあるなと、僕自身にリンクすることもありました。役作りで言えば、実際に健の家となる物件を撮影の1~2ヵ月前から借りて、鈴木さんにそこで住んでもらい、母親役の川崎さんも時々住んでもらって、映画で登場する2人以前、つまり仲が悪くなる以前の親子を作ってもらいました。その時間があると、母親と仲が悪くなってからの鈴木さんの芝居が変わってくるのです。仲良かった時代を経験しているからこそ、仲たがいをしても親を捨てきれない。だから、一番時間を使って役作りをしていただきました。  


――――健はいたずら電話でうっぷん晴らしをし、その歯止めがだんだん効かなくなっていきます。いきなり怒りが爆発するのではなく、段階があることをうまく表現していますね。 

松本:美沙は怒りをぶつける場所がありましたが、健は怒りをぶつける先がなかった。それは結構大きかったと思います。彼は電話で不特定多数の見知らぬ相手にぶつけるしかなかった。恨みだとターゲットが決まっていますが、漠然とした怒りは誰でもない何かに向かってしまうのです。 



■インディペンデントだからできる表現を。監督だけが考えた映画ではなく、色々な人の思いが集まった映画を作る。 

――――主人公たちの周辺の人物も丁寧に描いています。リフレ店店長役の小橋賢児さんが上からの命令に対し「売れるということが、本当に幸せなことなのか」と美沙がより厳しい境遇に追いやられないように庇うシーンがあります。こんな葛藤を抱える店長像は珍しいですが、小橋さんをあて書きしたのですか? 

松本:あれはまさに小橋さんがいつも思っていたことをそのまま入れてもらいました。地下アイドルや、ひょっとしたら映画監督もそうかもしれませんが、売れることがゴールになっている部分があると思います。そもそも、それが正しいのかどうか。小橋さんの場合は、売れていくことにより、自分が自分自身でなくなってしまったのです。地下アイドルも地下だからできることがたくさんあると僕は思っています。逆に地上に上がると色々な制約があってできなくなってしまう。地下アイドル=売れていないというのも、ある種のイメージにすぎないので、また別の視点があるという小橋さんの考えは共感できると思いました。それは自分が実際に経験しないと出てこない考えですから。僕は自分が思っていることを映画に入れてほしいと思っています。それが入ることで、映画が他人事ではなくなる。観客の皆さんも考えてもらえる映画になるのではないかと。監督だけが考えた映画というよりは、色々な人の思いが集まった映画を作りたいし、それはインディペンデントだからこそできる表現であり、誇っていいと思っています。 


――――キャストの皆さんが思っていることを映画に反映させるには、脚本を書く段階で相当キャストとの皆さんと話す機会を持たなければなりませんね。 

松本:脚本は人と話すことをまず一番にしました。リハーサルというよりは、キャストと話をして何を思っているかとか、どういう風に生きてみたいかということをメインに、シーンについて1~2時間ぐらい話をした後に撮影するという感じで、カメラの場所も決めなかったり(笑)。  


――――デビュー作でその作業をするのは楽しかったですか?大変でしたか? 

松本:篠崎こころさんは思い出すと辛くなる話が多かったので、当時はお互いに早く終わりたいと思っていました。時間をかけてやっと話してくれたこころさんの思いを、きちんと映画にしなければという責任感が大きかったです。そういう思いが詰まっている以上、きちんと公開しなければと。すべてが初めてだったので、編集も1年かかりましたし、ようやく公開して、逆にさみしくなるのかもしれませんね。  



■人気DJ 、banvox(バンボックス)が作った環境音と環境音の楽曲に注目!

――――洪水のように押し寄せる音のインパクトも非常に大きかったですが、音作りでこだわった点は? 

松本:banvox(バンボックス)という今人気のDJが音楽を担当しています。僕と同世代で、今は10万規模のイベントをやるぐらいの人気者ですが、僕と出会う前ぐらいに、人生を終わりたいと思ったことがあったそうです。僕と同様に友人の死という出来事も体験し、音楽だけでも残したいと作ってネットで発表したことがきっかけで、大躍進し、DJ界のスターとなっていきました。『Noise』のテーマ曲、「Save me」も彼自身の気持ちが出ている曲なので、この曲しかないと思いました。 


――――DJサウンドだけでなく、生活音も工夫が感じられました。 

松本:新しい試みとして音楽と環境音をボーダレスにしてみました。普通に聞こえている環境音の中には、banvoxが作ったものも多く含まれています。僕が音素材をbanvoxに渡し、彼がパズルのように組み合わせる。いわゆる環境音ではあるけれど、彼の楽曲なのです。冒頭の音楽は環境音だけで作っています。よく聞いていただくと、チャックを上げる音とか、ナイフがささる音など、色々な音が混じっています。それは本編の中の際立った同時録音の音を引っ張り出して、それをくっつけて音楽にしているんです。そういう視点で見てもらえると、「ここはbanvoxが作った音かな」と分かっていただけるかもしれない。僕自身も今までやったことがなかったので、楽しくやっていました。 



■映画を作り終えた今、ある出来事を色々な角度で考えていくことが、一番大事と気づく。 

――――ラストは秋葉原の街に全員さまよい出し、事件が起きるわけでもなく、すれ違いのまま終わっていきますが、こういうエンディングにした意図は? 

松本:僕が映画を作るとき、根本的に主人公が人ではないことが多いんです。『Noise』の場合は、秋葉原の交差点が僕の中では主人公で、その中に生きている人たちという映画の作り方をしたいと思っていました。『日本製造/メイド・イン・ジャパン/メイド・イン・ジャパン』もラストが川で終わっていますが、やはり場所を主人公にしたいと思っていたからです。ジャ・ジャンクーの映画が好きなのですが、『長江エレジー』なども場所が主人公で、そこにぽつぽつと生きている人たちが見えてくる。そういう映画に学生時代すごく影響を受けていたからかもしれません。あの場所で過去に起きた出来事があり、今あの場所で生きている人たちがいる。そう考えると、メインに考えなければいけないのは秋葉原の交差点なんです。実は10分長いバージョンは美沙の表情で終わっていたのですが、最初やろうとしたことと違うのではないかと思い、今の形になりました。よく聞いていただくと、交差点の「ピッポー、ピッポー」という信号機の音が、僕の中で大事だなと思っている箇所に挿入されています。誰も気づかないと思いますが(笑) 


――――秋葉原無差別殺傷事件の答えを探す映画を作り終えて、事件の根源は何か、仮説のようなものはできましたか? 

松本:映画を作り終えた今、ある出来事を色々な角度で考えていくことが、一番大事なのではないかと思ったのです。 そういう想像をしていかなければ、多分今後も事件を防げないのではないか。色々な原因や偶然の積み重ねがあって、こういう事件が起こるのではないかと想像することが、平和な街にする一番の近道なのではないか。そう気づきました。 



<作品情報> 

『Noise』(2018年 日本 115分)  

企画・製作・監督・脚本・編集:松本優作 

出演:篠崎こころ 安城うらら 鈴木宏侑 岸建太朗 仁科貴 小橋賢児 布施博他 

2019年3月1日(金)~テアトル新宿、3月29日(金)〜シネ・リーブル梅田、3月30日(土)〜名古屋シネマスコーレ、今春元町映画館、出町座他全国順次公開

公式サイト → https://noise-movie.com/nmwp/ 

配給:マコトヤ

©映画「Noise」製作委員会  




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