『オールド・オーク』分断する世界に希望の灯がともるまで


 先日自身のキャリア初期作品となる炭鉱での労働者たちを描いた『石炭の値打ち』が日本で初劇場公開されたばかりのイギリスの名匠、ケン・ローチ監督。自国の炭鉱町で働く炭鉱労働者たちを題材にした作品はライフワークとなっているが、今回はシリアからの大勢の難民たちを国が受け入れ先として指定した寂れた炭鉱町が舞台だ。



 斜めになってしまった店名のアルファベットを棒で直し、改装する余裕もなく、ただそこで営業をし続けている現地で唯一のパブ「オールド・オーク」。店内には、元炭鉱労働者の男たちがギネスビールなどを飲みながら、活気を失った町の数少ない居場所でくつろいでいる。右肩下がりでいいことなんて何もない。そんな状況の彼らの前に現れたのがシリアからの難民家族たちだった。


 

 炭鉱で労働者をまとめ上げる役目を担ったこともあるオールドオークの店主、TJは、シリアから逃れてきたヤラの壊れたカメラを直す手伝いをしたことから、ヤラと心を通わせるようになるが、シリア難民をあからさまに毛嫌いする元炭鉱労働者たちは自分たちの最後の居場所までも奪うのかと憤る。希望もなく、心が荒んでいる町の人たちの感情を肌で受け止めながらも、カメラを片手に、徐々に町の人たちと溶け込んでいくヤラ。故郷を追われ、大変な境遇の中、たどり着いたその町の人たちの背景を丁寧に捉えようとする彼女の姿勢は、町の人たちに対する敬意を示すだけでなく、ひとりの人間としてどんな場所でもそこで生きる人々が苦しみを少しでも和らげ、共に暮らしていけたらという願いが込められているようにも映る。


  

 ヤラらシリア難民たちに協力的なTJに敵対的な態度をとる元労働者仲間たちも、国策に翻弄された被害者であり、今の自分たちの生活が苦しいことへの苛立ちやもどかしさから、同じ境遇の仲間たちと団結し、他なる者たちを排除しようと躍起になる。これはこの炭鉱町だけの話ではなく、世界中の縮図と言えるだろう。ヤラと元労働者仲間たちとの間で苦悶するTJは、ひょっとしたら観ているわたしたちそのものかもしれない。だが、人の心はどんなに辛いことが起きても立ち上がれる強さや、悲しみに共感し支え合おうとする美しさを持っているはず。分断と力の支配が進む今の世界に、人間が本来持つ善なる心を信じぬくケン・ローチ監督が描いた希望の灯と、それがもたらす未来をしっかりと受け止めたい。


<作品情報>

『オールド・オーク』(2023年 イギリス、フランス、ベルギー 113分)

監督:ケン・ローチ 脚本:ポール・ラヴァティ

出演:デイヴ・ターナー、エブラ・マリ、クレア・ロッジャーソン、トレヴァー・フォックス

配給・宣伝:ファインフィルムズ

2026年4月24日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他全国ロードショー


© Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023