「俳優の自分役を演じるのはすごく勉強になったので、みんなやったらいいですよ」 『津田寛治に撮休はない』主演、津田寛治さんインタビュー


 数多くの映画やドラマに出演してきた名バイプレイヤーの俳優、津田寛治が本人役で主演を務める映画『津田寛治に撮休はない』が、4月17日(金)よりkino cinema心斎橋、テアトル梅田、24日(金)よりアップリンク京都、25日(土)より元町映画館ほか全国順次公開される。

 映画の現場、テレビの現場、映画館での舞台挨拶と休む暇なく現場を渡り歩く俳優、津田寛治は、ある日を境に周囲で不可解な出来事が起き、自分が誰かにつきまとわれていると感じるようになる。大学生の娘との関係、演じるということのやりがいと虚実がないませになっていく様など、コミカルかつミステリーの香りも漂う。新鋭、萱野孝幸が脚本、監督を務めた全く新しいエンターテイメント作品だ。

 本作の主演、津田寛治さんに上映劇場の元町映画館でお話を伺った。



■取材せずに描いた萱野監督の脚本が現実とリンク

―――まず、どのような形で萱野孝幸監督からオファーがあったのですか?

津田:大分のブルーバード劇場で舞台挨拶をしていたときに、萱野監督ご自身が大分出身ということもあってか、僕に会いに来てくださったんです。そのときが初対面で、「実は津田さん主演でやりたい企画があります」と渡されたのが、『津田寛治に撮休はない』と大きく書かれた企画書でした。なんだこれは!と最初は驚き、思わず「バラエティーですか?」と聞くと、「いやいや、これを劇映画でやりたいんです。津田寛治さんに津田寛治さんを演じてもらい、ドキュメントのように津田さんがお仕事をしているのを撮りながら、実はドキュメントではなくミステリーになっていく感じをやりたい」とおっしゃって。

それなら、僕のことをたくさん取材した方がドキュメントっぽくなると思うので、一度取材日を作りましょうという話をして別れたのですが、結局取材をしないままに台本が届いたんですよ。一瞬、全然違うことになっていたら…と思ったのですが、読んでみると、なんでこんな他人に話したこともないようなことまで書かれているんだというぐらいリアルだった。萱野監督になぜここまで書けたのかを聞いてみると、取材をせずにとりあえず自分の想像で書いてみたのだそうで、それが現実とリンクしていた。運命だなと思いました。


―――むしろ怖いぐらいですね(笑)

津田:ほんとうに。そして何より台本としてすごく面白かったし、津田寛治役でなくても出たいと思うぐらいだったので、「ぜひ、やらせてください」とオファーを受けました。


―――ずっと走っているイメージがありましたが、演じてみてかなりエネルギーが要ったのでは?

津田:演じているのが楽しかったので、疲れるも何もなかったですね。睡眠時間もあまり取れなかったけれど、眠いという感覚もなかったし、あっという間に1ヶ月近くが過ぎていきました。撮影が終わったときは、またクランクインに戻りたいなと思ったぐらいです。



■俳優をやりつつスタッフワークのスタイルが、大変な現場で功を奏す

―――まさにループですね。色々な主演の形があると思いますが、ここまでほぼ全シーンに登場している主演はなかなかないです。

津田:今までそんな経験をしてこなかったので、完成試写を観たときは「なんで俺ばっかり出ているんだ」と(笑) 衣装合わせも着ては写真を撮ってをループのように繰り返して大変だったと思います。でもplayApartという事務所に所属している俳優たちが多勢出演しているのですが、その事務所は「俳優ですが、スタッフワークもできる」というのが売りで、この映画でも出演しながらスタッフワークをやってくれたんですよ。俳優をしている方がスタッフをしてくれるからこそ、僕たちの気持ちをわかってもらえる部分が結構ありましたし、スタッフとしても優秀な人たちばかりだったので、これだけ大変な現場でもうまくまわりました。俳優をやりつつスタッフワークもやるという方法が功を奏しましたね。


―――本当に、とてつもない人数のキャストが出演していますよね。色々な撮影現場ごとにキャストやスタッフがいて。

津田:ドラマ「ミステリーホリック」だけでも何十人もキャストやスタッフがいますし、ホームレスの面々チームも何人もいたり、ホームドラマ「あおいの初恋!」にも何十人もいるし。


■萱野監督は独自のやり方をするクレバーな人

―――津田さんはいろんな撮影チームの中を駆け抜ける、狂言回しでしたね。

津田:そういう作りになっていましたね。最初のヤクザ者っぽい作品の現場にも何人もの人がいて、僕が撮影を終えて走っていく中を何人もの人が横からセリフを被せてくるような形で、走り去った先にインタビュアーがいる。そこで答えると、今度はカットを何度も割りながら、何人もの人と絡んでいく。すごく面白いし、監督が頭が良くないとあそこまで複雑なものを演出できないです。萱野監督はメモしているのを見るでもなく、全て頭に入れた上で的確に指示を出す人なので、相当にクレバーな方だなという印象でした。


―――初めてご一緒した萱野監督の印象が「クレバー」だと?

津田:師匠がいるとか、どこかの現場に(助監督などで)参加した経験やそういうことに影響を受けているという感じが全くなくて、萱野監督はやり方が独自なんです。

使っている業界用語も初めて使っているような言葉を使っていたり、とにかく新鮮なことばかりでした。テイクを重ねる監督なのですが、それが俺のやり方というより、ただ細かく演出をする中でそれぐらいのテイクが出るという感じ。監督も相当カロリーを使いながらテイクを重ねているので、演じている役者の方も楽しそうでしたね。



■ピカイチの演技、妊婦のマネージャー役、中村祐美子

―――さらに、これだけあちこちの現場を飛び回る津田さんのマネージャー役、中村祐美子さんの存在が素晴らしかったです。本作ではプロデューサーもされていますね。

津田:中村さんの演技はピカイチでした。僕とマネージャーがレストランでしゃべっているシーンで、僕が一生懸命しゃべっているんだけど、マネージャーはずっとスマホをいじっているんです。あの時中村さんは、実際にプロデューサーとしてエキストラの手配をやっていたんです! エキストラの手配をしながらセリフを言うなんて、すごいなと。リアルに仕事をしながら、上の空で相手に返事をしている演技なんて、それこそ俺が目指しているところじゃないかと。すごい人だなと思いました。


―――妊娠後期のマネージャーというのも、『ファーゴ』のフランシス・マクドーマンド以来ではと思うぐらい印象的でした。なかなか映画には登場しないですが、実際は妊娠8ヶ月ぐらいまでみなさん働いておられるので、すごくいいなと。

津田:中村さんが本当に当時妊婦さんだったので、検診のゼリーを拭きながらというシーンもすごくリアルでした。一方で、マネージャー業は俳優業同様過酷なので、妊婦さんをここまで過酷に働かせていいのかとちょっと不安にはなりましたが。




■日本映画をたくさん観ることで活路を開いたデビュー当時

―――劇中でも津田さんが年下の俳優に促され、一緒に独自メソッドのワークショップを受けるシーンがありますが、今の若手俳優は演技を学校やワークショップなどで学ぶのが主流になっている気がします。津田さんは演技をどのように学んでいったのですか?

津田:「That’s 芸能界」の時代だったので、芸能界をピラミッドに例えれば、上の方はきらびやかで、下の方は隙あらば芸能界に憧れる若者をカモにするような、そんな世界でした。「テレビにでない?」とスカウトして、金だけ巻き上げて終わりという芸能事務所もありましたし、僕も例に漏れず、事務所に所属してレッスン代をさんざん払っていたけれど、出演するチャンスは一向に来なかった。俳優養成所を併設して成り立っているようなプロダクションが多かったんです。

当時所属していた事務所のマネージャーに最近観た映画のことを聞いたことがあったのですが、「ばかやろう、映画なんて観ている暇なんかないんだよ」と言われ、この人にとって映画は単なる娯楽なんだなと、ショックを受けました。映画をやりたくて福井から上京したのに、映画からすごく遠いところに来てしまったと痛感し、一度事務所を辞めてフリーランスになり、自分自身も映画をもっと観なくてはと思った。日本映画の監督の中で、僕の心の琴線を震わせる人は誰かを知りたかったんです。80〜90年代は日本映画がどん底だった時代ですが、その中でもまだ輝くものを持っている監督がいるのかと懸命に日本映画を見続けたら、黒沢清監督や伊丹十三監督、市川準監督と面白いと思える監督がいらっしゃった。

そこからは、そういう監督の皆さんの事務所を調べてプロフィールを持っていったり、いらっしゃらなかったらポストに入れたりという行動を続けるうちに、北野武監督に出会い、映画デビューに至るという感じだったんです。


―――なるほど、まずは日本映画をたくさん観て、自ら動くことが俳優としての活動の第一歩になったんですね。映画ではかつての名監督を思わせる寡作の名匠も登場しますが、時代の波には抗えない様子も描かれていますね。

津田:そうなんです。こだわりが強い名監督が「フォロワーが…」というあたりも、非常にリアリティがありますよね。



■演じることの原点に戻って

―――様々な現場での悲喜こもごもや、虚と実があいまいになっていく姿を見ていると、俳優というのは自分の魂を削りかねない、大変な仕事だなとつくづく思いますが、津田さんご自身はどうですか?

津田:僕は演じることを探求し続け、成長したいという思いが強いのだと思います。物語の中にどれだけ入り込めるか、その中でもっとリアルに登場人物の気持ちになるとか、そういうことを追求していくと、ワクワクしていく。その過程は自分の魂を削るというより、自分が成長していることになるんじゃないかと感じています。


―――なるほど、ワクワクするのがポイントですね。

津田:若かったら削るという感じだったかもしれませんが、ある程度歳を重ねていくと、削らないやり方というか、成長する方向での役の追求の仕方が多分わかってきたという感じがありますね。

僕自身も、映画の中の津田寛治ぐらい働いていたすごく過渡期の時代は、一つ一つに気持ちが入り込むというより、技術でこなしていたんです。それでなければ仕事をこなせなかった。50代になり、このままでは自分は役者としてダメになってしまうと思ったし、自分が一番やりたかった芝居はこれじゃないという感じがあった。

僕のデビューは北野武監督の『ソナチネ』ですが、そのとき監督に言われたのが、「芝居をしないで」。ちょっとやろうとすると「ほらほら、芝居が始まってるよ」と。カメラの前で芝居をしないでということを、僕だけでなく共演していた大杉漣さんにもおっしゃっていた。大杉さんも「カメラの前でこんなに何もしないなんて、生まれて初めてだよ」とおっしゃるぐらい。

北野監督の考え方はカメラの前では何もしない、何かするならカメラに映っていないところでやるべきだと。そこで台本を読み込んだり、自分で体験したことを積み重ねたものがあるから、撮影現場で何もしないで立っていてもそれが映ったり、さらけ出されるのだとおっしゃっていて、そういう意味での何もしないでということなのかと、今の年齢になって、またデビュー当時のところに戻ってきたんです。カメレオン俳優と言われても、そういうものを全部捨てて、物語の中でただ役として感じるだけ。そこに到達したいと今になって思うようになりましたね。


―――シンプルですが、神経を研ぎ澄ませて共演者の言葉や気配を感じながら演じるのは、実は難しいことですよね。

津田:偶然フワーッと入り込んでいくことはあるのですが本当に役に入るということは、何回かしかないんです。自分でコントロールして役に入るというものでもないですし。



■初めて一人でも多くのお客さまに観てもらうことを考えた作品

―――映画業界、テレビ業界を俯瞰して見つめるような、壮大な群像劇になっていますが、津田さんご自身はご覧になって気づいたことはありますか?

津田:自分が出ている作品はあまり冷静に観ることができないのですが、今回はこんなに自分がたくさん出ているのに、お客さんとして普通に物語に取り込まれていって。自分が出ていないかのように観ていた感じがあり、観終わってから、はっと自分が出ていたことに気づきました。試写だったので、最後に挨拶をお願いされたのですが、映画に衝撃を受けて、声がでなかったんですよ。そして映画を観て、尚のこと、この映画は一人でも多くの人に観てほしいと思いました。


―――なるほど、一瞬で一観客として飲み込まれるほど、魅力的だったと。

津田:これまでの作品は自分の出演シーンを確認して、すぐに次の現場にという感じで、その作品をどう観ていただこうかということまで自分が考えることはなかったんです。

この作品に関しては初めて「どうすれば、一人でも多くのお客さまに観てもらえるだろうか」ということを考えるようになりましたね。


―――その言葉は上映劇場側としても嬉しいと思いますよ。劇中でも忙しい撮影の合間を縫って舞台挨拶に登壇しているシーンがありましたが、元町映画館に携わるわたしも嬉しいなと思いながら観ていました。

津田:舞台挨拶途中で退席するなんて、失礼なんじゃないかと思いながら演じていましたが…。



■ミニシアターの人たちの熱が自分のワクワクに

―――それはそれで舞台挨拶のリアルさも出ていましたし、何よりミニシアターがキャストを招いてじっくりと舞台挨拶で話を聞くということを映画で観てもらえるのもいいと思います。

津田:そういう点でもこの作品をミニシアターで上映してもらえるのはすごくいいと思います。シネコンだとすぐに消費されてしまい、あっという間に上映スケジュールから消えてしまいますが、ミニシアターは作品を大事に扱ってくれますし、僕たちも一生懸命舞台挨拶にお邪魔して観客のみなさんと交流することができる。シネコンだと舞台挨拶をやりたくても嫌がられると聞きますし、僕も舞台に立たずに入り口でお客さまに挨拶するぐらいにしてくださいと言われたことがあります。

でもミニシアターは真逆なので、僕たちも協力をさせていただけるというのが本当に嬉しいですね。ミニシアターの人たちの熱がないと本当に成立しない作品だということを、今回は身にしみて感じています。


―――そうなんですね?

津田:最初の公開劇場が東京のK's cinemaだったのですが、みなさんシャイだけど心は本当に熱くって。映画館付きのお客さまもいらっしゃるし、その中で受け入れてもらったというのが大きかったし、これはミニシアターの上映でなければ体験できないと実感しました。関西でも元町映画館を皮切りに舞台挨拶を京阪神で行いますが、自分の中ですごく胸がワクワクしている感じがあります。


―――この作品で主演をした津田さんは他の俳優さんに嫉妬されそうですね?

津田:僕も他の人がこの作品の主演だったら嫉妬します(笑)。俳優の自分という役をやるというのはお芝居をやる上ですごく勉強になったので、みんなやったらいいんじゃないかなと思いますよ。

(江口由美)


<作品情報>

『津田寛治に撮休はない』

2025年 日本 114分 

脚本・監督:萱野孝幸

プロデューサー:中村祐美子 / 酒井翔太郎 企画:萱野孝幸 / 中村祐美子

出演:津田寛治

平澤由理 一ノ瀬竜 こばやし元樹 篠田諒 中村祐美子 / 井口昇 駒井蓮 岩崎ひろみ 渡辺哲

劇場:4月17日(金)よりkino cinema心斎橋、テアトル梅田、24日(金)よりアップリンク京都、25日(土)より元町映画館ほか全国順次公開

配給:アークエンタテインメント

公式サイト:https://www.satsukyu.com/

(C) 映画『津田寛治に撮休はない』製作委員会