津田寛治、短編映画の新しい可能性と、自身の映画人生を語る。 『RUN!-3films-』インタビュー
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、SKIP シティ国際 D シネマ映画祭などで受賞歴のある俊英監督の短編3本が、疾走感たっぷりのオムニバス映画『RUN!-3films-』として、2020年1月17日(金)より京都みなみ会館、1月18日(土)よりシアターセブン、元町映画館で公開される。
監督は土屋哲彦(『追憶ダンス』『ACTOR』)と、畑井雄介(『VANISH』)。ワンシチュエーションコメディーのようで、最後思わぬ展開が待ち受ける『追憶ダンス』、フィルムノワール調の異色エイリアンものかと思いきや、バディームービー感も漂う『VANISH』、監督の映画愛がさく裂する『ACTOR』と、全く色合いが違う3本だが、続けて観ると、どこかはみ出し者の男たちのブルースのようにも映る。3作品に出演する名優、津田寛治のコミカルさやダンディーさ、体を張った演技も堪能でき、まさに「津田寛治映画祭」のような趣があるのも楽しい。 自らも短編映画祭に深く携わっているという本作出演の津田寛治さんに、お話を伺った。
■福井駅前短編映画祭で審査委員長を務め、短編映画への思いはひとしお。
――――短編3本をまとめて一つのパッケージにし、全国で劇場公開されることについての感想は? 津田:僕は地元の福井駅前短編映画祭で審査委員長をしているので、150本ぐらいの応募作品を全て観るので、一般の方より短編を観る機会がとても多く、短編映画への思いもひとしおなのです。ですから、今回短編映画3本をオムニバスにして全国展開するというのは、短編映画の新しい可能性が見えた気がしています。元々オムニバスとして制作していた短編ではなく、各々で作った短編3本を合わせることで、一つの長編っぽい匂いがする。そうなると、色々な監督とのコラボが実現しますし、今まで劇場公開への敷居が高かった短編映画も、観ていただく機会が増えます。
■一番尊敬している大杉漣さんに教わった「スター気取りせず、撮影では分け隔てなく、楽しくやるのが俳優」
――――『ACTOR』の主人公のように、津田さんがプロになる前に憧れていた俳優は?
津田:昔から映画は好きでしたが、監督のファンになるタイプで、俳優の名前はあまり覚えていませんでした。逆に、撮影現場でコミュニケーションをとってから、「すごい俳優さんだ」と思うことが多く、その中で一番尊敬しているのは大杉漣さんです。大杉さんは僕のデビュー作『ソナチネ』でお会いしたのですが、撮影の組は皆仲間なのだから、スター気取りせず、分け隔てなく楽しくやるのが俳優だと教えてもらいました。大杉さんは『ソナチネ』の現場が終わってからも、舞台挨拶の時に呼んでくださり、色々な監督を紹介してくださったのです。SABU監督に紹介してもらったら、監督の次回作に出演がさせていただくことができた。
■「映画の世界は夢が叶う」フリーの俳優になり、自ら監督にアタック。
――――ちなみに俳優よりも監督のファンというのは、そのうちの一人がデビュー作の北野武監督だったのでしょうか。
津田:黒沢清監督、伊丹十三監督、市川準監督と素晴らしい監督がたくさんいらっしゃいます。ちょうど日本映画がどん底で、国内大手がプログラムピクチャーばかりを作り、未来が見えないと思っていた時代に、改めて日本映画を見直すと、こんなに素晴らしい監督がたくさんいると気づいたのです。当時俳優は、事務所に所属をして、マネージャーに仕事を取ってきてもらうのが主流でしたが、待っているだけでなく自分から俳優の仕事を取りに行かないと、僕みたいなタイプはダメだと思い、フリーになって、自分からアタックしていきました。事務所だと、まずはエキストラから始まり、ちょっとした通行人役をした後、その先の先に映画の仕事があるという、本当に高みにある最終目的だったのが、フリーで俳優をやり始めると、映画の仕事が意外と近くにあったのです。つまり、事務所を通してだと監督までなかなか行き着きませんが、直接監督と話をしてみると、実は僕たちと同じで、ただただ映画が好きなんだということが直に伝わってきました。そうなると話は早くて、「じゃあ、次出てよ」と直接オファーをいただいたのでデビュー作の北野武監督で、「映画の世界は夢が叶う」という考えが僕の中に染みついていますね。
――――かつての大杉さんのように、津田さんも今は若いキャストたちに尊敬される存在なっているのではないですか?
津田:別に特別扱いされることはないですね。映画のバジェットに関係なくキャストやスタッフの皆さんには平等に接してもらえ、本当に幸せに人生を送れていると思います。それは最初、大杉さんに教わったことでもありますし、あの佐藤浩市さんも現場では本当に分け隔てなく接していらっしゃる。ハリウッドだとセリフのある俳優とない俳優では、ケータリングの場所まで違うそうですが、日本映画は俳優、スタッフが皆同じお弁当を食べて、まさに皆同じ釜の飯を食うという感覚なので、分け隔てないという文化が根付くのかもしれません。
■『RUN!-3films-』に潜む、理想的な映画の姿とは?
――――『RUN!-3films-』でもベテランの津田さんが若手と混じり、むしろ支える方にまわっていました。
津田:通常、興行成績を考えれば、メジャーな俳優をメインキャストに据え、サブキャストに事務所の所属俳優を据えるのですが、『RUN!-3films-』はいきなり、まだ名もない、これから売り出そうとしている俳優を短編の主演に抜擢するというのが、実に映画っぽいですね。
――――確かにそうですね。『ACTOR』で描かれる映画作りや、作られた映画は80年代の劇画テイストを意識しており、古き良き日本映画の匂いがしました。
津田:僕も、3本の中で『ACTOR』が一番好きです。土屋監督は80年代当時、まだ子どもだったと思いますが、主人公の山田が理想とする古き良き映画現場を具現化させ、憧れの監督像を描いていますし、スタッフも見た目をカッコ良くしたくて、全員黒で揃えています。
■『VANISH』の畑井監督は、『追憶ダンス』『ACTOR』の土屋監督とは真逆の演出をするタイプ。
――――2本目の『VANISH』は、ある意味バディームービーでもありますね。
津田:『VANISH』の畑井監督は、『追憶ダンス』『ACTOR』の土屋監督とは真逆のタイプですね。土屋さんは泥臭いものを描きたがりますが、畑井さんはスタイリッシュな描写が好きです。『VANISH』は人を食べて生きているエイリアンのような生き物と、生活のため嫌々死体処理をしている男のニーズが合ったというのが面白い。そこでバディー感が出るという展開は、意外性がありますよね。WIN-WINの関係だった二人の中に友情が育まれ、WIN-WIN以上の繋がりが生まれてくる。最後は親友のような状態になるというのは、すごく素敵です。
――――特に死体処理をする男を演じた津田さんが、全力でセリフを言い放つ姿がとても印象的でした。役者さんって体力使うなと思いました(笑)
津田:畑井監督からは「そういう言い方ではなく、こうです」と割と細かくセリフの言い方の指導が入りました。指示が的確で、主役の松林慎司さんも「一言一句指導された」と言っていました。土屋さんはその逆で、俳優の好きなようにやらせて、そこからいい部分を切り取っていく感じです。
――――演じる方としては、どちらの監督のタイプの方がやりやすいですか?
津田:もちろん、自由にやらせてもらった方がやりやすいのですが、監督に一言一句演出される場合は、それがよほど自分のイメージを超えていないと、楽しいとは思えません。それが想定内だったり、考えている方向とは違うと苦痛でしかなくなるのですが、そういう場合も「監督の言う通りにしていたら、今の自分はわかっていないけれど、完成品はすごいことになるのではないか」と楽しむ時もあります。畑井監督の場合は、監督の言う通りにする方がはるかに格好良くて、嬉々として真似をしてやっていましたね。
――――1本目の『追憶ダンス』は、後半少しだけの登場シーンですが、アクションもあり、ドキリとさせながら笑わせるという津田さんらしさが炸裂していましたね。
津田:最後の肝になるシーンだけは、土井監督から演出が付きました。ポーズの角度まで指示があり、セリフもカットされるだろうと適当に言葉を並べていたら、そのまま使われていました(笑)
■食材にはこだわらない料理人のように、オファーが来た役を自分なりに考えて演じるのが好き。
――――津田さんのキャリアを拝見すると、テレビドラマ、映画と垣根や大きなブランクなく、コンスタントに仕事を続けておられますが、今まで、ちょっと休みたいと思ったことはなかったのですか?
津田:一切ないですね。間が空くと仕事が切れるのではと怖くなりますが、本当言えば正月もいらないぐらい、ずっと仕事をしていたいです。楽しいから仕事という感覚もないですよね。こういう役をやりたいというのはむしろなくて、オファーが来た役を自分なりに考えて料理して演じるのが好き。食材にはこだわらない料理人みたいな感じです。テレビや映画といっても、演じる方からすればあまり変わりはないですから。
――――かつてはテレビがメインの俳優や、映画がメインの俳優が実際にもいらっしゃいましたが、求められる演技の違いも時代と共に変化しているのでしょうか。
津田:テレビは画面が小さく、ながら見されるので、大きい芝居を求められました。それは仕方がないと思ってやっていた時期もありましたが、今は映画、演劇、テレビと俳優もまぜこぜになり、皆、それなりにこなせる。ヒエラルキーも崩れてきていますし、俳優にとってはすごくいい時代になりましたね。
■短編映画は、メジャー俳優がインディペンデント映画に出演する一つのきっかけになるのではないか。
――――なるほど。ただ、映画に出演する俳優が増えても、まだまだインディペンデント映画に出演するメジャー俳優は少ないのが現状です。
津田:まだ少ないかもしれませんが、短編映画は出演する一つのきっかけになるのではないでしょうか。昔は映画館にかけるにしても、テレビで放映するにしても、DVD化するにしても、短編映画は扱いが難しいと言われていましたが、それがメリットになる時代が来ています。僕もインターネットで寝る前に映画を見ようとすると、長編だと長すぎし、Youtubeチャンネルだと内容が軽すぎると思った時、短編がちょうどいい。世界中の短編を集めたサイトもあり、寝る前の30分で色々な国の短編に触れることができるのです。しかも短編は日常的なテーマを扱うことが多いですから、長編では描かれないようなその国の日常を映し出す作品が多く、旅行に行ったような気分になれる。それがとても楽しいのです。インターネットのおかげで短編映画がすごく重宝されるようになり、需要が増えれば、短編映画にメジャー俳優も出るようになるはずです。監督の有名度やバジェットの大小に関わらず、出演する垣根が下がってくる気がします。
■黒岩司が一番走者で走り出した『RUN!』。「乱」にもなれば「嵐」にもなってほしい。
――――最後に『RUN!』というタイトルについて、津田さんの思いを教えていただけますか。
津田:走る清々しさもありますし、ランを漢字で書くと「乱」にもなれば「嵐」にもなる。そういう意味も含めての『RUN!』だと思います。ただ格好良く、陸上選手のように走るのではなく、乱れまくりながら走り、彼が走った後には嵐のように色々な人間が巻き込まれる。実はまさにこの映画もそうでした。黒岩司(『ACTOR』主演、山田役)さんが、「僕主演の短編映画を作ってください、このギャラで!」と雀の涙にもならないような小さいギャラを持って現れ、一番走者で走り出したんです。僕たちにメチャクチャに言われながらも走り、彼が乱れながら走った後、残りの2本も作ることになったのです。今、まさに何かを成し遂げようとしている若者に『RUN!』という言葉はぴったりだと思います。
(江口由美)
『RUN!-3films-』 (2019/日本/シネスコサイズ/ステレオh/84min)
監督:土屋哲彦(『追憶ダンス』『ACTOR』)、畑井雄介(『VANISH』)
出演:篠田諒、木ノ本嶺浩(『追憶ダンス』)、松林慎司 山口康智(『VANISH』)、須賀貴匡(『ACTOR』)、黒岩司、津田寛治(全作品)他
配給:MAP 制作:ラ・セッテ
©TEAM RUN!
2020年1月17日(金)より京都みなみ会館、1月18日(土)よりシアターセブン、元町映画館
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