『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』少女の目線で綴る沖縄とウチナーンチュの心

 少女の相手に対する思いやりと、自分が感じた驚きや疑問の奥にあるものに向き合う勇気が、観る者を惹きつける。『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』の主人公は、石川県から単身で沖縄にやってきて、フリースクール、珊瑚舎スコーレ(以降スコーレ)に通う坂本菜の花さんだ。

 珊瑚舎スコーレは、初等部(10歳から)、中等部、高等部、そして夜間中学校と非常に幅広い年代の人の学び場であり、通常の学校のカリキュラムとは異なる、思索、表現、交流を大事にするフリースクール。15歳で高等部に入学した菜の花さんは、夜間中学校に通うお年寄りに勉強を教えることもあれば、彼らが幼い頃学校に通えなかった理由、必死に生き残った戦争体験を語ってもらうこともある。菜の花さんは地元の石川にいたら知ることのできなかった話に触れ、戦争の痛みが今も残っている沖縄の悲しみを知るのだ。



 大家族のように世代を超えて交流を深めるスコーレの生徒たち。ウチナーグチ(沖縄の言葉)を教える授業のシーンも登場する。ちなみにタイトルの「ちむりぐさ」も沖縄の言葉だが、誰かの心の痛みを自分の悲しみとして一緒に胸を痛めるという、ウチナーンチュ(沖縄人)の心を示した言葉だという。民族の言葉に触れ、その響きや、語源を知ろうとする菜の花さん。大好きな沖縄を知ろうとする日々は、図らずしもそこで起きる様々な事件によって、沖縄の人たちの笑顔の裏にある痛みや、本土から受ける差別を目の当たりにすることとなる。




 菜の花さんは、実家である旅館に泊まった記者にその文才を注目され、故郷の新聞でコラム「菜の花の沖縄日記」を書いていた。感性豊かな菜の花さんの素直な言葉を入れながらのナレーションに導かれ、スコーレで活動する菜の花さんの生き生きとした日々が描かれる柔らかな印象の一面。辺野古新基地反対運動の最前線、高江に足を運んでの取材、そして菜の花さんが初めて故・翁長知事と出会ったという5万人以上が参加した県民大会など、制作の沖縄テレビ放送による取材映像を取り入れ、米軍基地が集中することによる被害に対する沖縄の人たちの闘いを映し出すジャーナリスティックな一面。どちらも今の沖縄を合わせ鏡のように映し出し、沖縄以外に住む人たちに強く訴えかける。


 

 懸命に育ててきた牧草地に、米軍ヘリが不時着炎上し、自分の土地なのに立ち入ることができなくなってしまった農家のご夫婦。少年時代、米軍機墜落で大やけどを負い、今でも思い出すと眠れなくなるというご老人。菜の花さんは、本土では報じられないが、基地のあるせいで大きな被害を負った人たちにも取材をしている。無念さはあれど、米兵の命を気遣うご夫婦は、菜の花さんに自家製野菜の料理を振舞い、菜の花さんに当時のことを静かに語る。本当は語るのも辛いことだろうが、菜の花さんのような若い世代に伝えたい、子や孫たちの世代のために声を上げ続けたいという強い思いが滲むのだ。



 沖縄テレビ放送開局60周年記念作品の本作を作るにあたり、平良いずみ監督は「沖縄の問題を扱う番組は、結論が2分でだいたい分かってしまうから見ない」と学生に言われたことから、どのように伝えたらいいのか悩んだという。菜の花さんという若い世代の、しかも本土から来た人の視点で沖縄を見つめていくという方法でスタートした本作は、彼女だからこそできた沖縄の人たちとの関わり方や彼女自身の未来に向けた眼差しをしっかりと映し出した。今は故郷石川で実家を手伝いながら、「考えることをやめないように生きていきたい」と地域での活動にも精力的に取り組んでいる菜の花さん。世代を超え、場所を超えて届く優しく力強いその声に、ぜひ耳を傾けてほしい。



<作品情報>

『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』

(2019年 日本 106分)

監督:平良いずみ

語り:津嘉山正種

出演:坂本菜の花

第七藝術劇場、元町映画館、京都シネマ他、全国順次公開