『SKIN/スキン』憎しみの連鎖を断ち切れ!
アフリカ系アメリカ人ジョージ・フロイドさんが複数の白人警官から暴行を受けて死亡した事件は、アメリカの歴史の中で度重なる人種差別をコロナ禍の世界中の人々に改めて突きつけ、アメリカを中心に世界中で「Black Lives Matter」のスローガンを掲げたデモが行われたことは記憶に新しい。SNSなどで誹謗中傷にさらされる際も、人種差別用語や人権を踏みにじる言葉が投げつけられ、リアルでもオンラインでも、他者を攻撃することに快感を覚える人が相対的に増えているような気がしてならない。
そんな現在の人種差別が負の連鎖のように子どもに継がれていくこと、黒人に対する白人の強烈な差別意識を強烈な皮肉を込めて描いた短編『SKIN』が、2019 年アカデミー賞短編映画賞を受賞。本作は同じレイシストを題材としているが、実話を基に、レイシストの男が転向に成功するまでの壮絶な闘いを描いた、一縷の光が見える作品だ。
スキンヘッドの男、ブライオン・“バブス”・ワイドナーは、10代で親から捨てられ、白人至上主義者グループを主宰するクレーガー、シャリーンに拾われて彼らを両親のように慕っているレイシスト。全身に憎悪と差別を表すタトゥを彫り、暴力にまみれた人生を送ってきた。ある日ブライオンは、祭りの演奏に参加した3姉妹とシングルマザーのジュリーに出会い、二人は惹かれ合う。今までの人生を心の底から悔い、ジュリーらと新しい家族を築くために、ブライオンは組織を脱退することを決意するのだったが・・・。
ブライオンを演じるのは、『ロケットマン』でエルトン・ジョンと長年に渡って曲作りを行ってきたバーニー・トーピンを好演したジェイミー・ベル。タトゥー男のいかつさはあれど、心根は優しい人ではないかと思わせるブライオンの繊細な一面と狂気的な一面を見事に表現。IS戦士の子どもたちと同様に、無理やり連れてこられたり、親がいない子をスカウトしたり、子どもにすれば居場所のようなスタンスで入った場所で、人種差別や暴力を叩き込まれるのだろうなと想像させる、組織の長の二人との擬似親子のような関係が、辞めたいと思ってもそれを実行に移せない原因になっているのかもしれない。
ブライオンと惹かれ合うジュリーを演じるのは、短編『SKIN』にも母親役で出演したダニエル・マクドナルド。本作では組織の”パパ、ママ”の引き止めをうまく断れないブライオンにブチギレ、関係を断つように強く迫る姿が印象的だ。命がけで娘たちを守りながら、愛する人が元の負の沼のような場所に引き摺り込まれないように、懸命に力を尽くす。さらに、何人ものレイシストの転向を手助けしてきた反レイシズム団体のジェンキンスが、ある条件で身の安全を守ることを約束する。まさにパワハラの温床のようなレイシストグループから転向するのは、自分一人の力では到底できない。グループが行う度重なる非白人への暴力に自らの感覚が麻痺しきってしまう前に、その罪に気付き、自分の人生を変えたいと強く思ったからこそ、ブライオンは決死の覚悟で助けを求めたのだ。罪を重ねるのではなく、転向して過去の自分の罪に向き合うという決断は、そうできるものではない。だからこそ尊い。
体中のタトゥーが、レイシストの証なら、それらを消すのが転向の証となる。時間もお金も、もちろん壮絶な痛みにも耐え、これらがなくなる時間は、きっと罪と向き合う時間になっただろう。憎しみの連鎖を断ち切る個人の一歩一歩が積み重なれば、大きな一歩につながる。当たり前のことができない状況で、当たり前のことをする勇気。これは私たち自身にも問われている問題だと、痛切に感じた。
<作品情報>
『SKIN/スキン』
(2019 アメリカ 118分)
監督・脚本:ガイ・ナティーヴ
出演:ジェイミー・ベル、ダニエル・マクドナルド、ダニエル・ヘンシュオール、ビル・キャンプ、ルイーザ・クラウゼ、カイリー・ロジャーズ
2020年6月26日(金)〜シネマカリテ、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、イオンシネマ京都桂川、今夏〜元町映画館他全国順次公開
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