『ワイルド・ローズ』葛藤を超えた歌声がハートに響く
子育てをしたことのある人なら、夢と子育て、もしくは仕事と子育てを天秤にかけざるを得なくなるような状況に遭遇し、前に進めなくなってしまうことを身をもって体験することが多いのではないだろうか。特に若い時は、今チャンスを逃せば夢が掴めなくなってしまうと思い込み、焦り、余計に自分も、そして周りも追い込んでしまう。有名ミュージシャンを数々輩出しているイギリスのグラスゴーを舞台に、音楽産業のメッカ、ナッシュビルに行く夢を実現させようと奮闘するカントリー歌手の葛藤を描くヒューマンドラマ。ヒロイン、ローズを演じるジェシー・バックリーの伸びやかで力強い歌声が、失敗しても前を向いてと背中を押してくれるパワフルなイギリス映画だ。
幼子を残し、1年の刑期を終えて出所した23歳のローズ。パブでカントリーのバンドボーカルとして再び歌えると思っていたが、うまくはいかず、子どもたちの面倒を見てくれていた母、マリオンの言うがままに、掃除手伝いの仕事を得る。雇い主のスザンナは、掃除しながら歌うローズの歌声に惚れ込み、「プロのカントリー歌手になってナッシュビルに行く」というローズの夢を叶えるために力を貸し、二人の間に固い絆ができていくのだったが・・・。
「3コードの真実」とタトゥで刻むローズは、まるで生まれるところを間違えたと言わんばかりに、アメリカ生まれのカントリーミュージックに傾倒している。歌唱力が抜群で夢を追いかけるがために、子どもを犠牲にしているローズに対し、マリオンはなんども説教するが、心の底では若くして子どもを産んだために夢を追いきれない娘への複雑な思いがある。一方、何不自由ない生活をしているスザンナも、若きローズの夢を実現させることが、自らの喜びとなっていた。人生の後半戦を生きる女性たちにとって、ローズは眩しく見えていたのだろう。
夢を追う部分では、ロンドンやナッシュビルなど音楽産業の本場に飛び込み、そこでもローズは抜群の歌唱力で魅せる。でも、一番大事な「何を歌いたいか」を突き詰めると、家族や等身大の自分自身を見つめ直さなければ、本当は前に進めないはず。若さとその才能ゆえ、壁にぶち当たって傷だらけになりながら突き進んできたローズが見つけた自分の歌、自分の居場所に、心からの拍手を送りたくなった。
余談だが、ジェシー・バックリーのハートに響く歌声は、80年代ロックの女王と呼ばれ、その伸びやかな声に私も聞き惚れていた白井貴子(「Chance」)や、同じく80年代にパワフルボイスで魅了した中村あゆみ(「翼の折れたエンジェル」)を彷彿とさせ、懐かしさを覚えると共に、カントリーミュージックのイメージが変わった。散々失敗を重ねても、いつかは自分らしさを見つけ、結果的に夢に近づいている。そんなローズの生き方は、観る者に勇気を与えてくれるはず!
<作品紹介>
『ワイルド・ローズ』”WILD ROSE”
(2018年 イギリス 102分)
監督:トム・ハーパー
脚本:ニコール・テイラー
出演:ジェシー・バックリー 、ソフィー・オコネドー、ジュリー・ウォルターズ
2020年6月26日(金)〜シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、7月3日(金)〜シネ・リーブル神戸他全国順次公開
0コメント