『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』今闘い続けていることを果敢に描く、フランソワ・オゾンの新境地


 フランスで起きた、神父による児童への性的虐待事件は社会を揺るがしたというが、それは決してフランスのことだけではない。この6月にカトリック神父からの性暴力被害を告発する集会が長崎で開かれ、女性信者が被害体験を語ったというニュースを目にし、決して対岸の火事ではなく、私たちの社会で声をあげることができず、苦しんでいる人たちがたくさんいることを思い知った。この作品の被害者たちが神父から性的虐待を受けたのは、まだそれが何を意味するのかもわからないような子ども時代だったのだ。大人になってもそのことを誰にも告白できず苦しんできた被害者たちが、告発することを決意し、行動を起こすこの物語は、実話でありかつ、現在まだ裁判は続いているという。過去の実録物ではなく、現在進行形の重大な事件を、いかにして彼らは声をあげ、教会という巨大な権威との闘いに挑んだかを、フランソワ・オゾンは冷静かつ聡明に描いている。


 性的虐待を受けても声を上げる人が少ないのはいうまでもないが、声を上げることができるようになるまで本当に時間がかかる。映画の中では時効問題も描かれるが、性的虐待に20年という時効が設定されているため、時効内の被害者を探すくだりもあり、被害者のことをなおざりにした法のあり方にも疑問を覚える。実際に声を上げるということは、家族にも自らの過去をカミングアウトすることであり、教会支持者を敵に回すかもしれない。様々なリスクを承知の上で、それでも罪を犯しつづける人間が、教会で新たな被害者を産むかもしれない状況を見過ごすわけにはいかないという強い気持ちが、被害者たちを告白へと向かわせるのだ。


 メルヴィル・プポー(『私はロランス』)、ドゥニ・メノーシェ(『ジュリアン』)、スワン・アルロー(『女の一生』『ブラッディ・ミルク』)と演技派の3人がそれぞれの家庭事情の中葛藤しながら、人生をかけての告発に臨んでいく様子を熱演。過去のフラッシュバックを交えながら、子どもたちを思い通りに連れ去る神父のおぞましさ、神父の言いつけは守らなければいけないと教育されてきた子どもたちの無念さがよぎる。


 フランスに限らず、世界中で起こっている、牧師という立場を利用したおぞましき性的虐待。神父をどれだけ告発しても処分しない教会の姿勢に、泣き寝入りをしてきた人も多いはずだ。まさに被害者たちの勇気ある告発の背中を押すようなフランソワ・オゾン監督の社会派作品は、性的虐待のみならず、パワーハラスメントなど、権力者に搾取され、辛い思いをしている多くの人に勇気を与えてくれるのではないだろうか。もう見過ごしてはいけない。そんな強いメッセージが込められている気がした。



<作品情報>

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』”BY THE GRACE OF GOD”

(2019年 フランス 137分)

監督・脚本:フランソワ・オゾン

出演:メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー他

7月17日(金)〜ヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル梅田、なんばパークスシネマ、イオンシネマ茨木、シネ・リーブル神戸、アップリンク京都ほか全国ロードショー