フィルム上映は「映画学校」。大林宣彦監督が熱いメッセージを寄せたドキュメンタリー『まわる映写機 めぐる人生』森田惠子監督インタビュー
元町映画館10周年記念として現在上映中の森田惠子監督によるドキュメンタリー映画『まわる映写機 めぐる人生』。2014年、4周年記念上映開催時の元町映画館が登場するほか、日本映画の一番いい時代に活躍したベテラン映写技師から、日本各地でフィルム上映や上映会活動を行なっている団体まで、今回も映画を支える人たちに出会う楽しい旅が待っている。大林宣彦監督も熱いメッセージを寄せていた本作の森田惠子監督に、舞台挨拶後、お話を伺った。
■「映写技師の話はどこにも残っていない」ことを気づかせてくれた石川さんとの出会い
前作の『旅する映写機』は、「映写機がなくなるという時だったので、現役で動いている映写機を撮りたいと思い、立ち上げから関わっていた深谷シネマを辞めたばかりで、映写機の修理を学んでいた永吉洋介君に手伝ってもらいました。最初は映写機マニアの青年が映写機を辿っていくロードムービーと構想して撮ったのですが、結局尺の関係で編集段階に全カットという残酷なことをしてしまったんです(笑)」と裏話を披露した森田監督。川越スカラ座での『旅する映写機』上映の時に、本作につながる出会いが待ち受けていたという。
「新聞の地方欄で上映を知った、本作にも登場してくれた石川さん(元「大宮東映」支配人・映写技師)が、初日だったら監督がくるのではないかと見込んで、当時体調不良で奥さんに止められたにも関わらず、強行して観に来てくださったんです。すると、石川さんのお話がとにかく面白くて、しかも(映画でも登場した)黒いカバーの映写技師証を持ってきてくださった。最初は永吉君と二人でトークするはずでしたが、客席の石川さんにお話を伺い、最初に印籠のように「これが映写技師証です」と見せていただいたところ、客席から歓声が上がって。映画全盛期の時のことを、予定のトーク時間が終わるまでずっと話してくださったんです。ロビーでも続けて話をしているうちに、思えば映写技師の話はどこにも残っていないなと気づきました」
石川さんとの出会い、また苦労話をいかにも楽しく話される姿を見て、映写技師の映画を撮ろうと決意した森田監督は、それにとどまらず、京都・綾部で自主上映会をしている京都造形芸術大学の学生、城間さんや、16ミリ上映を40年続けている女性団体「16ミリ試写室」、鳥取で自主上映団体を立ち上げ、鳥取にはこない映画を上映、映画祭も行なっている鳥取コミュニティシネマ代表清水さんなど、地元で頑張り、映画を届けることに尽力している人も入れていいのではないかと取材を重ねてきた。「映画館に勤めているわけでもなければ、映写技師ではないけれど、みなさん、ずっと映画と共に人生を歩んでいらっしゃいますよね」。映画では、戦前、戦中、戦後と活躍してきた映写技師から、地元で上映活動を続ける市民団体まで、たくさんの人の手でフイルム上映が行われ続けていることをテンポよく映し出す。映画館を飛び出した地域での地道な映画上映活動を知ることができるのも、本作の醍醐味だ。
■大林宣彦監督から寄せられた熱いメッセージと、編集秘話
公式サイトには、大林宣彦監督より
森田惠子さんのこの映画は、映画を愛する人たち必見の映画への愛と、誇りと、責務を表す、宝物だと信じるのです。この映画からは、自由と平和と、人間であることの尊厳が、迸っております。大いに称えます。有難う!
と熱いメッセージが寄せられている本作。映画の中でも77歳の喜寿を迎えた大林監督が、日本最古の映画館、高田世界館で『転校生』をフィルム上映の際に来館し、舞台挨拶に登壇した様子が映し出される。高田世界館に入るや、入り口のチケットブースにいたスタッフにまず挨拶と丁寧に握手をし、中のスタッフたちの歓迎に応える在りし日の様子に胸が熱くなる。
さらに映画では、映写が始まった直後に映写機のベルトが切れ、さらに最後のフィルムが逆巻きだったことが分かり、映写室での緊張感に満ちた様子も映し出されていたが、「本当は技術者の方の失敗したところを記録に残すのは失礼ではないかと思っていました。でも、大林監督が舞台挨拶の場で映写が素晴らしかったことと、最後にトラブルがあったことを明かしながら、『映画は人が作ったものだからアクシデントがあり、必ず壊れる。そのときどうするかが映画学校の素晴らしいところなのです』とおっしゃったので、これならば入れても大丈夫だと確信しました」
■最古の映画館、高田世界館から感じる日本の歴史
高田世界館では、上越映画鑑賞会の代表の増村さんが上映後、お酒を飲んで映画を語るのが楽しいですよと語っている。集い場としてのプラスアルファを感じさせるが、「映画を観た後、ロビーにみんなで机を運ぶんです。『アルコールはこっち、ノンアルは向こう!』と仕切る人がいて、高校生も帰る時間を決められるのですが、ノンアル席で参加しているんです。おじさんたちが飲んで映画のことをウダウダしゃべっている中に、若い彼らも映画についての意見をきちんと言うし、おじさんたちは『若い奴はそう感じるのか〜』と。あれは本当に楽しいと思いますよ。映画館で映画を観ることのいいところは、やはりほんの一言でも観た映画の感想を言い合うことで、幸せ感が高まるところ。帰りのエレベーターで『ほんとにいい映画でしたよね』の一言に頷きあうだけでもいいんです」
本作では歴史的建造物でもある日本最古の高田世界館の内部や天井も丁寧に映し出し、「映画館の歴史」を焼き付けている一面も見逃せない。「高田世界観は、かつては回り舞台がありましたし、二階席もあります。天井部分を撮影するのに光が足りず困っていると、劇場スタッフが二階の窓を開けてくれたのも思い出深いです。今年で109年ですが、あの建物が建った時代は、川を使った交通や港があることから、新潟が本当に栄えていた時代でした。陸軍の部隊もいたそうで、二階席は一般の方には分からないように、陸軍のお偉い方とお連れの方が劇などを鑑賞されていたそうです。日本の歴史を感じる映画館ですね」
■森田監督が語る元町映画館の成長と魅力
森田監督の『小さな町の小さな映画館』を初めて元町映画館で上映したのは開館して1年後の2011年だった。以降『旅する映写機』、そして今回の『まわる映写機 めぐる人生』と数年おきに元町映画館での上映を重ねている。そんな森田監督は、元町映画館の変化をどう感じておられるのだろうか。
「最初は本当に市民の皆さんが手作りした映画館という印象でした。いい意味でも悪い意味でも手作り感が強く、映画館ではあるけれど、どこかまだちゃんとしていない感じがあった。それが訪れる度に作品の選び方も、プログラムのたて方も成長し、変化しているなとすごく感じましたね。後は、今本当にどの映画館も若い人たちに来てもらいたいと思っているけれど、それがなかなかうまくいかない。でも元町映画館は若い人たちをうまく巻き込めている。それはすごいと思いますね。若い人たちにはフットワークの良さ、考えの柔軟さがあり、そういうパワーがうまく映画館の応援に繋がっているので、また一段階ステップアップした感じがします」
さらに森田監督は立地も魅力的だと語り、元町映画館のこれからを語って締めくくってくれた。
「今日も在阪の友達に声をかけたら、『よく前を通るから知ってるし、時々行くわよ』と。こういうのがいいですよね。商店街の中にある立地ならではだと思います。映画が好きで好きでという映画マニアのお客様はもちろんありがたいのですが、そういう不特定多数の人がふらっと入れるところに映画館があるというのは、すごくいいことだと思います。これからもだんだんとファンを増やしていくと思います」
元町映画館10周年記念、森田惠子監督の映画館と映写機の三部作(『小さな町の小さな映画館』『旅する映写機』『まわる映写機 めぐる人生』)上映は8月21日まで。
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