『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』伝説のロックバンド頭脳警察の「変わらない魂」と「未来に続く道」


 学生運動が東大紛争の鎮圧により収まりつつあった1969年12月。グループ・サウンズ全盛期の時代に、当時19歳だったPANTA(中村治雄)とTOSHI(石塚俊明)によって結成されたロックバンド、頭脳警察。大手事務所に属すことなく、「ださくてもいいから、自分の言葉で、人に自慢できる音楽を」と歌謡曲と決別し、自分たちの音楽を次々と発表してきた。タイトルや歌詞の過激さからアルバムが発売禁止になり、ベトナム戦争やあさま山荘事件、そして成田闘争など、社会に対する不満が渦巻く中、革命三部作(『世界革命戦争宣言』『銃をとれ』『赤軍兵士の詩』)は学生たちの圧倒的な支持を得て、頭脳警察は当時の若者たちの心の叫びの代弁者となっていく。だが、世の中に形成された頭脳警察のイメージが、逆に彼らに離散の道を選ばせてしまうことになるのだった。

 

 75年の離散から、それぞれの道を歩んだPANTAとTOSHIの足跡を辿り、再結成、離散の度に、さらなる深みと広がりのある音楽活動へと進化していく二人の音楽にも迫る。昨年50周年を迎えた頭脳警察に密着したドキュメンタリーは、彼らが時代と共に、何を叫び、どんな問題意識を持ちながらその思いを自身の歌に込めてきたかを、PANTA本人への取材やライブ映像をふんだんに交えながら解き明かしていく。PANTAの作る歌には、日本だけではなく世界を見据えた紛争や革命の中で血を流す人々の怒りや悲しみも滲む。頭脳警察が時代と共に、変わらぬ魂のもと、自らの音楽の可能性をどのように広げてきたのか。頭脳警察の大ファンであるミュージシャンや著名人との対談も、PANTAの素顔を垣間見る絶好の機会となるだろう。


 頭脳警察での活動以外にも、PANTA & HAL、陽炎、響と様々なユニット活動を行なってきたPANTA。その楽曲は決して古びることがない。「止まっていると変わらないはちがう」とPANTAが語るように、そこには変わらない魂が宿っている。中でも特に印象的なのは、2014年にロシアへ併合されたクリミア、ヤルタでのライブの模様だ。2018年夏に歴史的な街で開催されたライブは、日頃彼らが行なっているようなライブハウスではなく、リゾートホテルのオープンスペースで、夏のリゾートを楽しむ親子連れが何気なく居合わせたという状況だった。そんな中、現地でPANTAが歌うことにした曲は「七月のムスターファ」だった。紛争の辛い歴史を持つクリミアと、イラク戦争下で200人のアメリカ兵を相手にたった一人で戦った、クサイ・フセインの息子、ムスターファの人生を重ねたというPANTAがギターをかき鳴らしながら日本語で熱唱する姿を、じっと見つめる観客たち。ライブ後に「気持ちが伝わった」と紅潮した様子で語る観客たちの姿を見ていてると、月並みな言葉だが音楽は国境を超えると痛感する。


 2019年に黒猫チェルシーからギターの澤竜次、ベースの宮田岳、ドラムに樋口素之助、キーボードにアーバンギャルドのおおくぼけいと若いメンバーを加え再始動した頭脳警察。結成50周年記念のオリジナルアルバム『乱破』のタイトル曲となる「乱破者」では、PANTAの祖父が忍者だったという自身のルーツに立ち返って創作する様子を映し出す。また記念ライブでは豪華ゲストが華を添え、さらにパワーアップした頭脳警察のパフォーマンスを体感できるだろう。コロナ禍で誕生した本作公開記念の新曲は、その名も『絶景かな』。今変わろうとしている時代に向けた力強い言葉は、PANTA自身が感じたことそのものなのだろう。「PANTAが起爆剤で、トシが爆薬」と絶妙な距離感を保ちながら、切磋琢磨してきた頭脳警察の二人がこれからどんな曲で時代を歌い上げるのか。伝説なんてくそくらえ、まだまだ前に進むんだという声が聞こえてきそうな、未来に続く道が見えた。

 

<作品情報>

『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』

(2020年 日本 100分)

監督・編集:末永賢

出演:頭脳警察(PANTA、TOSHI、澤竜次、宮田岳、樋口素之助、おおくぼけい)

加藤登紀子(歌手)、植田芳暁(ミュージシャン)、岡田志郎(ミュージシャン)、山本直樹(漫画家)、仲野茂(ミュージシャン)、大槻ケンヂ(ミュージシャン)、佐渡山豊(ミュージシャン)、宮藤官九郎(脚本家)、ROLLY(ミュージシャン)、切通理作(評論家)、白井良明(ミュージシャン)、浦沢直樹(漫画家)、木村三浩(活動家)、うじきつよし(ミュージシャン)、桃山邑(演出家)、春風亭昇太(落語家)、鈴木邦男(活動家)、足立正生(映画監督)、石垣秀基(ミュージシャン)、アップアップガールズ(仮)(アイドル)、鈴木慶一(ミュージシャン)、髙嶋政宏(俳優)ほか <登場順>

8月29日(土)より第七藝術劇場、今秋、元町映画館、京都みなみ会館他全国順次公開

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