『行き止まりの世界に生まれて』逃れられない家族、街と向き合う若者たち、魂の記録
イリノイ州ロックフォードはラストベルトと呼ばれ、全米で最も劣悪な環境ランキングに上がるような場所だが、本作を見ていると一見そこまで物騒な感じはしない。だが、そこにある失業問題が親による家庭内暴力を引き起こし、絶え間ない喧嘩を目にするか、暴力を振るわれるかいずれかの体験をする子どもたちが多いということもわかってくる。そんな子ども世代が、未来に向かってどれだけあがき、そして自分の立ち位置を見つめて向き合おうとしているか。その真摯さがこの映画の最大の魅力だ。
監督は、本作が初長編ドキュメンタリーとなる中国移民のビン・リュー。本作に登場するスケートボーダーのアフリカ系アメリカ人少年、キアーと、スケートボードに熱中しながらも妊娠した彼女と過程を持とうとするザックは、いずれもリュー監督の故郷ロックフォード在住で、、長年に渡って二人を撮影してきた。父親に期待されるあまり、厳しすぎるしつけを受け、突然訪れた父との永遠の別れに自分の気持ちを整理できずにいたキアーと、志はあっても若さゆえか自分の本能を抑えられない気まぐれなザック。二人が少年から青年期を経て大人になっていく過程でリュー監督に語る言葉は、ままならぬ現実への怒りや、時間を経て理解できる親の愛、そして、自分たちが住むロックフォードへの偽らざる気持ちが滲む。
カメラというのは時に暴力性を秘めているが、時には決意を後押しもしてくれる。リュー監督はただ被写体へカメラを向けるだけではなく、そのカメラを自らと母親に向け、自身が向き合わなければ問題にもカメラの力を借りて対峙しようとする。同じ街で生まれ育った3人の若者が、決して穏やかとはいえない青年期をそれでも前を向いて生きることができた原動力であるスケートボードの滑走シーンもふんだんに取り入れられ、そんな彼らが風を切り、前に前にと進む姿には爽快感すら覚える。負の連鎖を断ち切るかのような疾走ぶりに、生い立ちの辛さを言い訳にせず、自分の生き方、自分の幸せを手繰り寄せようとする彼らの決意を見た思いだ。もがきながらも、強い初期衝動によって作られた本作は、その嘘のなさが、まっすぐに届いた。まさに魂の記録だ。
<作品情報>
『行き止まりの世界に生まれて』”MINDING THE GAP”
(2018年 アメリカ 93分)
監督・撮影:ビン・リュー
出演:キアー・ジョンソン、ザック・マリガン 、ビン・リュー 、ニナ・ボーグレン、ケント・アバナシー、モンユエ・ボーレン
配給:ビターズエンド
9月4日(金)よりシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷 全国順次ロ ードショー
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