『mid90s ミッドナインティーズ』スケボー仲間が僕の居場所だった


 時を同じくしてアメリカからスケートボードに青春を捧げる若者たちの映画が2本公開される。一本はイリノイ州ロックフォードを舞台にしたドキュメンタリー映画『行き止まりの世界に生まれて』。そして、もう一本の本作は、俳優のジョナ・ヒルが自身の半自伝的物語を自ら映画化した初監督作の劇映画だ。舞台はスケードボードのメッカ、陽光降り注ぐロサンゼルスだ。90年代半ばのファッションやカルチャー、ミュージックをふんだんに取り入れ、モバイル到来前夜、アナログ時代最後の若者たちがイキイキと躍動する。本作の主役、スティーヴィーを演じるサニー・スリッチ(『聖なる鹿殺し』)をはじめ、スティーヴィーが入り浸ることになるスケボーショップ仲間、レイを演じるナケル・スミス、ファックシットを演じるオーラン・プレナット、フォースグレードを演じるライダー・マクラフリンは皆、スケーターでもある。中でもサニー・スリッチは実際に企業スポンサーを何社も持つプロスケーターで、劇中でも超絶のスケートテクニックを披露するのも見どころだ。居場所のない少年たちが、まるで兄弟のように集い、大人の世界に足を踏み入れていくスリリングさと、家族との軋轢は、誰もが感じたことのある青春の一ページと重なるのではないか。全編16ミリで撮影された、アナログ感たっぷり、そして疾走感たっぷりのLA青春グラフティ。スティーヴィーの兄イアンを演じる、若手実力派のルーカス・ヘッジス(『ある少年の告白』『ハニーボーイ』)にも注目してほしい。

 

 13歳のスティーヴィーは、シングルマザーのダブニー、兄のイアンと3人暮らしだが、いつも不機嫌ですぐに暴力を振るうイアンに太刀打ちできない。いつかイアンを見返してやりたいという反骨心が芽生えたスティーヴィーは偶然立ち寄ったスケートボード店で、レイ、ファックシット、フォースグレード、ルーベンと出会う。一番下っ端のルーベンと仲良くなり、中古のスケートボードを購入したものの、まだまだうまく滑れない。プロ級の腕前のファックシットにけしかけられ、皆の前で穴の上をスケートボードで飛ぼうとしたが、ミスして大怪我をしてしまう。見たことのない息子の姿にダブニーは怒るが、スティーヴィーは少しずつ彼らの仲間入りができていることに喜びを感じていた。


 クレイジーなリーダー格ファックシットに気に入られ、だんだん存在感を増していくスティーヴィーがどんどん危険なことに足を踏み入れる一方、母や兄との関係はどんどん悪化していく。今まで幼いからと全て我慢して飲み込んできたものを、逆に発露しているのだ。家には居場所がなくても、スケートボードさえあれば仲間のいるところが自分の居場所。盲目にそれを信じるスティーヴィーに、それぞれの事情があることを教えてくれたのは黒人のレイだった。今大ヒット中の韓国映画『はちどり』も14歳の主人公、ウニを導いてくれたのは、大学生で塾の先生のヨンジだったが、多感な思春期には家族以外に、自分を導いてくれる人が実は必要で、幸運にもそういう人に出会えたのなら、生涯心の支えになるのではないか。自分より一歩先をゆき、大人の世界を垣間見せてくれた家族以上に親密な関係を築くことができたあの輝ける日。ママス&パパス、ハービー・ハンコックの60年代ミュージックにはじまり、90年代大ヒットしたニルヴァーナ、ピクシーズ、モリッシーまで、クールな楽曲たちに彩られた青春映画は、『はちどり』と並ぶ青春映画の新たなマスターピースとして、輝き続けるに違いない。



<作品情報>

『mid90s ミッドナインティーズ』

(2018年 アメリカ 85分  PG12)

監督・脚本:ジョナ・ヒル

出演:サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス他

9/4(金)新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイントほか全国ロードショー

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