『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』アメリカ発の音楽に脈々と流れるルーツを目撃せよ
侵略者は常に先住民族の文化や習慣、言葉を奪い、同化政策という名で彼らを支配下に置こうとすることは、アメリカに限ったことではない。Black Lives Matter運動が起こる遥か前から、入植者たちによってアメリカの先住民族たちがどんな弾圧に遭い、そこから何が生まれたのか。まさにアメリカ音楽のルーツを辿りながら、負の歴史をも浮かび上がらせる音楽ドキュメンタリー。ヒッピー文化最盛期のファッションの所以も、先住民族運動の流れで見ると実に納得できるのだ。
1891年生まれのアフリカ系アメリカ人のチャーリー・パトン(チョクトー族)は、デルタ・ブルーズの元祖と呼ばれる存在。幼少時代、ミシシッピ州のドッケリー・ファームで過ごし、重労働の傍ら週末には盛り場でギターを演奏し、その腕を磨いたという。驚くべきことに、当時奴隷がドラムを持つと死刑になったため、パトンはギターを叩き、リズムを刻んだのだ。先日取材させていただいた『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』のPANTAさんが、「18歳の時にブルースを捨てたというのは、黒人の歴史の中で彼らが生きるために歌い継いできたブルースを、日本のこんなケツの青いガキが歌っていいのか、そうじゃないだろうということですよね」と語っていたが、その誕生の経緯を見ると、まさにそうだと深く頷きたくなる。
パンク、ヘビメタ、ロックなどの全ての源流と呼ばれるリンク・レイ(ショーニー族)は、チャーリー・パトンの精神を蘇らせていたミュージシャンだ。本作のタイトルとなっている「ランプル」は、29歳の時にリンク・レイが発表したインスト曲で、キンクス、ジミー・ペイジ、ザ・フーらに大きな影響を与えたことがインタビューからも浮かび上がる。
さらに60年代から70年代のフォークブームを牽引し、『いちご白書』に使われた"Circle Game"で知られるパフィ・セイント・マリーも先住民の血を引くミュージシャンの一人。当時を振り返ったインタビューでは、自身の曲が放送禁止になった理由として、アメリカ政府からテレビやラジオ局に先住民の音楽は流すなと文書で通達がきていたことを明かし、さらにはそれらメディアのオーナーが先住民族たちの労働で巨額の富を得た石油会社であることを指摘、先住民族差別の奥にある根深い搾取の構造が、ここでも露わになるのだ。
映画では、先住民族コーラスグループとして活躍しているグループのパワフルな歌声や、『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』が公開予定の、ジョージ・ハリソン、エリック・クラプトンも入りたがったというザ・バンドの貴重なライブシーンも登場。そして、先住民とアフリカ系、スコットランドのルーツを持つジミ・ヘンドリックス(ジミヘン)の精神にも触れていく。反戦、反体制運動が最高潮の1969年に行われた伝説の音楽フェス、ウッドストックでのエピソードには、先住民を先祖に持つジミヘンらしさが現れている。ウッドストックで彼が身につけたフリンジ付きの衣装こそ、自身のルーツを表現したものであり、ようやくルーツに目を向けるべきだという社会がうねりのように浮かび上がってきた結果のようにも見えた。
ソウルフルで独特のリズムを刻む。理屈ではなく、脈々と受け継がれたものが、それぞれのミュージシャンから溢れ出す。それがまた新しい世代に影響を与え、音楽に新しい歴史を作っていく。ルーツを知ることは、創造の源泉に触れることでもある。改めて、自分のルーツに目を向けることの大切さにも気づかせてくれる、アメリカ音楽史のコアになる部分を見せてくれたような、必見ドキュメンタリーだ。
<作品情報>
『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』”RUMBLE The Indians Who Rocked The World”
(2017年 カナダ 102分)
監督:キャサリン・ベインブリッジ 共同監督:アルフォンソ・マイオラナ
出演:リンク・レイ、チャーリー・パトン、ミルドレッド・ベイリー、バフィ・セイント・マリー、ジミ・ヘンドリクス、ロビー・ロバートソン、ジェシ・エド・デイヴィス、レッドボーン、ランディ・カスティーヨ、タブー(ブラック・アイド・ピーズ)、マーティン・スコセッシ、クインシー・ジョーンズ、スティーヴン・タイラー(エアロスミス)、スティーヴン・ヴァン・ザント、イギー・ポップ、トニー・ベネット、ジョージ・クリントン、スラッシュ(ガンズ・アンド・ローゼズ)、テイラー・ホーキンス(フー・ファイターズ)、ジャクソン・ブラウン、ウェイン・クレイマー(MC5)、マーキー・ラモーン(ラモーンズ)、スティーヴィー・サラス 他
9月4日(金)〜シネ・リーブル梅田、9月12日(土)〜神戸アートビレッジセンター、9月25日(金)〜京都みなみ会館他全国順次公開
※9月10日(木)シネ・リーブル梅田、9月11日(金)京都みなみ会館でピーター・バラカンさんトークショー付き上映あり
© Rezolution Pictures (RUMBLE) Inc.
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