渡辺真起子インタビュー「なら国際映画祭」と「ミニシアターパーク」を語る。


 9月18日より開催中のなら国際映画祭2020で学生映画のコンペティション、ナラウェイブ部門審査員を務める俳優、渡辺真起子さんに、新型コロナ対策を行いながら開催している同映画祭について、またナラウェイブ部門作品の今年の傾向や緊急事態宣言下で俳優主体のミニシアター支援をと立ち上げた「ミニシアターパーク」についてお話を伺った。



―――新しいガイドラインのもと、映画やテレビも撮影を再開しましたが、現場はどんな状況なのでしょうか?

渡辺:地方ロケとなると個人的には怖いし、色々な迷惑をかけてしまうのではないかという気持ちはありましたが、今回は向き合う作品の内容や、今までお付き合いのある監督でお人柄もわかっていたので、その人の元で撮影を続行するのであれば、自分の中でできることは徹底していきました。今まで以上に、現場で緊張感があるのは確かですね。



■「自分が励まされる」と感じた、なら国際映画祭審査員のオファー

―――コロナ禍で多くの映画祭が規模を大幅に縮小する中、席数は半減しながらも規模をむしろ拡大する形で開催されるなら国際映画祭で審査員のオファーを受けた時、どう感じましたか?

渡辺:最初、河瀨監督から直接メールをいただいたのですが、映画祭に集まるみなさんの顔ぶれをみたとき、これは自分が励まされるな、おもしろいなと思いました。なにせ河瀨監督が地域に根ざして作り上げている映画祭ですから。奈良は『光』の陣中見舞いで訪れて以来4年ぶりになります。


―――18日のオープニングでは、東大寺大仏殿正面の参道でのレッドカーペットで、オンライン中継からもその荘厳さが伝わっていましたね。

渡辺:本当にびっくりですね。レッドカーペットを歩いているときは、その場に身を預けるような感覚でしたし、大きい大仏様の足元に着いたときには、「なんて安心するんだろう」と感じました。ずっと唱えている読経を聞いていると、本当にメディテーションの世界でした。



■ナラウェイブ部門作品は「どの作品も未来に向かっている」感覚があった。

―――渡辺さんはナラウェイブ部門の審査員を務められていますが、今年の作品はどんな特徴がありましたか?

渡辺:本当にバラエティ豊かで、どの作品も未来に向かっている感覚がありますね。学生たちや学生から少し時間が経った人たちがこれから映画を志すと思うのですが、何かを志しているということ自体、すでに未来がある。なりたいものがあったり、やりたいことがあったり、自分の意見を初めて言っているような感覚ですね。「私は世界をこう観ています」という表明であり、もうちょっと伝えたいと思っている感じを受けましたね。


―――その中でも、コミュニケーションの問題を描く作品の多さが特徴的でした。

渡辺:それはすごく思います。コミュニケーションを確認するような作品の多さが際立っている。コミュニケーションというより、コミットなのかもしれませんが、それはナラウェイブだけでなくカンヌ短編にも共通して言えることですね。


―――あと、セリフに頼らない作品が多かったように思いますが。

渡辺:(セリフに)頼ってますよ。頼らないと決めている作品もありましたが、のせる言葉にクエスチョンが多い。例えば私が「愛」といった言葉が伝わるのかなと、本当にナイーブですね。


―――演じる側としては、セリフが多いのとセリフに頼らない演技とどちらの方が好きですか?

渡辺:説明ゼリフが多いよねという話は俳優同士でも話題になりますが、私自身は説明しなければ伝わらない人が多いなら、そちらの方がいいじゃないかと思います。昔は説明ゼリフが苦手だったので、そこにどんな感情を入れなければいけないのかと思っていましたが、大人になった今は、普段でも自分がこれだけしゃべるということは、たくさんしゃべる人が世界にいっぱいいるし、日常生活でも説明したい人いるよなと。


■俳優という職業を通じて「自分が生きていくためのアイデアがほしい」

―――緊急事態宣言後、俳優の皆さんは仕事がストップしたことで、ある意味立ち止まって考える時間ができたとも言えるのでしょうか?

渡辺:そうですね。でも仕事がなく時間があったということは若い頃に体験していたので問題はなかったです。そもそも一生俳優で食べていけると確信を持ったことが一度もないし、そこだけが目標ではないというのが若い時の覚悟にありました。自分が関わりたいものだけに関わっていく。生活をするためではなく自分が生きていくためのアイデアがほしいし、同じようなことを考えている人にとって、私のことは覚えていなくてもいいので何かになればいいなと思っているんです。


■#SaveTheCinemaとミニシアター・エイド基金参加の経緯

―――緊急事態宣言発令後間もないタイミングで発足したミニシアター・エイド基金の発足記者会見で渡辺さんがリモート登壇されていたのに、とても感銘を受けました。

渡辺:#SaveTheCinemaのときは諏訪敦彦監督からお電話をいただき、ずっと自分でも考えていることでもあったので、柄本明さん、井浦新さん、私がまず呼びかけ人に名を連ねました。

実は深田晃司監督、土屋豊監督が代表理事の独立映画鍋立ち上げ時に声をかけてもらい、主軸にはなっていませんが設立当初から会員になっていて、ミニシアター・エイド基金立ち上げ時にも深田監督が連絡をくださったんです。「ミニシアターと言えば、渡辺さんです」と。こちらから「立ち上げるに当たって今すぐすべきことは」などと質問したことに対し的確な返事をくださいましたし、深田監督と濱口監督それぞれの考えに共鳴できたので、私で良ければと参加させていただきました。お二人は本当に短い期間で素晴らしいリーダーシップを発揮しましたし、大変だったと思いましたがまさに意地をみましたね。


■ミニシアターパークは「俳優もできることがあれば『やりたい』と意思を見せるための場所」。

―――それらの活動に参加される中で、渡辺さん、井浦さん、斎藤工さんの3人で俳優自身がミニシアター支援のために発信するミニシアターパークを立ち上げておられますね。

渡辺:私たちはミニシアターパークという活動名で、ガンバレ!とミニシアターを応援しているだけなんです。今の段階はとても個人的なものですが、俳優もできることがあれば「やりたい」と意思を見せるための場所だと捉えています。それはグループでも団体でも派閥でもなく、公園という名前の通り、そこに来て缶蹴りやりたかったら、それをすればいい。ただ公園に来る意思はあるんだよね?ということなんです。ミニシアターパークは映画館つながりの場所を提供する架空の場所であり、考え方であり、アイデアの持ち方を具体化したもので、これを真似してもらってもかまわないし、もっと上手にやってもらっていいんです。やはり俳優たちはどうしても受け身になってしまう。事務所に入っていても、剥き出しにさらされているし、自己管理も強いられる中で、自分と社会の折り合いをつけながら、できることを見つけてくれたらいいなと思います。


―――俳優の皆さんから直接声がかかることで、元気付けられているミニシアターも多いと思います。

渡辺:映画館は私たちの仕事場だと考えているんです。そこで初めて観客と映画が出会い、作品がはじまる。各映画館がどんな映画をかけようかと悩んだ末で上映している作品が実に多彩であることは、行ったことのある方ならわかると思いますし、映画館という場所が公園のように一つのコミュニティとなり、コミュニケーションの場所となっていますよね。


■多方面からの応援の声にすごく支えられている「ミニシアターパーク」。

―――ミニシアターパーク活動の一環としてリモート舞台挨拶を開催していますが、半席状態だった頃舞台挨拶の回は満席で助けられたという映画館も多かったと聞きます。

渡辺:とにかく満席にしたかった。リモートでいろいろなことができるようになり、リモート舞台挨拶が一番しっくりくるということで、だんだん形ができていきました。私たち3人が動き出したことに関心を持っていただき、プロデューサーの方や、宣伝配給の方、キャスティングの方など本当にいろいろな人たちが「できることがあればやります」と思いを一つにして、無償で協力してくださっている。他の俳優さんにお声かけするとき、ルールとしては自分で会社の人、マネージャーさんに了承を得るように交渉をお願いしていたのですが、俳優事務所のマネジメント側の方からも応援の声をいただいたりすると…泣いたり笑ったりですよ。同じように考えている方もたくさんいらっしゃる。そのことにすごく支えられているんです。昔怖いと思っていたような映画関係の方が「映画や映画館に対し、何かできることがあればしたいんです」と声をかけてくださったり、もちろん他にいろいろなご意見もいただきます。


■「Help! The 映画配給会社プロジェクト」とコラボした岩波ホールでのトーク。

―――全国の映画館が臨時休館したことで、映画館が営業しなければ映画が届かないと身をもって知らされました。

渡辺:今回海外で映画を買い付け日本で配給する配給会社が「Help! The 映画配給会社プロジェクト」を立ち上げられたのですが、映画祭でそれぞれの配給の方が仲良くされることはあってもこのような形で団結して活動するのは珍しいことですし、それらの配給会社がなければ観ることができなかった憧れの映画はたくさんあるんです。もともと困難な道を選んでおられる方達なので、正直若い頃はお会いしても難しいことを言って怖いなという印象だったのです。ただ間違いなく80年代〜90年代にそれらのミニシアター系洋画を通して私はいろいろ学んだので、岩波ホールでアニエス・ヴァルダ特集が開催されると知り、配給会社のザジフィルムさんに何かできることはないかとお聞きするとトーク企画のお話をいただけたんです。岩波ホールは日本で最初のミニシアターですし、実体験を持っておられる方がいらっしゃる。本当にありがたい話だと思い、小泉先輩をお誘いし、ヴァルダファンの安藤玉恵さんにも参加してもらいました。女優が映画のことを語る機会はなかなかないので、そこに尻込みしないでトークを楽しんでもらえたらうれしいなという気持ちで臨みました。(斎藤)工君、(井浦)新君それぞれの視点から詳細に語っておられたし、そのトークから見えてくるヴァルダもある。いい学びになりましたし、観客の皆さんに喜んでいただけるのが一番です。


■誰か他の人の気持ちを汲み取る力が弱い社会になってしまった。

―――本当に様々な新しい試みが生まれていると実感しますね。今まで本当に裏方だった配給会社さんの顔が見えるようになったのはとても興味深い現象です。

渡辺:確かにそうですし、それぐらいしなければ物語が伝わらないと感じます。今は汲み取る力がすごく弱っているし、自分も自分の周りもそうで、誰か他の人の気持ちを汲み取る力が弱いのではないかという気がしますね。そういう社会になってきていて、だからこそコミュニケーションの問題を世界中で映画にするのでしょうし、極端な話、「私はここに生まれているのですか」という気分で自分の命が希薄になってしまうと、他者の命も希薄になりそうな気がしますよね。人類が滅亡しても生き物としての末路であれば太刀打ちできないかもしれませんが、運命には逆らいたいし、人生には喜びが多い方がいいのではないかと思うし、いいことも悪いことも含めて、人生に無駄なことはないと思いたい。そんな欲望で生きています(笑)


―――ある意味ミニシアターの存在が様々な存在や関係性が希薄になってきた世の中で、各人の居場所のような存在になってもいますよね。

渡辺:今は子どもだけわかるとか、おじいちゃんだけ分かるとか、「愛の不時着」のようなヒット作はありますが、何十年も語り継がれるような名作に触れようとすれば、やはりミニシアターの存在が大きいんです。そこで過去の名作に出会い、語るチャンスを得られれば、「私はここに生まれているのですか」という問いを解決するかどうかはわからなくても、突破口がみつかるかもしれない。私自身もミニシアターに救われたのでそう思いますね。



■地方の映画祭で生まれる多様性を共有する方が、未来に向かって広がる可能性がある。

―――ありがとうございました。最後に映画祭も東京発信がとかく注目されがちですが、なら国際映画祭のように地方から世界に発信していく映画祭について、ご意見をお聞かせください。

渡辺:素晴らしいですね。発信する場所を限定するのではなく、自分の住む地域に映画祭があることを今は伝えやすいですし、ローカルの特殊性はとても興味深いです。私は東京生まれ東京育ちで東京のことが大好きですし、他の人たちもきっとそう感じているはずだと思っているんです。都市部に何かを持ってくる労力やお金があれば、各地域でできることはもっとたくさんあると思いますし、そこで多様性が生まれ、それを共有する方が未来に向かって可能性が広がるのではないでしょうか。それは世界のありとあらゆる場所に対して思うことではありますね。

(江口由美)