ユースが企画・宣伝の奈良初上映『静かな雨』満席に。中川龍太郎×河瀨直美W監督トーク開催
22日に閉幕したなら国際映画祭2020で、今年初の企画として参加者を募ったユースシネマインターンが企画・宣伝した中川龍太郎監督最新作『静かな雨』が奈良で初上映され、満席の観客が若い主人公たちの心のひだを丁寧に描いた美しい作品を堪能した。
講師に『あん』『淵に立つ』『寝ても覚めても』の製作に参加、深田晃司監督最新作『本気のしるし』が2020年にカンヌ公式作品に選出され配給会社ラビットハウス代表の増田英明さんを迎え、オリジナルのフライヤー作りから、メディアへの働きかけ、ラジオ出演など作品を届ける宣伝の仕事に取り組んだ。コロナ禍でリモートでのミーティングを何度も重ねながら、「ならで初上映」を強調したり、中川監督、同作に出演の河瀨直美監督とのW対談を告知することや、より主人公二人が自然な雰囲気の劇中写真を採用するなど、様々なアイデアを盛り込んでいる。
参加したNami , Mitsuki , Kenta , Yoshino , Yukaらは、
「映画を配給するために配給会社がいて、広げるために宣伝の方がいることを初めて知ることができた」
「3ヶ月ぐらい前からずっとズームで会議し続け、満席にできたのが感動。取材協力の電話をしてどんどん記事を書いてもらうのがうれしかった」
「やることがたくさんあるワークショップで大変でしたが、ここでしか体験できないことをたくさんでき、取材、ラジオ出演もでき、すごくいい体験になりました」
「最初、席が埋まるのかすごく心配で、チラシづくりに取り組んでいた。人前で意見を言うのが苦手だけど、自分の言ったことがチラシに反映されるとうれしい」
「宣伝するにあたって『静かな雨』を何度も見たが、何度見ても泣くことができる作品。ぜひ、今回のチラシとたい焼きを片手に見てほしい」
と満席の客席を観て、全員が感無量の面持ち。奈良市内には映画館がないが、コロナ禍のハンデを乗り越えて見事上映会を成功させ、上映後のトークショーも大盛況だった。その様子も合わせてご紹介したい。
2月に全国劇場公開されたものの、新型コロナウィルスの影響で当初予定通りの上映が叶わなかったという『静かな雨』。上映後は「久々にお客さんと一緒に見る喜びと怖さを味わいました。河瀨監督がお隣だったので緊張のあまり途中でお手洗いに行ってしまった…」と苦笑いをする中川監督と、「俳優の河瀨直美です。大きなスクリーンで見るのは初めて。行助君と一緒に映画を見ている気になってしまった」と笑顔で登壇した河瀨監督とのW監督トークショーが開催された。
今まで全て自らが執筆したオリジナルストーリーを撮り続けてきた中川監督。『進撃の巨人』を手がけている WITSTUDIO のプロデューサーから本作の映画化を打診された時は静かすぎて映画には不向きと感じたそうだが「こよみが毎朝つぶやく言葉『雨、上がったんだね』を読んだ時、これは人と人との関係性の話で、ゆっくりと長い時間をかけて話を聞ける一種のおとぎ話になればと引き受けさせていただいた」という。
仲野太賀が演じる行助は脚に先天性障害を持ち、本作が映画初主演となる衛藤美彩が演じるこよみは事故の後遺症で記憶が失われていくが、「こよみはマドンナ、キラキラしている彼女にハンディキャップが生まれた瞬間、関係性が変わってくる。僕は30歳ですが、僕よりもっと若い世代はなかなか生きづらい時代。とはいえ生きているというところに行助が左足を引きずる設定になっています」
こよみの母役で出演した河瀨監督は撮影を振り返り、「セリフは同じでもアングルが違う。行助が何を思っているか、彼の孤独を観客に想像させ、フラストレーションが溜まりそうな時に、感情を爆発させるのが見事」と賞賛。さらに自身のシーンについては「ものすごく緻密にアングル設計がされ、これが本当の映画の現場だと思った。その中で私の不思議な感じを出しながらも母としてのリアリティがあったので、いつも息子を呼んでいる『みーちゃん』と半分自分ごとにさせていただいた」と裏話を披露すると、中川監督は「脚本になかったので驚いていると、太賀が『中川君、どちらが監督かわからないな』と。オーラがあってめっちゃ緊張しました。『逃げる?』とすごまれると逃げたくなる…」。そんな中川監督は「プロの俳優だけがいるのではなく、違う世界観の人が入ってくることが大事。作品のリズムを変えるために出てもらいたい。こよみのお母さんは異世界の人でなければいけない」と河瀨監督の起用理由を力説。『平成狸合戦ぽんぽこ』や『おおかみこどもの雨と雪 』の前半の舞台であり、傾斜が激しい山を無理やり切り開いて作った国立市を舞台にしたのも、こよみが自然の精霊とイメージしたからだという。「精霊たちの話を作るのに、無理やり作られた多摩は合うのではないか。人間になった精霊のこよみをカメラが見守るという視点なんです」
最後に観客からの質問で作品中に川のシーンが多いことを聞かれた中川監督は「川は連鎖の象徴でもあります。『愛の小さな歴史』も記憶や家族の連鎖の話です。東京は変わらないものがない。川は変わらないものの象徴であり、都市の中で自然と触れ合える数少ない部分なのです」と川への思いを語った。その言葉を象徴するような、二人の未来を予感させる素晴らしいラストシーンにもぜひ注目してもらいたい、切なく美しい不器用な愛の物語。中川監督らしい詩情豊かな映像が辛い現実をどこかファンタジーの世界へ誘う、奈良のゆったりした時間の流れともシンクロするひとときだった。
0コメント