ゴールデンSHIKA賞は『エンド オブ ラブ』(フランス)に。なら国際映画祭2020、大盛況のうちに閉幕。
新型コロナ禍で感染予防対策を行い、オンラインとのハイブリッドで9月18日より5日間開催されたなら国際映画祭2020が22日に閉幕し、奈良市ならまちセンター市民ホールにてクロージングセレモニーが行われた。
行定監督は「審査員は光栄だが責任が重大。なら国際映画祭の開催は、僕ら映画人、映画祭をやっている身としても勇気を与えられることだった。5日間、映画と向き合わせてもらい、鹿と戯れた。こんなにも街を歩かせたいと思う映画祭はないし、一人で街の中を歩いた映画祭も初めてで、すごく充実した日々をいただいた。作品は賞を決めなければいけないのが申し訳ないぐらい力作ぞろい。コロナ禍であるからこそ人生を考えている時なので、映画を見るとぶつかってくるテーマがたくさんあり、僕にとってもそういう宝を探せました」。
中野信子さんは「学者というのは運命に介入しない。対象の経緯を観察するだけ。観察者の道を好んで学者を選んだが、人間関係を重ねていくと、こういう立場になるものなんですね。今日は覚悟を決めて臨みます」
渡辺真起子さんは「参加してくださった監督たち、5日間もう少し皆さんのことを知りたかったですが、作品は一生懸命見させていただきました」
と5日間に渡る映画祭での審査を終えての感想が寄せられ、各賞の発表が行われた。
■インターナショナルコンペティション部門
見事、インターナショナルコンペティション部門の最高賞、ゴールデンSHIKA賞に輝いたのは、ケレン・ベン・ラファエル監督の『エンド オブ ラブ』(フランス)。エリック・クー審査員長、審査員の行定勲監督、中野信子さんの全員一致で決まったという受賞、行定監督は受賞理由について「今までにないぐらい早い審査会。共通した気持ちが3人の審査員の中にあった。本作はコロナ禍で経験しているオンラインコミュニケーションツールを使った恋人たちの話であり、その弊害に巻き込まれた恋人たちの悲劇が描かれるが、どうにも解決できないヒリヒリした姿が臨場感を生み出すことに成功している。観客を映像の中に没入させ、能動的にさせていく力を評価したい」と語った。ケレン・ベン・ラファエル監督はオンラインで「遠く離れた人に私の作品が届き、とても嬉しく思います。日本に今すぐにでも行きたい気持ちです」とお子さんたちが画面に入り込む中、喜びを表現。まさに今年ならではの受賞風景だ。
今回特別に設けられた審査員特別賞には、グレゴル・ボジッチ監督の『栗の森のものがたり』(スロベニア)。中野さんは自身が惚れ込んだと前置きしながら、「絵画的でコンペ作品の中で最も美しい作品。なら国際映画祭が授与する意味という点では時間性を感じさせ、エグゼクティブ・ディレクターの河瀨さんへのオマージュを感じずにはいられない作品でした」と受賞理由を熱く語った。
また今年から新設の俳優賞には『シヤボンガ』主演のシヤボンガ・マジョラさん、そして観客賞には、レイラ・ジューチン・ジー監督の『ビクティム(たち)』(マレーシア)が選ばれた。
■NARA-wave ナラウェイブ(学生映画部門)
新会場のエヴァンズ・キャッスル・ホールで開催され、若い観客を中心に人気を呼んだナラウェイブ(学生映画部門)。最高賞のゴールデンKOJIKA賞は、ボ・ハンチョン監督の『漂流』(中国)が見事受賞した。審査員の渡辺真起子さんが「16分という時間の中で豊かなタイムラインと強い心象風景を残した作品。長らく解決していない問題だけど、説明のしきれない生命力と、これからも生き続ける強い意志を感じました」と受賞理由を読み上げ、ボ・ハンチョンはオンラインで「映画を見てくださった方がありがとうございました。奈良に行くことができず残念ですが、次は新しい作品を持ってならに訪れたいと思います」と受賞の喜びを語った。
今年から新設の俳優賞には『ラニー』主演のアイリーン・リュウさんが「女性が撮った家族の物語だが、センチメンタルではなく彼女が未来を見つめているのに好感が持てた」とのコメントと共に受賞。まだティーンエイジャーのアイリーン・リュウさんからは見事な受賞スピーチが寄せられ、会場からも大きな拍手が沸き起こった。
観客賞は村瀬大地監督の『ROLL』が受賞。登壇した村瀬監督は「この映画はフィルムという物質と初めて出会う主人公たち、僕達スタッフとフィルムとの出会いの話でした。作っていくたびに初めて映画と出会った時の感情を思い出しながら、この映画にみんなで愛を注ぎながら作った作品。観客の皆さんに選んでいただけて光栄です」とその喜びを表現。渡辺さんからも熱いエールが送られた。
■ユース映画審査員プログラム
10人のユース審査員たちが長編、短編と5人ずつチームとなって審査し、その講評と受賞作発表、その選定理由を舞台上で発表するなら国際映画祭ではお馴染みとなったプログラム。
長編部門:ベルリナーレ・スポットライト-ジェネレーション最優秀賞「クリスタルSHIKA賞」には、サミュエル・キシ・レオポ監督の『ロス・ロボス』(メキシコ、アメリカ)
受賞理由:移民の家族が協力して生きていく姿が自然で美しく、男の子の視点で描くカメラワークがすばらしい。
短編部門:SSFF & ASIA セレクション最優秀賞「クリスタルSHIKA賞」には、クリス・オーバートン監督の『サイレント・チャイルド』(イギリス)
受賞理由:主人公は聴覚不自由な女の子で指導者と母親との対立も描かれる。世界では障害者のための学校が少ないと語って終わるように社会に問題を訴えている作品と評価しました。
最後にエグゼクティブ・ディレクターの河瀨直美監督は「本来ならオリンピック公式映画監督として多忙な中、映画祭の準備が一切できない”河瀨直美2020年問題”があったのですが、オリンピックそのものがなくなったので来年に持ち越しという知らせを3月24日に聞いた時、使命を与えられたと感じました。緊急事態宣言下ではずっと奈良にこもり、この地域は本当に自然と共存している地域なんだと実感しましたし、人が出なくなるとホタルが乱舞したり、鹿が街の中にでてきて、あちこちでバンビが生まれています。
本当に映画祭をやるのかを議論し、6月頭に映画祭をやることを決定してからはできるだけたくさんの人たちにその思いを共有したいと不慣れなハイブリッドにも挑戦しました。大仏殿のレッドカーペットの前の扉が開き、風が渡った時は1000年の歴史の延長線上にこの命がやってきたと思えるし、それを受け継いでいく私たちの役割を感じながら歩きました。10年前映画祭が立ち上がった時、『1000年続く映画祭にしよう』と言いましたが、1000年という単位は奈良の人たちにとってはほんのこの間で、みんながそれを継いでくれることが今年の映画祭の夢でした。一人が権力を持つのではなく、それぞれが命を輝かせる映画祭にしていきたいと思います」と感謝の言葉で締めくくった。
会期中は4000名様を超える来場者があり、初の試みとなるオンラインプログラムでは20万近い反響があったという。コロナ禍での映画界や映画祭のあり方に大きな光を照らし、また新しい才能の育成が見事に花開きつつあることを感じさせる、歴史に名を刻む映画祭となった。尚、今回、インターナショナルコンペティション部門とNARA-waveにおいて受賞した監督には、「NARAtive」の企画提案権利が与えられ、採用されれば次回の映画祭で「NARAtive」作品の監督権利が与えられる。
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