映画のテーマ、ひまわりを熱く語る!『種をまく人』竹内洋介監督、出演・岸建太朗舞台挨拶@元町映画館
世界初上映のテッサロニキ国際映画祭で最優秀監督賞、最優秀主演女優賞(竹中鈴乃)を受賞、2018年の大阪アジアン映画祭で日本初上映し、2020年に待望の日本劇場公開を果たした骨太のヒューマンドラマ『種をまく人』が1月9日に元町映画館で公開初日を迎え、竹内洋介監督と出演の岸建太朗さんが舞台挨拶で登壇した。
■「種をまく」という行為が示す意味とは?
まず観客から、劇中で主人公の光雄が種をまいたことの意味への質問に対し、
岸:まず本作は、画家でもある竹内監督がフランスで絵を勉強していた時にゴッホへの憧れがあったというベースがあった上での映画です。ゴッホという画家の人生を現代の日本に置き換えて描く時、ゴッホが模写をした画家ミレーの「種をまく人」の絵の中で種を撒いている人の格好が、光男にも反映されています。
種をまく行為は、種をまくとそこで芽が出て、育っていくものを僕たちが日々草花という目に見える形で見ていますが、種をまく映画にしようと思ったきっかけは、竹内さんと一緒に東日本大震災後、陸前高田の被災地を訪れた時、荒廃してしまった土地にたまたま一輪のひまわりの花を見つけたんです。その姿が竹内監督の作家としてのスイッチを押したんです。そこで咲くひまわりの生命力に大きなものを感じ、映画にするのであれば本当に僕たちがひまわりの種をまき、育成しようと思ったんです。この映画に登場するひまわりは全て僕たちが種をまき、育てたもので、お金も時間も随分かかりましたが、そこに言葉以上の力強さを描きたかったのです。
竹内監督:ひまわりは映画のテーマでもありますが、光男が種をまく行為は、過ちを犯してしまった姪っ子の知恵をどうすれば救えるかという気持ちしかなかったと思います。ただ彼の行動はなかなか理解されないのです。
岸:きっかけはそうだったけれど、光男はだんだん知恵のことを忘れ、ただ種をまくだけの話なんだと、竹内監督と現場で話すうちにそういう理解になっていきましたよね。
竹内監督:そこがある意味テーマですし、時間が知恵にとってはある意味唯一の救いなのではないかと映画全体を通して言いたかったし、ラストのひまわりに希望があるのではないかと思っています。
と、タイトルにもなっている「種をまく」に対する熱い想いが語られた。
■姪、知恵役の竹中鈴乃は、キャストみんなで導く演出に。
竹内監督から次に語られたのは、光男の弟、裕太の長女である知恵を演じた竹中鈴乃の演出。映画の中の知恵の人生を生きてもらうために、他のキャストたちとも相談し、前半の知恵が起こす事故の前部分までしかシナリオを渡さず、そこからは監督がシーンごとに説明しながら撮影を進めていったという。さらに知恵の家族を演じた周りの役者たちが知恵の感情を導いていくという、みんなで子役を演出する形を取ったのだそうだ。
撮影監督も兼ねた岸は「僕が印象的だったのはシナリオ上にはもっとたくさんのシーンが書かれているのですが、シナリオにはかけない部分があります。あるシーンで、竹中さんの今後の演技のために、映画では登場しないけれど、知恵が起こした事故を実際に演じてもらった時、彼女の中でカチンとスイッチが入ったんです。その経験を背負ったまま、順撮りしていったので、演技というより経験として積み上がっていった演技だったのが印象的でしたね」と、知恵を演じた竹中の成長ぶりを振り返った。
■ゴッホと同じ生活を体験し、身も心もゴッホに。
竹内監督とは映画美学校時代に知り合い、お互いの作品を手伝いながら関わり合ってきたという岸。ゴッホをモチーフにした光男役を演じるに当たって何ができるかと考えた時、まずは100年以上前に生きた人の体に戻す作業が必要だと感じ、毎日決まった時間に一汁一菜の食事を摂り、ゴッホに倣って肉は食べない生活を始めたのだという。そしてもう一つ、ゴッホがパトロンでもあった弟、テオに宛てた膨大な手紙を毎日同じ時間に一ページ読むという作業を続けたのだという。結果的に20キロ以上痩せ、ヒゲを生やして、苦悩に満ちた時代のゴッホさながらの光男像ができあがった。
元々、撮影監督としても有名な岸だが、さすがに竹内監督から主演と撮影の両方を依頼された時は、撮影を断ったのだという。「ただ、話し合っていくうちに、知恵を見つめる目、知恵の妹の一希を見つめる目、僕らがいなくなった後に世界を見つめる目を考えた時、カメラマンと言うよりも、光男が世界を覗くというスタンスがこの映画しかできないものになるのではないか」と思ったのだとか。岸=光男が見つめる世界にも、ぜひ注目してほしい。
さらに映画の中で、光男が白い石を持っているシーンは、実は一希の魂だと思って渡したという意味を込めているのだという。光男が石を積むシーンがチラリと登場するが、岸と竹内監督は丸一日河原を歩き、石を積むシーンのためにひたすら石を積み続ける中、次第に石の表情がわかるようになり、光男なら一希のためにそうするのではないかという話に発展。そしてまさに一希そっくりの石を見つけたことが、そのシーンにつながったのだという。
最後に「スタッフ、キャストが心を込めて、今の日本映画にない映画を作ろうと思って作りました。ぜひ、こういう時期だからこそ観ていただきたいです。色々考える映画になっていると思います」(竹内監督)
「映像作品のみならず、芸術作品が観る側に寄り添うものがとても多い中で、ここまで勇気のある映画は少ないと思います。観客の想像力にかなり委ねられ、観る人によって感想が変わってくる映画ですし、こういう時代だからこそ『種をまく人』を観ていただけるのはとても大きなことです。簡単には噛み砕けないのがこの映画のウリですから、また観にきていただけるとうれしいですし、こういう変わった映画があるよとお伝えいただけるとうれしいです」(岸)
現代のゴッホの役作りをした岸に、ゴッホの気持ちがわかった瞬間があったかどうかを聞いてみたところ、「ゴッホの弟、テオの息子が生まれた時、ゴッホからの手紙には書かれていないが、テオの妻、ヨーから『来てくれてありがとう』という返事から推測するに、ゴッホは一度だけ甥っ子に会っているんです。実際にテオに息子や娘が生まれた時、ゴッホは今まで兄の自分に注がれていた愛情が子どもたちに注がれ、精神が不安定になっています。でも、甥っ子たちに会ったことで気持ちが落ち着く。それはこの作品の冒頭で、光男が精神病院を出て、弟・裕太の家を訪れ、姪っ子の知恵や一希と触れ合うシーンと重なります。このシーンは一番最初の撮影でしたが、演じた瞬間腑に落ちた。ゴッホの気持ちが理解できたんです」
実際には墓地のシーンや、精神病院で精神衰弱状態の光男のシーンなど、全てつなげれば4時間ぐらいになる分量を撮影したのだという。いつの日か完全版が登場するのを密かに期待していたい。元町映画館での上映は連日10:30より、1月15日(金)まで。
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