帰ってきた“浪速のロッキー”と名作『悪名』を彷彿とさせる新作! 『ねばぎば 新世界』赤井英和さん(主演)、上西雄大さん(監督・脚本・主演)インタビュー
驚異のロングラン上映を続けている『ひとくず』の上西雄大監督の最新作は、“浪速のロッキー”こと赤井英和を主演に迎え、現代の悪に挑む!人情ドラマとアクション満載の『ねばぎば 新世界』が、2021年7月10日(土)より新宿K's cinema、7月16日(金)よりなんばパークスシネマ、MOVIX堺、京都みなみ会館、7月17日(土)より第七藝術劇場、8月7日(土)より元町映画館他、全国順次公開される。
赤井が扮するのは、かつてはヤクザの組を潰すやんちゃ者で、その後ボクシングジム経営を経て、訳があって今は新世界の串カツ屋で働く勝吉こと村上勝太郎。上西は勝吉の弟分で、覚せい剤所持で服役中のコオロギこと神木雄司を演じる。勝吉が刑務所へ慰問で訪れたときに再会したコオロギの出所後、面倒をみるところから往年のコンビが復活。宗教団体から逃げ出した少年、武を助けた勝吉は、かつて”Never give up(ねばぎば)”という言葉を教え、ボクシングを教えてくれた恩師・須賀田(西岡德馬)の娘、琴音(有森也実)が宗教団体の幹部になっていることを知る。見返りを求めず、人のために立ち上がる勝吉とコオロギの奮闘や、それぞれの困難を乗り越える物語が、新世界のおもろい面々たちと共に鮮やかに繰り広げられる。昭和の名作『悪名』がまさに現代に蘇ったような痛快作。勝吉がみせるアクションや、勝吉とコオロギの名コンビぶりにも注目したい。
本作の主演、赤井英和さんと、監督・脚本・主演の上西雄大さんにお話を伺った。
■『どついたるねん』が大好き。憧れの赤井さん主演で新世界を舞台に名作シリーズ『悪名』を彷彿とさせる新作(上西)
――――お二人とも大阪出身ですが、上西さんにとって赤井さんはどんな存在ですか?
上西:赤井さんの存在は、どの世代の関西人にとっても一人ひとりの思い出と直結していると思います。僕も赤井さんが「浪速のロッキー」と呼ばれていた選手時代から注目していましたし、初主演作の『どついたるねん』(89 阪本順治監督)が本当に大好きで、僕が毎月のように観る映画のなかの一本です。憧れ中の憧れです。
――――お二人の出会いは?
赤井:本作のお話をいただく前に、ヤクザ映画で上西監督とご一緒したことがあり、そこで上西さんから「次回作は新世界を舞台に、赤井さん主演の作品を考えている」と打診してくださったのです。すでに『ひとくず』も鑑賞していたので、「あの上西監督が撮ってくださるんだ、うわぁ!」という感激がありました。
上西:『ひとくず』公開後に、僕が脚本と出演をしている作品の現場で赤井さんとお会いしたのですが、その時はすでに串かつだるまの上山会長から、新世界を舞台に、赤井さん主演の映画が作れないかと打診されていたのです。それならば大映の名作シリーズ『悪名』を彷彿とさせるコンビが悪者を成敗する映画を作り、僕は子分をやらせてもらったらどうだろうかと。上山会長も「赤井さんは『悪名』が好きやから、ええで!」と背中を押してくれたので、話がぐっと進みました。上山会長と赤井さんの友情はホンモノなので、上山会長にも劇中の串かつだるまの大将役で映画にも登場していただき、シーンのなかに取り込めればと企画が固まっていきました。
■全然知らないおっちゃんが「おかえり!」という新世界。地元で撮れた、帰ってきたという気持ちでいっぱい(赤井)
――――赤井さんは活動拠点を東京に移され、主演作を新世界で撮るのも久しぶりですが、いかがでしたか?
赤井:生まれ育った街から目と鼻の先ぐらいにある新世界が舞台で、ずっと通っていた串かつだるまも登場しますし、(勝吉は)そこで働いているわけです。本当に地元で撮れたな、帰ってきたなという気持ちでいっぱいでしたね。歩いていても、全然知らないおっちゃんが「おかえり!」と言ってくれる街ですから。あべのハルカスができ、街の様子が変わっても、人は変わりません。「おかえり、どこ行くねん?」「ちょっとそこまで」「きいつけや」と、知らん人ともそんなやりとりができる。そんな街の空気や人の佇まいが、この作品のさまざまなシーンで、十分描かれていると思います。
■ほとんど一発OK、腹の底から出た気持ちが言葉になった(赤井)
――――赤井さんを当て書きしながらの脚本執筆で心がけたことは?
上西:赤井さんという人間の魅力をきちんとこの作品で表現しなければダメだというプレッシャーはありましたが、赤井さんをイメージして物語を作っていくと、赤井さんの周りに人が集まってくる画ができるし、初稿は3日ぐらいで書いたと思います。『ひとくず』のときほど早くはありませんが…。
赤井:『ひとくず』はもっと早かったんですか。
上西:一晩で書きました。
赤井:えーっ!
上西:今回、赤井さんをイメージした勝吉親分に関しては、何も悩まなかったです。親分ならこう言うだろうし、こういうことをするだろうと明確に出てくるので、周りのリアクションを考えるのが大変でしたね。
赤井:私も今までドラマや舞台、映画とさまざまな仕事をやらせていただいていますが、セリフ覚えが難しいときもあり、テイクを重ねることが多かった。でも、今回はほとんど一発OKだったんです。脚本が僕の腹のなかに入り、セリフをしゃべるのではなく、腹の底から出た気持ちが言葉になって、相手に伝え、訴える。今回はそんな脚本の力を強烈に感じました。
――――勝吉が「そやな」と言うのが、本当に説得力というか気持ちがこもっていましたね。一方、本作はアクションシーンも魅力的です。特に勝吉はスパーリングなどのアクションシーンが多かったですが、実際の試合と違い、特に気をつけた点は?
赤井:試合に出ていたときは、リングの中央に自分がいるので、全方向から見えるわけですが、今回は一つのカメラで一方向から撮るわけですから、撮影の段取りや、アングルをいろいろと考えながらやりましたね。バラスを倒すシーンでは左右に振り分けながら、最後にカウンターを打ってはどうかといろいろ角度を考え、ワンカットで撮れるように動きました。
上西:カウンターのタイミングが絶妙ですから、対戦シーンは赤井さんの言われる通りに撮りましたね。
――――なるほど、赤井さんは演者であり、アクションシーンは演出もされていたんですね。ちなみに、勝吉をどんな人物だと思って演じたのですか?
赤井:正義や悪に対する思いを強烈に持っている男で、体を張ってでも悪を成敗しようとする。自分の損得は考えずに、なりふり構わず、利害関係なしに人のために、世の中のために動けるし、そうすることで世の中が良くなると信じている男だと思います。
■テンアンツの代表作「コオロギからの手紙」を発展。赤井さんと大阪弁の掛け合いに喜びを噛み締めて(上西)
――――上西さんが演じる子分のコオロギを主人公にした舞台がもともとあったそうですね。
上西:僕が主宰している劇団テンアンツの初期に作った舞台劇「コオロギからの手紙」は、ずっと上演し続けているとても大事な作品で、主人公のコオロギは、『悪名』でモートルの貞を演じた田宮二郎さんがモデルで、僕がずっと演じてきたのです。今回、『悪名』の現代版を彷彿とさせる作品ということで、コオロギというキャラクターを映画用に発展させたもうひとりのコオロギを作りました。舞台では掛け合いのできる親分を演じる人がいなかったので、映画で初めて、赤井さんと大阪弁での掛け合いにチャレンジしましたがとてもしっくりきましたし、赤井さんを「親分!」と呼べることの喜びを撮影中、しみじみと噛み締めていましたね。
――――コオロギは失読症というハンディキャップがある男ですが、バックグラウンドを教えてください。
上西:舞台版のコオロギは、昭和のまだ人々が貧しい時代に育った男で、鉄くず拾いをして学校に行く暇がなかったので、字が読めないまま大人になってしまった。腕っ節の強さだけが自慢だったのでヤクザになってしまったのです。字の読み書きができないことがコンプレックスだったコオロギが小学校の先生と出会うことで変わっていきます。ただ、そのまま今の時代に持ってきても説得力がないので、他の作品のためにリサーチしていた失読症をコオロギに反映させ、コオロギという人間を描くところにその要素を混在させました。
――――『ひとくず』は児童虐待が大きなテーマでしたが、本作でも母とともに宗教団体での共同生活を送ることを余儀なくされ、そこから逃げ出した少年、武を助けようと勝吉は奔走します。
赤井:武を本当になんとかしてあげたいと勝吉も、演じている赤井英和も切に思いましたから、そういう意味でも気持ちの動きやすい脚本であり、撮影であり、演出だったと思います。気持ちで芝居ができた現場でした。
■コオロギとして僕が演じる上で必要なものは、全て赤井さんからもらった(上西)
――――上西さんは、赤井さんと共演しながら演出する立場でしたが、力点を置いた点は?
上西:赤井さんご自身が輝いておられ、それをドラマの真ん中に据えていますから、周りの人間がどのようなリアクションをしていくかの演出に力を注ぎました。赤井さんは本当に完璧でしたから、毎日3時間以上予定より巻くぐらいスムーズにできましたね。セリフが大阪弁なので、より一層赤井さんのまっすぐな気持ちがセリフに乗っかっていました。僕はリアクションできる役者が本物だと思っていて、相手のアクションを受け取って演技をすればいいのです。僕の演じたコオロギは自立できない人間で、親分のそばでこそ生きる力を得ることができる人間でしたから、コオロギとして僕が演じる上で必要なものは、全て赤井さんからもらうものです。だから、赤井さんの存在や言葉に僕がコオロギとしてリアクションをとっていく。それが作品の構築につながっていきました。
――――赤井さんは勝吉とコオロギのかけあいシーンのなかで、特に印象に残っているものはありますか?
赤井:勝吉とコオロギが宗教団体に殴り込みに行く前の焼肉屋で、コオロギに「お前はほんとうの弟やと思ってる」と勝吉が語るシーンは、自分が演じているシーンだけれど、試写で見て、この二人の間には、友情以上の深い、深い関係があるんやなと感じさせてもらいました。また、そのあとの「いこか!」と出て行くところは、二人の決心を感じましたね。
■高校時代の神道の先生の教えと神道の気持ちが私の中に根付いている(赤井)
――――タイトルにもなっている「ネバギバ」(Never give up/諦めるな)は、勝吉とコオロギが暴れん坊だった若い頃に出会った恩師、須賀田の口癖であり、二人の心の拠り所になっている言葉です。赤井さん、上西さんご自身が若い頃に出会った、人生を支える恩師について教えてください。
赤井:私は大阪府下の神社が集まって創設した、創立100周年が間近の私立浪速高校に通っていました。実家は浄土宗ですが、神道の気持ちが学生時代から植えつけられ、毎年お伊勢参りをしていますし、我が家にも神社を作って、何か大事なことがある時は家族で祈ったり、神主さんをお呼びして祝詞を唱えることを続けています。高校時代の神道の先生は、入学式終了後にタバコを吸っているのを見つかって停学処分を食らって以来、在学中ずっとお世話になった恩人で、毎年我が家の神社にお札をくださっています。神仏に対して手を合わせる大切さは高校時代からの教えで、私の中に根付いていますね。
上西:僕は役者としてこれからの人生もまっとうしていきたいと思っていますが、役者の道に入るとき、基礎から全てを教えていただいたのは、関西芸術座におられた芝本正先生とパートナーの小西由貴先生です。僕にとっては最後まで師匠ですし、師匠との思い出は舞台にたくさんあるので、舞台では一番後ろの端の席に先生がいらっしゃるのを感じながら演じています。自分の芝居に迷ったときだけでなく、演出の際にどのような言葉を相手に渡すべきかとか、自分が渡そうとしたものが何か悩んでいるときは、いつも心の中で芝本先生に尋ねています。
■本気でシリーズ化を狙う『ねばぎば 新世界』、次の展開は?
――――やはり心の支えになる恩師や教えがあればこそ、悩みながらもここまでキャリアを積みあげてくることができたのでしょうね。『悪名』はシリーズ化され長く愛されてきましたが、本作もシリーズ化を狙っていますか?
上西:本気でシリーズ化を狙っています。なんとか多くの方に観ていただいて、シリーズ化することを念頭に作っていますので、ぜひご覧いただければと思います。
赤井:今回はインチキ宗教団体が出てきますが、さまざまな悪が今でもありますし、この勝吉とコオロギの二人にスカッと片付けてもらいたいという気持ちはありますよね。
上西:シリーズとなったら、レギュラー出演する人いっぱいいますよね。菅田俊さんが演じるお医者さんも次は暴れますよ。
赤井:「だまっとれ〜〜〜!」ってドヤす医者ですから(笑)そのシーン、そのシーンで出ておられる役者さんが主役ですから、実にみなさん素晴らしかったですね。
――――顔の映画とも言えるぐらい、みなさんインパクトのある表情を見せてくれました。友情出演も多数ですが、現場の雰囲気はどうでしたか?
上西:赤井さんが主演ということで、みなさんすぐにオファーを引き受けていただき、ました。豪華キャストが集まったのも赤井さんのおかげです。『悪名』の2作目が『続悪名』なので、『続ねばぎば 新世界』、3作目は『新ねばぎば 新世界』…。
赤井:4作目は『新続ねばぎば 新世界』で(笑)。
上西:勝吉は女性にモテるけれどお酒は飲めないのが『悪名』へのオマージュですから、これからもそのキャラで、毎回新しい女性ゲストを迎えて続けていきたいですね。
――――関西の仕事が少し途絶えていましたが、シリーズ化すれば関西に赤井さんが戻る機会も増えそうですね。今回は封切り時からシネコンでも上映されます。
上西:『ひとくず』が切り開いてくれたご縁で、なんばパークスシネマの大スクリーンで上映と舞台挨拶を行います。『ひとくず』の舞台挨拶の時は、スクリーンが大きすぎて、感動で泣いてしまいました。赤井さんが出演されるのですから、あれぐらいの大スクリーンは必要ですね。
――――ありがとうございます。最後にお二人からメッセージをお願いいたします。
赤井:『ねばぎば 新世界』は昭和の空気を感じさせる作品になっていると思いますが、若い世代の方には新しく、私より先輩世代の方には懐かしく、みなさんいろいろなことを感じていただける作品になっていますので、ぜひ劇場でご覧ください。
上西:コロナの土砂降りはまだ続きますが、いつか雨が上がって元の世界に戻れるまで「ねばぎば」の思いでみなさん頑張っておられると思います。この映画には昭和の痛快さがありますので、こんなときだからこそ、劇場でそれを受け取っていただければ嬉しいです。
(写真:大矢哲紀 文:江口由美)
<作品情報>
『ねばぎば 新世界』(2020年 日本 118分)
監督・脚本・編集・プロデューサー:上西雄大
出演:赤井英和 上西雄大 有森也実 小沢仁志 西岡德馬 菅田俊 田中要次 坂田聡 徳竹未夏 古川藍 金子昇 神戸浩 長原成樹 リー村山 堀田眞三 伴大介 谷しげる 剣持直明 國本鍾建 上山勝也 柴山勝也 草刈健太郎
2021年7月10日(土)より新宿K's cinema、7月16日(金)よりなんばパークスシネマ、MOVIX堺、京都みなみ会館、7月17日(土)より第七藝術劇場、8月7日(土)より元町映画館他、全国順次公開
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(c) YUDAI UENISHI
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