ディテールの大事さを主演の山中崇、主題歌の七尾旅人から学んで 『TOMA2号』長部洋平監督インタビュー


 3月10日より開催中の第18回大阪アジアン映画祭で、インディ・フォーラム部門の長部洋平監督作『TOMA2号』が世界初上映された。

 CMやドラマの映像ディレクターとして活躍する長部監督が、山中崇、嶋田久作、水間ロンを迎えて描いた父と息子の物語。現像し忘れていたインスタントカメラの「TOMA2号」を偶然見つけたことから、幼い頃の父や家族との記憶が蘇る一方、記憶が忘却していく父を車に乗せて向かうのは介護施設だった。誰にでもある家族との思い出の断片が七尾旅人の歌とともに運ばれてくるような、記憶と記録の物語だ。

 本作の長部洋平監督にお話を伺った。




―――『TOMA2号』というタイトルは、ちょっと懐かしさを誘いますね。

長部:最初は仮タイトルで「インスタントカメラストーリー」としていたぐらいでしたが、脚本の鷲頭紀子さんとやり取りする中でポンと出てきたタイトルで、すごくいいと思ったんです。『TOMA2号』となった時点で、では1号はどうだったんだろうとイメージが膨らむきっかけになりましたね。


―――主人公、燈馬は小さい頃からカメラが好きという設定でしたが、長部監督ご自身はどうだったのですか?

長部:僕の場合、ドラマは好きでしたがカメラはそこまで…と思っていたんです。でも、本作を機に改めて自身を振り返ってみると、友達の結婚式用の写真のスライドショーを自ら手を挙げて作っていたり、写真から紐解くお話の舞台を作演出したり、何かと写真をテーマにしたものが好きであることに気づきました。



■キャリア初期に挑んだ初短編のように、もう一度好きなことをやりたい

―――山中崇さんとは初短編作に出演されたことがきっかけで今回の出演につながったそうですが、どんな内容の作品だったのですか?

長部:部活とドライブを組み合わせた『ドライ部』というタイトルで、僕のキャリア初期に自主で作った短編です。浮き輪の営業マンの先輩役に山中さん、後輩役に眞島秀和さんをキャスティングし、先輩が仕事中になぜか連れてきていた彼女がいなくなってしまい二人で探す、というコメディ会話劇でした。昭和的な先輩後輩の関係が、入社歴では後輩だけど、実年齢では後輩社員が年上だったことがわかり、逆転した関係になってギクシャクする。最後はそれらを超えて友達になるというお話でした。


―――キャリア初期での短編でご一緒した山中さんと20年近く時を経て、新たに短編でご一緒するというのは、感慨深いのでは?

長部:ずっとCMの仕事一筋で頑張ってきたのですが、数年前に大病を患い、もともと『ドライ部』のように好きなことをやっていたなと、当時を振り返ったのです。山中さんと再びタッグを組んでああいうことをまたやりたいと思い、松野プロデューサーに企画を出させてもらいました。いろいろなタイミングがうまく重なりました。



■嶋田久作の出演で、意識的に作品のトーンを変える

―――暉峻プログラミング・ディレクターにインタビューをしたとき、本作について「長部洋平監督の、俳優陣の力量に対する信頼が表れている。自分の作家世界を強烈に押し出すのとは逆パターンで、俳優たちにどんなことをしてもらうと、画に説得力が出るかをむしろ意識して作った映画」と評しておられましたが、監督ご自身で企画を出したことが出発点になっていたんですね。

長部:確かに出発点は僕ですが、一方で暉峻さんがおっしゃっていたことは結構的を得ていると思っていました。父親のことを掘り下げていくことがあまりに辛くなってしまい防衛本能が働いてしまうこともあったのですが、嶋田久作さんのご出演が決まったことで、自分の中で作品自身のトーンがパン!とエンタメに変わりました。広告の仕事をしているので、客観的になったり、お客さま目線になるのですが、今回も意識的に変えた部分であり、僕的には良かったと思っています。父親役が別の人だったら、作品の空気感も変わっていたでしょうし、ここまで品が出なかったかな(笑)。だから、暉峻さんがご指摘された「役者のいいところを引き出す」という部分は合っていて、見抜かれているなと思いました。


―――主人公が子ども時代を振り返るシーンも多々登場しますが、嶋田さんは若い頃の父親から、晩年までを見事に演じ分けておられますね。

長部:ものすごくロジカルな部分もありつつ、演技の塩梅を感覚的に掴んでおられて、演じていただいたら、僕のイメージ通りでさすがプロフェッショナルだと感動しました。認知症というセンシティブな症状を持ちながらも、話を進める上で、ここで振り返らなくてはいけないとか、動作の塩梅をきちんと体現してくださいましたね。


―――嶋田さんのお芝居に呼応し、息子、燈馬役の山中さんのお芝居も非常に繊細でした。

長部:撮影中はずっと山中さんが嶋田さんの送り迎えをされていました。父と息子のドライブシーンの感情を持ちながら、運転されていたのだと思います。山中さんの役作りへの緻密さを感じるエピソードは他にもあり、例えば燈馬が使っているカメラもスチールの方からお借りしたものを2週間ぐらい使って役への準備をされている。セリフ一つとっても、電話で夜中じゅう話をさせてもらい「これは言わないですよね」と変更したり、山中さんからはディテールの大事さやその積み重ね方をすごく学ばせてもらいました。



■会話の排除を提案され、一から挑む

―――セリフ自体は本当に少ないので、その分燈馬が発する言葉がとても大事になりますね。

長部:松野プロデューサーが最初に、なるべく会話を排除した方がいいのではないかと提案してくださいました。僕は今まで会話中心で映像を作ってきたので、自分の持ち味が全部奪われてしまい、逆にとても面白いなと思ったんです。自分の中のロジックが一つもないので、改めて画から入るにはどうしたらいいかを勉強したり、絵コンテを描いてみたりと映画作りのフローを学ばせてもらいながら、作っていきました。そうすると、言葉をなくす作業が凄く心地良くなってきましたね。基本、CM制作は“抜いていく”作業なので、今回はコンパクトになる中で、さらに削減された言葉が、いい落とし所に入っていきました。


―――記憶の映画でもありますが、燈馬たちの家は監督のご自宅だそうですね。

長部:弟の走が出てきた部屋は、完全に20年間僕の部屋だったところです。最後僕の母親から「もっと綺麗にしておけばよかった」と言われましたけど(笑)。部屋数が多いので撮影場所としてだけでなく、スタッフ部屋も用意できてとても喜ばれました。



■エンドロールと七尾旅人の主題歌

―――エンドロールには子どもの頃の燈馬が「TOMA2号」と名付けた使い捨てカメラで撮影した写真が登場し、家族の記憶につながります。

長部:写真のスライドショーが好きなので、あのエンドロールがやりたかった。あと、七尾旅人さんに主題歌で参加していただけることになり、曲を切りたくないのでエンドロールの尺がすごく伸びてしまったのですが、そこをうまく利用することで、自分の中の理想的なエンドロールをお見せすることができましたね。


―――主題歌は七尾旅人さんが本作のために書き下ろされたそうですね。

長部:七尾さんが脚本を読んでから作ってくださいました。七尾さんもディテールにすごくこだわりを持って挑まれており、とても尊敬しています。最初にいただいたデモ音源はギター一発録りでそれもすごく良かったのですが、完成版は七尾さんのメロウな部分がより出ていて、そのこだわりに感銘を受けました。


―――ディテールといえば、子どもの燈馬がダンボールで手作りしたカメラに「TOMA1号」と名付け、写真を撮る遊びをしていたのが印象的ですが、ご自身の体験ですか?

長部:おもちゃを与えられるというより、紙があれば何でも作れるでしょうという両親だったので、ティッシュの空き箱を渡されてクラフトをしたりと、クリエイティブなことをやっていました。「カシャッ!と言えば、撮ったことにする」というような遊びを創っていましたので、幼少期とリンクしていますね。


■長編でしか描けない物語に挑戦してみたい

―――今後、長編に取り組むお考えは?

長部:やってみたいという気持ちはもちろんあります。この短編はこれで成立しているけれど、水間さんが演じた弟のことを掘り下げたらどうなるかとか、もう一軸作ることで話を膨らませたり、この尺で描けない家族の物語なども、取り組んでみたいですね。

(江口由美)



<作品紹介>

『TOMA2号』 (2023年 日本 20分)

監督:長部洋平 脚本:鷲頭紀子、長部洋平

出演:山中崇、嶋田久作、水間ロン、川口花乃子、城戸俊嶺

https://www.oaff.jp/2023/ja/program/if07.html

第18回大阪アジアン映画祭公式サイト

https://www.oaff.jp/2023/ja/index.html