第18回大阪アジアン映画祭、焦点監督の魅力に迫る!『甘露』『Shall We Love You?』田中晴菜監督、主演・岡慶悟さんインタビュー


 3月10日より開催中の第18回大阪アジアン映画祭で、3月11日、インディ・フォーラム部門《焦点監督:田中晴菜》の『甘露』『Shall We Love You?』が上映された。

   ワンシーンワンカットの手法で、祖父の元駄菓子屋で遺品整理をしている兄と、日頃実家に戻らない弟が、思い出の甘露について語る家族の情景、『甘露』はこの日が世界初上映。また、同じ手法で、演劇部の女子部員3名が、台本の読み合わせをしながら幸せについて考える『Shall We Love You?』も同時上映され、同じ手法ながら、そのテイストや味わいの違いを感じることができる。

 OAFF2023焦点監督として今後の活躍が期待される本作の田中晴菜監督と『甘露』主演の岡慶悟さんにお話を伺った。



■いい環境での上映、大勢のお客さまに観ていただけてうれしい(田中)
東日本大震災の日以来、12年ぶりのOAFF、お客さまの熱量をすごく感じる(岡)

―――まずは『甘露』の世界初上映を終わってのお気持ちや、田中監督は焦点監督として大阪アジアン映画祭へ参加することについてお聞かせください。

田中:大阪アジアン映画祭は初参加ですが、とてもいい環境で上映していただき、あれだけ大きなスクリーンで、大勢のお客さまに観ていただけたことが嬉しいです。

岡:大阪アジアン映画祭に初めて参加したのは、東日本大震災が起きた日(3月11日)で、ちょうど12年前になります。僕は完山京洪監督の『seesaw』の出演者として来ていたのですが、以前桃井かおりさん(『雨夜 香港コンフィデンシャル』で来場)の付き人もしていたので、かおりさんとこの映画祭で再会出来て楽屋でお話をさせていただいたことも思い出深いですね。ですから、とても縁を感じる1日です。当時の印象から、この映画祭は本当に素晴らしいと思っていたので、ずっと行きたかったんです。田中監督の『甘露』はとても好きな作品なので、出演して来させてもらったのは嬉しいですし、上映後感銘を受けたお客さまが僕のところに感想を言いにきてくださり、お客さまの熱量もすごく感じますね。楽しいです。



■映画と同じ状況下で、岡慶悟、田中一平の二人に当て書きした『甘露』

―――『甘露』のどんな点が魅力でしょうか?

岡:自分と重なる部分が結構多いかもしれません。相手役の田中一平さんとも、日頃から兄弟のように仲が良く、また一緒にお芝居する機会も多いので、田中監督がそういう関係性を見込んだ上でキャスティングしてくれました。いろいろな家族の形があると思いますが、僕の家族はみんなとてもシャイなので、何枚ものオブラートに包んでしまい、本質にたどりつくのにとても時間がかかるのです。だから、『甘露』の⼤吾と、めったに実家へ帰らない弟、蒼⾺との関係はとてもやりやすかったですね。


―――田中監督のご実家である元駄菓子屋さんで撮影したそうですが、やはり監督ご自身の思い出の一つが、甘露なのですか?

田中:映画にも登場するアイスケースの上に常に「カンロ」の入れ物が乗っかっていて、小さい頃からお店で売っている物というイメージがありました。ローカルフードなので、他の土地の方にはどんなものか想像がつき難いかもしれませんが、わたしの中に強い思い出として残っています。わたしの祖母が駄菓子や「カンロ」を売っていたのですが、コロナ下で亡くなり、遺品を整理したという、本作の設定とまさに同じような状況だったんです。この駄菓子屋はこれから取り壊される予定なので、なくなるまえにこの場所で撮りたいと思いました。岡さんと、田中(一平)さんの二人で何か撮りたいと話していたので、わたしは姉妹なのを置き換えて、兄弟の話にし、その二人に合わせて当て書きしていきました。



■ワンシーンワンカットの枠がなければ、自分からはやらなかった

―――『甘露』は斜めの角度から、『Shall We Love You?』は真正面からのワンシーンワンカットで、田中監督の作家性がすでに確立しているような印象を受けるのですが。

田中:名古屋の「ギャラリーN」さんというところで1シーン1カット、15分以内の作品を募集されていたことがあり、それが撮るきっかけになりました。『甘露』と『Shall We Love You?』はほぼ同時進行で、わたしとカメラマンなどのスタッフは同じメンバーで、キャストさんを入れ替えて次の日は別の作品を撮るという感じで続けて撮っていきました。

だから、ワンシーンワンカットは最初からその枠がなければ、自分からやってみようとは思っていなかったんです。


―――それは意外でした。

田中:実際に撮影する前は、編集が不要だから普段より楽になるんじゃないかと思っていたのですが、全然そうではなかった。編集すれば撮影素材のいいとこ取りができますが、ワンシーンワンカットだと絶対にそれしか選べない。だから、すごく迷って今のカットに落ち着いたのですが、それでもやってみると面白かったですね。



■言葉のリズム、キャラクターのバックグラウンドの描写が丁寧な脚本

―――演じる側として12分ワンカットというのは、結構プレッシャーですよね。アドリブで演じるのではなく、脚本がありますし。

岡:田中監督の脚本は、言葉のリズムやキャラクターのバックグラウンドの描写がとても丁寧なんです。なぜ⼤吾という名前になっているのかというその由来から書いてくださるので、セリフを言うときは、リズムや言い回しをなるべく忠実にやろうと、一平君とは自主的に練習しました。


田中:映画を撮ると決めてから撮影本番まであまり時間がなかったので、不安にさせてしまったかもしれません。岡さんとは結構長い間、何作品もご一緒させていただいているので、撮影前に一度打ち合わせをすれば、まあいけるでしょうと(笑)


岡:『甘露』のセリフは結構韻を踏んでいるので、言う順番が変わってしまうとせっかくの脚本がもったいない。だから頑張りました!


■夕陽を狙ったショット

―――現場で田中監督からどんな演出や指導を受けたのですか?

岡:田中監督は現場でと言うより、現場に入るまでに、あとあとちょっと気づくようなことを投げかけるという感じでやんわりと演出してくださるんです。現場ではニコニコ笑ってモニターを見ておられて、「今日終わった後のお店も、予約してます!」と。


田中:頑張って撮りきりましょうというメッセージでもあります(笑)。『甘露』は夕陽が店先に当たる時間帯を狙っていたので、夕方に一番いいカットが撮れたのはすごくよかったです。朝から撮影していたのですが、一番いい陽が当たっていて、かつもともと入れる予定ではなかったセリフを田中さんが言っているのがその1回だけだった。ほぼ脚本を書いているのですが、最後の方は二人にお任せしていて、そのアドリブの部分は二人の関係性があったからこそ出た部分ですし、その偶然の感じが良かったですね。


―――後半部分は少し摩訶不思議さや、時空の歪みのようなものも感じました。

岡:田中監督の作品には、今のリアルライフから死後の世界へ、どこか風穴が空いているような、あちら側に入っていけるルートが見えてハッとする瞬間があるんです。この世界のいつもすぐ隣にあるという感じが好きですね。



■キラキラしたテイストの『Shall We Love You?』は「やる気のツボを押されて」

―――『Shall We Love You?』はオスカー・ワイルドの童話童話「The Happy Prince(幸福な王⼦)」をめぐる演劇部3人の会話劇です。

田中:母校の体育館の2階を貸してもらい、撮影のことはお伝えしていたのですが、ふらっと入って去っていく生徒がモニターで見えた時には驚きましたが、いい感じの横切り方だったのでそのまま撮り続けて、後から了承を経て、本編として使わせてもらっています。


岡:僕が初めて田中監督とご一緒したのが5年前の『いきうつし』(あいち女性国際映画祭2018短編部門グランプリ受賞作)で、それから5作ぐらい一緒にさせていただいたのですが、今日の『Shall We Love You?』を観て、驚きましたね。こんなにオシャレでキュンキュンする映画を撮られるようになられたんだなと(笑)。


田中:今まで渋い感じの作品が多かったですから(笑)『Shall We Love You?』は、その一つ前に同じく「幸福の王子」をベースにした未公開作『幸福な装置』を撮ったとき、撮影の中島浩一さんと追加撮影でおしゃべりした中から生まれた作品で、わたし単独ではなかなか出てこないようなテイストの作品です。確か、中島さんから「女子高生の演劇部の話」とという案が出て、私はあんまりキラキラしたものは撮れないかもと思っていたのですが、うまくわたしの中にある「これなら撮れそう、撮りたい」のツボを押してくれたんです。


■自主制作からステップアップを目指して

―――最後に、母校、ニューシネマワークショップの企画コンペで受賞されていましたが、長編にチャレンジですか?

田中:長編はとても撮りたいです。企画や撮りたいものの構想はあるので、長編を撮れるように精進していきたいです。ニューシネマワークショップのコンペは短編脚本のコンペではあったのですが、短編のまま進めるのか、長編として撮るか検討しているところです。次回撮るものは気合を入れて撮りたい。一方で撮りたい短編の企画もあり…という状況なのですが、今まで自主制作でやってきたので、今後は次のステージにステップアップしていきたいです。

(江口由美)


<作品紹介>

『甘露』(2023年 日本 12分)

監督・脚本:田中晴菜

出演:岡慶悟、田中一平

https://www.oaff.jp/2023/ja/program/ifd01.html


『Shall We Love You?』 (2022年 日本 7分)

監督・脚本:田中晴菜

出演:森川錦、今城沙耶、西田奈未

https://www.oaff.jp/2023/ja/program/ifd02.html


第18回大阪アジアン映画祭公式サイト

https://www.oaff.jp/2022/ja/index.html