早瀬直久さんの劇中曲弾き歌いに三島有紀子監督が感涙。「みなさんのご協力で作れたこの映画は、私にとって最も美しい映画になった」『一月の声に歓びを刻め』舞台挨拶


 北海道・洞爺湖の中島、八丈島、大阪・堂島の三つの島を舞台に、自身が長年向き合って来た事件をモチーフにして編み上げた三島有紀子監督最新作、『一月の声に歓びを刻め』が2月9日から絶賛公開中だ。公開3日目、シネ・リーブル梅田で行われた舞台挨拶では、三島有紀子監督、山嵜晋平プロデューサーに加え、スペシャルゲストとしてシンガーソングライター、プロデューサーの早瀬直久さんが登壇した。



 もともとミュージシャンの奇妙礼太郎さんが好きでライブに行っていたという三島監督。ミニシアター、ポレポレ東中野に併設のカフェで脚本を書いているときに、「きになる」という曲を聞いて、はたと手が止まったという。主人公のれいこは幼い頃の忌まわしい体験から、花に対しても忌まわしい記憶を持っているが、「『気になる人に花を送ればいいよ』という歌詞がすとんと胸に落ちてきました。前向きに生きようと歌うのではなく、れいこの花に対する思いが少しでも変わればいいなと、楽曲の使用許可を得られるかわからなかったけれど思わず脚本に書いてしまったんです」と曲との運命の出会いを明かした。

 早瀬さんは「木に花が咲くという明るいイメージの曲。何かが気になるところからはじまることをポップに書きたかった。例えば戦争反対というよりもご飯が美味しいというように、人に対する興味などを『気になる人に花を送ればいいよ』と書いたのです」と曲の狙いについて語ると、三島監督からは「気になると木になる(実る)とかけているのがいいですね」とさらに楽曲の魅力を深掘りする一幕も。



 そんな早瀬さんは「人それぞれの時間、刻まれるものがすごい。軽く言えないことだらけ」と本作の感想を明かすと、三島監督は「原田龍二さんは『すぐに言葉にできない、感じている時間が長く、今までにない感情が生まれる作品』と言ってくれました。映画を観て感じていただき、時間が経った中でご自身の中に発見が生まれればいいなと思って作りました」と語り、大阪・中之島編の地元の同級生たちの大きなサポートに感謝した。その大阪編は唯一モノクロだが、そこには事件以降の三島監督自身が、世界が白黒に見えていたからと説明。

「映画館で映画を観ることで(自分自身が)救われました。もがきながら一生懸命生きていく姿は美しいし、生命存在の素晴らしさは誰にも奪えない。その体験は映画を作るきっかけにもなっていると思います。かつての自分みたいな人に向けて、作家としていつかは作らなければいけないと思っていました。47年経って、やっと映画を作る仲間に事件のことを話することができたので、作るなら今だと思いました」。



 舞台挨拶終盤では、早瀬直久さんが「きになる」をフルコーラスで弾き歌い。前田敦子がれいことして歌ったバージョンとはまた違う、心臓にズドンと響く歌声に、真横で体を揺らしながら聞いていた三島監督も「この映画を生んでよかった」と思わず感涙。メメント・モリから死を歌う短い楽曲「モリ」も披露。本作と同様に本質を見つめる素晴らしい曲に観客からも大きな拍手が送られた。

最後に三島監督は、「映画を信じて映画監督になり、これが長編10本目になります。映画を信じて観にきてくださったみなさんのご協力で作れたこの映画は、わたしにとっていろんな意味で、最も美しい映画になったと思います」と締めくくった。

(江口由美)


<作品情報>

『一月の声に歓びを刻め』(2023年 日本 118分)

監督・脚本:三島有紀子

出演:前田敦子、カルーセル麻紀、哀川翔、坂東龍汰、片岡礼子、宇野祥平、原田龍二、松本妃代、長田詩音、とよた真帆

公式サイト→ https://ichikoe.com/

2024年2月9日(金)よりシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、アップリンク京都、イオンシネマ大日、MOVIXあまがさき他で絶賛公開中

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