亡き父のにおいを探してミニシアターを巡る『においが眠るまで』東かほり監督、永妻優一さん(脚本)、蒼井旬さん(出演)インタビュー


 第19回大阪アジアン映画祭(OAFF2024)のコンペティション部門に入選し、世界初上映された東かほり監督最新作『においが眠るまで』が、4月6日(土)より御成座(秋田)、シネコヤ(神奈川)にて公開される。

 OAFF2022焦点監督として『ほとぼりメルトサウンズ』と短編『暮らしの残像』が上映された東監督。今作はチケット収入すべてを上映するミニシアターに売り上げ貢献する企画となる。映画館が好きだった亡き父のにおいを探す17歳の少女の旅から、においと記憶の物語を紡いでいる。

主人公、ひのき役に映画初主演の池田レイラ(完熟フレッシュ)、ひのきに思いを寄せる同級生みのる役に蒼井旬(映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』など)を起用した他、紗羅マリー、浅野千鶴、矢柴俊博らが脇を固める。御成座やシネコヤでロケを敢行した本作の東かほり監督、脚本の永妻優一さん、出演の蒼井旬さんにお話を伺った。



■大阪アジアン映画祭で感激の世界初上映

―――まず、大阪アジアン映画祭での世界初上映を終えての感想を教えてください。

東:『ほとぼりメルトサウンズ』のときもそうですが、今回も脚本の永妻さんと時間をかけてやりとりし、改稿を重ねて作った作品なので、映像化したものを永妻さんに初めて観てもらえたのはうれしかったです。蒼井さんも初めてわたしの作品に出演してもらいましたが、オーディションのときから独自の魅力を放っていたので、スクリーンに映る姿を見て改めて感激しました。本当にできたばかりの作品だったので最初は緊張しましたが、大スクリーンで、みなさんと一緒に映画を見ている時間を楽しみました。

蒼井:初見だったので(上映後の)舞台挨拶より映画を見ている方が緊張しました。自分の出演シーンは「今ならもうちょっとこうするのに…」と思うところもありましたが、映画はおもしろくてすごく笑いましたし、東監督や永妻さんの脚本、キャストのみなさんのお芝居も本当に凄いなと実感しました。次はもっと頑張りたいです。

永妻:東さんとはいつも長い時間をかけて脚本を作っています。本作も2022年6月に最初の打ち合わせをしており、少しずつ打ち合わせを重ねながら作り上げてきたので、役者のみなさんの演技も素晴らしいし、僕たちが積み上げたセリフがこんなに豊かになっていったことにすごく感動しました。改めてみんなで作る映画の力を実感しています。



■東監督の発想や日常から拾う言葉、夢を脚本で広げる

―――永妻さんは『ほとぼりメルトサウンズ』『暮らしの残像』も脚本を務めておられますが、おふたりがタッグを組むようになったきっかけは?

東:2020年ごろ、初長編『ほとぼりメルトサウンズ』の脚本を書くときに、ひとりだと不安なので一緒にやりとりを重ねながら脚本を書いてくださる方を探していたとき、信頼できる友人から永妻さんのことを紹介していただきました。新宿の喫茶店、ピースで初めてお会いしたのですが、第一印象からずっと本当にいい方で、お人柄も良いのでぜひとお願いしたのです。

永妻:東さんの発想や日常から拾ってくる言葉がとても面白いので、東さんが面白いと思ったことをいかに脚本の中で広げられるかをすごく大切にしています。打ち合わせで「昨日見た夢を映画に入れたい」とおっしゃることもあって。

東:本作の冒頭に過去の思い出のものが美術館のように展示されているシーンがありますが、これは実際に見たわたしの夢の中のエピソードが反映されています。夢では体育館の中にずらりと展示台が置かれていて、クリアケースの中に入っている物が、赤ちゃん用のおもちゃや、体操服やランドセル、高校の制服など、人の成長を表すものでした。そこに女子高生がやってきて、「私の人生で楽しかった日にまつわるものが展示されているの」と教えてくれたんです。でも高校卒業以降のものはなかったので、多分この女子高生は大人になる前に亡くなってしまったんだなと思ったときに目が覚めました。この情景を映像にしたくて、脚本に入れてもらいました。


―――このシーンはわたしもすごくいいアイデアだなとか、みんなそれぞれの「思い出の品を考える」ワークショップができるなとか、いろいろな発想を膨らませながら拝見しました。今回はミニシアターを巡っていきますが、その存在すら知らない若い世代の主人公たちが訪れるという設定がいいですね。

東:プロットを書いていたときから、話の内容は変わっても主人公の設定は17歳の女の子でした。昔の自分を投影している部分があり、17歳当時の感性で昔ながらのミニシアターを見ると、逆に新しい気持ちになったりするのかなと思い、主人公ひのきの旅を、あの頃の自分に見せてあげたいという思いがあったのです



■蒼井旬の癖を役にも活かして

―――蒼井さんは、同級生女子のノリになじめず、独自のこだわりを持つひのきのことが気になっているみのる役ですが、オーディションで選ばれたそうですね。

蒼井:仕事と仕事の合間に、すっと入ったオーディションだったので、ヤバい!セリフ覚えなきゃ!という感じで挑んだのですが、同年代の人もたくさん受けていたので「お前も来てるのか!」と控え室で男子同士のグループみたいなものができていて、おもしろかったです。オーディション自体は、東監督の前で演技をし、監督からの指示で修正していくような内容でした。

東:オーディションをする中で、蒼井さんと話しをした瞬間から、みのるだ!と感じました。話をするときの蒼井さんの表情や、予想外の動きをする姿が興味深くて。ここで笑うんだとか、独特の癖が出たりする感じがすごく良かったんです。映画の中でもその癖を入れてもらうように演出しました。他にも蒼井さんは集中するときに行う動きがあり、それも魅力的でしたね。


―――東監督の観察力が、みのる役の演出にも活きていたんですね。主演の池田レイラさんも本当にフレッシュな魅力が全開でした。

東:レイラさんは芝居をほぼやったことがなく、主演も初めてでしたが、ずっと親子で漫才をやっているからか、初日からセリフが完璧に頭にはいっていて驚きました。わたしがイメージしているひのき像や、入れて欲しい癖、歩き方など細かい要望をたくさんお願いしていたのですが、レイラさんはそれを最初から最後まで忘れずに入れていて、撮影中にどんどんひのきと同様変わっていってくれました。いい意味でオーディションの際とは全然違い、しっかりと自分でキャラクターを作ってくれていて感激しました。



■みのるとひのきの関係性と撮影秘話

―――蒼井さんが演じるみのるは、ひのきのことが好きだと最初から観客にはわかる一方でそんなひのきの一人旅を心配し、探しに行く面倒見の良さもあります。

東:私が10代の頃、人を好きなる感覚がわからない時期があったことや、異性の友達への憧れがあったことなども、みのるのキャラクターに繋がっているのかもしれないです。

永妻:ひのきとみのるを会話させることで、ふたりの関係性からみのるのキャラクターが出来上がった気がします。

東:わたし自身もゆで卵が好きだし、ひのきのセリフはわたしが主に書き、みのるのセリフは永妻さんの書いたものが多いですね。


―――池田レイラさんとのシーンが多いですが、現場ではどんな感じでしたか?

蒼井:撮影初日、僕は緊張していたのですが、待ち時間の間、池田さんがすごくたくさんお話ししてくださいました。池田さんは大学生で僕は高校1年生なので3つぐらい歳が離れているのですが、学校のことだとか色々お話でき、僕もリラックスできましたし、すごく素敵な人だなと思いました。

東:ふたりが見つめ合うシーンがあるのですが、「なんか照れる」と言いながら笑いあったりしていて、その様子を見ながらニヤニヤキュンキュンしてしまいました。すみません(笑)


―――真っ青の空がバックで、青春映画そのもののいいシーンですね。

蒼井:僕が唐揚げ棒を食べている設定だったので、本番までにすでに5本ぐらい食べていて、本番では池田さん演じるひのきから思いっきりビンタされるので、思わず唐揚げが出てきそうになりました(笑)。日頃、ビンタされることないですから。



■ミニシアターのにおいと映画の記憶がつながって

―――劇中でひのきが訪れる御成座とシネコヤは、わたし自身訪れたことはないけれどそれぞれの映画館の匂いが感じられるようで、常連さんのバリエーションも豊かでした。

東:実際に御成座でどんな常連さんがいらっしゃるかお話を伺ったり、においに詳しい、矢柴俊博さん演じる桜田役については臭気判定士の方や、調香師の方に取材をさせていただいたり、リサーチしたことを取り入れながら作り上げていきました。


―――蒼井さん世代のみなさんは、ミニシアターの存在を知らない人がほとんどだと思いますが、今回撮影でシネコヤを訪れての感想は?また思い出深いシーンを教えてください。

蒼井:すごくオシャレで、アンティークの椅子もあり、雑誌やCDもずらっと並んでいて、シャンデリアもある。すごく良かったですね。豪華すぎて(ドラマの)殺人事件が起きそうな雰囲気にも思えました(笑)。

東:殺人事件!(笑)アンティークのものなど、素敵なものがドラマのセットみたいに見えたのかもしれないですね。

蒼井:ひのきが珈琲を自家焙煎するシーンがあるのですが、夜に撮影していたので月明かりが池田さんを照らし、すごくいい画でしたね。僕の視線からの画が一番良かったと思います。

東:珈琲の香りを立てて上映したいという案もあるんですよ。実際にそこで珈琲を淹れるようなアナログなやり方になるかもしれませんが(笑)



―――においって記憶より先に消えるというセリフもなるほどと思わされました。最後にメッセージをお願いできますか。

永妻:ミニシアターを100%支援企画としての作品なので意義のある映画になっていますし、においを表現するという東さんの新しい世界観が詰まっています。においを楽しみながら、各地のミニシアターで、ご覧いただきたいと思います。

蒼井:映画を見ながら、五感が研ぎ澄まされたり、自分の中でさまざまな思い出につながると思います。人によって出てくる思い出は違うので、みんながいろいろな楽しみ方をできる映画だと思います。ぜひ、ご覧ください。

東:舞台のミニシアターはもちろん、においは普段からわたしが好きなもので、常ににおいを嗅ぐ癖があるんです。そのにおいに記憶もついてくるので、観た方に、においの感覚や記憶について、共感していただけたらうれしいです。また、「この映画をこのミニシアターで観た」という記憶も一緒に覚えていただけたらいいなと思います。

(江口由美) Photo by OAFF


<作品紹介>

『においが眠るまで』Memories of His Scent (2024年 日本 92分)

監督:東かほり 脚本:永妻優一

出演:池田レイラ、蒼井旬、紗羅マリー、浅野千鶴、矢柴俊博

4月6日(土)より御成座(秋田)、シネコヤ(神奈川)にて公開